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★ ★ ★


私は生まれて初めて、スピードスケートをじっくりと観戦する機会が与えられました。

今までの人生でこうしてゆっくりとした感じで観戦する機会はあまりありませんでした。

革命の時期と重なって、普通の人であれば青春時代の思い出となる事は、全て革命の血塗られた思い出しかありません。

お父様も、お母様も……弟も革命で命を落としました。

それ以来、私は唯一ルイ16世の血を受け継いでいた王族という理由で、国家のアイテムと化して翻弄され続けました。


良き夫もいましたが、子供には恵まれず、私の生命が停止してからは恐らく血筋も途絶えたでしょう。

ルイ15世……私からしたら曽祖父ですが、彼が愛人との間に作った子供がいたので、正確に言うと公的な血筋はいなくても、ブルボン王朝の血筋は細分化されて生き延びたのではないかと思います。

なので、こうして温かいホットティーを飲みながら、家族みんなで観戦する機会なんて本当に夢のようです。


私は生まれ変わったらどんな人になるのだろうと思っていましたが、まさか過去の自分自身に生まれ変わるなんて思いもしませんでした。

いえ……正確にいえば私の知っている過去ではありませんでした。

お父様はどこか以前の様子と違っていたのでもしかして……と思い話しかけたところ、お父様も未来の歴史を認知していたようで、その時の記憶を頼りにフランス革命を回避するために様々な策を打っていたそうです。


そうした尽力によって、今のフランスは私が知っている中でも一番に繁栄している状態です。

こうして人々が集まってスケートやカーリングを鑑賞する事は私の幼年期では殆どありませんでしたし、人々の心は荒んでいて、王族や貴族に向けられる目は冷たいものでした。

最初の紅茶を飲み終えて、ブリジットに紅茶のおかわりを頼むとお父様が話しかけてきました。


「スピードスケートだから、早く周回して滑り切った人の勝ちだね……テレーズは見ていて楽しいかい?」

「そうですね楽しいですよ……近くにいると早すぎても追えませんし……ただ、一つ心配な事があります」

「おや、何か気になることでもあるのかい?」

「速さを競う競技だとリングの外側に飛び出して行かないか心配ですね……」

「ああ、それなら心配ないよ……ほら、選手はヘルメットを装着しているし、それに外壁には柔らかいウールを緩衝材を敷き詰めているから当たっても身体を守れるようにしているんだ。それに怪我も軽く済むようにしているんだ」


お父様曰く、スケートで滑って怪我をしないように頭を守るためのヘルメットなども選手向けに作られたのだそうです。

また、緩衝材としてウールを使っていることにより、万が一衝突してしまっても怪我も軽く済むようにしたのだそうです。


「コースの外壁は柔らかいウールが使われていると聞きましたが……それだけ衝突することも多かったのですか?」

「やはり速度を競うだけあって、スピードスケートは文字通り速度が早くなるんだよね……おまけに、氷の上は滑りやすいからツルーンと滑ったらそのまま何かに当たるまで止まらないのさ……だから木製の柵とかにしちゃうとぶつかったときに怪我をしやすいというわけさ」

「そうだったのですね……あっ、お父様!選手の人が入ってきましたわ!」


予選とはいえ、各地のスピードスケートで鍛えられた選手が入ってきました。

赤い衣装を身にまとうのはセルジー、対して青色の衣装で入ってきたのは地元ベルサイユの選手です。

セルジーには貯水池があり、そこで本格的な練習をしていたのだそうです。

またヴェルサイユの選手は元グレートブリテン王国のスピードスケートの教練をしていた軍人さんによって徹底的に鍛え上げられたらしく、かなりガッチリとした体形の方が入ってきました。


「あの二人が早速対戦するとは……かなり強い事で知られている選手ですよ」

「あら、ブリジットも観戦とかしにいくのですか?」

「はいっ!お休みの日には仲のいい人と一緒に滑りにいきますよ!」


色々と身の回りの世話をしてくれるブリジットは嬉しそうに答えてくれた。

前世での彼女はうっすらとしか覚えていないが、お父様は世話係をあまり大々的に変えていないみたいです。

お母様もそうですが、お父様同様に色々と変わっているなと思いました。


一番性格が変わっているといえばスタニスラス叔父さんでしょうか……。

前世ではお父様やお母様と反目しあっていたということもあって、私への態度もあまり良いものではありませんでした。

プライドが高く、何かと「俺は天才だ!誰にも俺より優れた王族はいない!」と豪胆するようなお人でした。

確かに、勉学などは凄くて教養があったのですが……あまり良い人という印象はありませんでした。


ですが、こちらの世界ではなんとお父様と笑顔で会話している程に仲が良いのです!

曰く、お父様が前世の記憶を取り戻した際に、スタニスラス叔父さんとは対立せず、むしろ上昇志向である叔父さんの性格を仕事で使おうということになり、諸外国の貴族の方々との面談などを執り行い、その功績が認められて外務省のトップになったとのことです。

そして教育改革でも発言権を有しており、その能力を見込んで子供達への教育を行う教師への統一カリキュラムへの指導などにも良い影響を与えたのです。


『どうしてお父様はスタニスラス叔父さんと仲良くなったのですか?』

『ああ、スタニスラスは元々プライドが高いからね……なら、そのプライドを傷つけずに兄である私よりも優れた部分を引き立てるようにすれば彼だって満足するからね……彼の良い部分を伸ばしていけば対立ではなく協力関係としてうまくやっていけるのさ』


あのスタニスラス叔父さんを手懐けてしまうとは……本当にお父様はスゴイです。

なんというか……本当にお父様ですけど別人みたいです。

色々と知恵も回っており、そのおかげでこうして観戦もできるのは嬉しい限りです。

ブリジットも楽しそうに観戦しており、会場も本命の選手が入場してくると拍手や歓声がより一段と増してきました。


スピードスケートは個人戦と団体戦があり、今日は個人戦の予選を行って勝敗を争うのだそうです。

各地域から選出された選手がぞろぞろと入ってきた後、公平性を期すために外側を滑る選手には前の位置からのスタートになるそうです。

スタートラインの位置を整えてから選手の皆さんは態勢を整えます。

その瞬間に騒音が鎮まり、競技用の合図として用意された銃で空砲を空に向けて発射しました。


―パァァン!


その音に合わせるように一斉に選手が氷の上で動きました。

様々なユニフォームを着た選手が氷の上を駆けていきます。

颯爽と身体を動かしてグングンとスピードを上げていきます。

観客席では歓声と掛け声がこだましております。


「いけーっ!セルジーの底力を見せてやれ!」

「ヴェルサイユの地元愛で乗り切れ!コースも何度も練習したはずだ!頑張れ!」

「いいぞ!いいぞ!どんどん加速していくぞ!」

「負けないで!そのまま相手を突き放して!」


会場の熱気が物凄いです。

私達がいるのは王族関係者専用の特等席ですが、それでも会場の熱気が冷めることはありません。

この情熱と熱気が続く限り、フランスの未来もきっと明るく希望に満ちあふれているでしょう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 流石に、西洋の価値観で生まれ変わりはないと思いますよ汗 死んだら天国か地獄かと言う二択ですから
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