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408/1022

406:黄昏

初投稿です。

復興道路には大勢の人々が詰めかけてハウザーの最期を惜しんでいた。

特に、彼の功績などを聞きつけたユダヤ人やユダヤ系の住民、さらに改革派が多数を占めるパリ大学の生徒たちなどが道路に詰めかけて彼の棺に見立てたフランス国旗が包まれた馬車に向かって頭を下げたり敬礼などをしている。


国葬は問題なく行われた。


これから憲兵隊や国土管理局の警備部隊が国内外の要人を指定された宮殿やホテルに移動する際のエスコートを行うことになっている。

ハウザーの国葬に対して攻撃をしてきたりする不届き者が出なかったのは良かったが、参列している人達に対してテロ攻撃に値する事をしでかす人間がいないとも限らない。


現代でも葬儀の式典などを狙った事件などは起きており、有名な例を挙げるとすれば昭和天皇が崩御し大喪の礼が行われている最中に、中央自動車道で過激派グループによる爆弾テロが起こり、道路の側面に面していた土砂が爆弾によって吹き飛ばされて道路を寸断する事が起こった例もある。


爆薬を満載した馬車を飛ばして突っ込んだりする事例も、グレートブリテン王国内戦時に確認されているので、そうした悪い前例に従って行動する連中に攻撃の手段を与えないように警備は物凄く厳重にしている。


要人の乗っている馬車1輌につき警護用の馬車を4輌派遣しており、宮殿やホテルに宿泊する際の移動手段としてもパリ中の道路を規制した状態で走らせている。

また、道路の情報なども逐一パリ中央の交通情報指揮所に報告が行われているので、交差点に立っている交通誘導員の指示により、大通りで安全な道を優先して馬車を走らせているのだ。


「これでハウザーおじさんともさよならするの?」

「そうだよ。さっ、ハウザーおじさんにお別れの言葉を言おうね」

「バイバイハウザーおじさん……またね……」

「ハウザーさん……さようなら……」


テレーズやジョセフも最後にハウザーに別れの挨拶をしていた。

ジョセフはいつか、またどこかで会えるような感じで別れの言葉を掛けており、テレーズに関してはフランス革命の原因を排除してくれた立役者であることを伝えている。

そうしたこともあってか、別れ際には薄っすらと涙をにじませていた。

アントワネットに至ってはハンカチで目元を抑えていた程だ。

それだけ、ハウザーが俺達にとっては大切な人であったのだ。


「陛下……出発はあと10分ほどかかりますがよろしいでしょうか?」

「ああ、問題ないよ。先ずは要人の方々を宮殿やホテルに案内してやってほしい。くれぐれも危険な事が起こったら必ず知らせてほしい。どんなに些細な事でもだ……」

「御意」


休憩室で休んでいると憲兵隊のスイス人の軍人が俺に報告してくれた。

要人の方々には王族関係者も大勢いる。

彼らの身の安全が最優先だ。

この休憩室の内側だけでも国土管理局の職員が4人、外には国土管理局と憲兵隊の兵士が警護に当たっている。


王立国際展示場会場の周辺だけで数百人の警備の者が任務に当たっている。

これだけいれば大丈夫だろうと思うかもしれないが慢心は禁物だ。

警備に当たっている兵士達には立ち入り禁止区域に無許可で入った者や、警備兵に対してちょっかいを出した者にはどんな手段を使ってでも制圧しても構わないと許可している。


「さてと……この空いている時間を使ってメモを取るか……」


そして馬車に戻ってから俺はメモ帳とペン、そしてインクを取り出す。

今回の国葬で出会った各国の要人との会話などを整理し、メモ帳にまとめ上げている。

羽ペンを使って書いているのだ。


万年筆とかボールペンが欲しいという気持ちはあるが、実のところインク漏れの解決方法がまだ見つかっていない為に実用化されていないのが現状だ。

なのでフランス科学アカデミーや大学などを通じて戦場や揺れ動く船内でもスイスイ書ける新型のペンを開発して欲しいと依頼している最中なのだ。


(うう、やはり羽ペンは固いしボールペンみたいにスラスラと書けないなぁ……せめて万年筆のようなペンが登場してくれると有り難いよなぁ……書類の決裁のサインも労力がバカにならないし……)


そう、やはりこの羽ペンを使うのが正直言ってしんどいのだ。

使い捨てのボールペンを湯水の如く使っていた現代が懐かしく感じてしまうひと時だ。

一回インクを付けてからサーッと書いて、またインクが薄くなりそうになったら付けて書く……。

それも三行ぐらい書いたらまたインクを付けて……の作業を繰り返ししなければならないのだ。

この時代に来てから地味に大変だと思っている作業のベスト3に入っている。


色々と注文ばっかりしているかもしれないが、その分予算などは優先的に配分しているのでこのくらいのワガママを言っても許されると俺は思っている。

本当に早いことボールペンないし万年筆を開発してほしいものだ。

どうもインクがこぼれてしまう問題を解決できれば使えるらしいので、将来的には近いうちに使えるようになるかもしれない。


「お父様、何を書いてらっしゃるのですか?」

「これはねテレーズ、今日会った人達とどんな会話をしていたのかを書き留めるためのものだよ。忘れてしまってはいけないからね……とはいっても、会話中にメモ帳を取り出して書き留めるのは失礼になってしまうから、こうして覚えているうちに書いているんだよ」

「成程……私も大きくなったらそのように致しますね!」

「ハハハ、それは大変結構なことだよ!ただ、メモ帳をどこに入れるか迷ってしまうね……」

「ドレスとかにポケットとかあればいいですけど……いえ、それだとカッコ悪いですわね……」

「そのうちドレスではなくてもっと胸辺りにポケットのある服装が流行するかもしれないね……」


万年筆が登場すれば、どこでもメモを取れるようになるだろう。

今のように羽ペンを使わずにインクさえあれば何度でも長続きして書けるようになる。

それまでの大変な作業が少し楽になるだろう。


(それに……ハウザーが遺してくれた置き土産を大事に使っていかないとな……サルデーニャ王国の高官やフェルディナンド4世との会合でも話すべきことだけど、イタリアの統一に向けた動きを進めていかないとな……でなければプロイセン王国や救世ロシア神国の対策が出来ないぞ……)


そう、この時代のイタリアはバラバラでありミラノやナポリはそれぞれ分離独立をしており、イタリア半島はキリスト教大本山ともいえるローマ教皇が直接支配地域となっている教皇領が存在していたりと、とにかくバラバラの状態なのだ。

現代のようにイタリア半島が国家として統一されたのは19世紀後期になってからである。


ハウザーが遺してくれた置き土産はイタリア統一に向けたプラン内容であり、各イタリア半島に点在する国家群をまとめ上げるために連邦制を含めたプランを用意しているのだ。

明日、イタリア半島に存在する国々の王族やその代表者と共にヴェルサイユ宮殿にてイタリアの統一に向けた話し合いが行われる。


そして、危惧している事もいくつかあり、その中でも両シチリア王国に新市民政府論のような過激な平等主義思想のシンパと思われるメンバーが潜伏しているという情報が入って来ているのだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 万年筆どころか鋼鉄ペン先(つけペン)の発明が、19世紀に入ってから。それも初期の鋼ペン先は硬く紙が破れ易く、しばらくはまだ羽根ペンの天下でしたので。この時期に書きやすくてインク長持ちの…
[一言] 蒸気機関より万年筆の方が簡単で無いですか?
[一言] 鉛筆では?
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