392:Spirale
ライフリング技術が施された試作銃……。
グリボーバルも開発に参加して作らせた銃だけに、実用性に富んだ銃となっている。
比較対象としてモデル1777と並べているが、明らかにライフリング技術を施した試作銃の銃身の長さが目立っている。
とにかく長い!
一目で銃身が長い銃だと分かるレベルだ。
「これはまた随分と長い銃身だな……」
「はい、モデル1777に使われている銃身よりも一回り大きく設計して作りました。まだそれ以上小さくすることが出来ませんので、少々大きい銃身となりました」
約1.25倍近くあるだろうか……長い銃身が特徴的で、弾丸と火薬を詰め込む箇所もこの時代で主流となっている前装式で多くみられる銃の先端の口から詰め込むのではなく右側から弾丸と火薬を詰め込んでゆく後装式だ。
あまりミリタリーには詳しくはないので、どういった技術でこうなったかを説明するのは難しいが、前装式が主流である時代とはいえすでに後装式ライフルに関してはグレートブリテン王国で実用化していたという。
それがファーガソンライフルだ。
新大陸動乱では配備数が間に合わなかったことと、そのあとに起こったグレートブリテン王国の内戦によってごく少数しか出回らなかった銃だが、その銃の基本設計思想はかなり先取りしていたものだ。
現代のライフル銃に似た構造をしており、これで雷管の技術が完成すればボルトアクション式の銃も近いうちに誕生することだろう。
ただ、ボルトアクション式ではないのと、試作銃であることに考慮して陸軍の兵器開発担当者から話を伺うことになる。
「グレートブリテン王国で開発・実戦配備されたファーガソンライフル銃はこれまでのモデル1777をはじめとする前装式のライフルよりも銃の弾込め速度を大幅に短縮する画期的な技術が使われておりました。亡命したグレートブリテン王国の軍人や設計技師によってファーガソンライフルの利点を調べ上げ、ライフリング技術を施した我が国オリジナルの新設計銃として開発致しました。ささっ陛下、どうぞ持ってみてください!」
眼鏡を掛けて如何にもオタクといった感じの担当者から銃を渡されたので、持ってみることにした。
すごく早口であったが、それだけ開発に情熱を注いできた証拠なのだろう。
これまでに狩猟とかに出かけて一昔前のマスケット銃を撃つ機会はあったけど、それに比べてもやはり重い!
―ずっしり……。
銃を持った瞬間に、かなりの重量があることが分かる。
筋トレや運動はしているけど、これはちょっと見た目からして重たそうだなとは思っていたけど想像以上に重たいわ!
それでもって、これはまだ弾込めをしていない状態でこの重さはまずいのではないだろうか?
重量がどのくらいあるのか尋ねてみる。
「ちょ、ちょっと想像していたよりも重いぞこれ……銃身が大きくて長いとなれば重量も増加したんじゃないかな?」
「何分新設計を盛り込んでおりますので、この試作銃の重量も7.5キロとなっております。あくまでも試作段階であり、これからさらに量産型に向けた改良を施してゆく所存でございます」
「それにしてもいくら何でも重たすぎるな……戦場で取り回しがしづらいとかなり苦労するぞ。ロンドンの戦いでは市街地戦で白兵戦が多発したと聞く。重たい武器を振り回していくのも大変だから、もう少し軽量化したほうがいいのではないだろうか?せめて6キロ前後に納めないと運用に支障が出るぞ」
これで弾込めをした状態で撃つとなれば、かなりキツイのではないだろうか?
現代の狙撃銃みたいな感じに地面に伏せてから撃ち込むとか、そういった狙撃銃としてならこの銃はいいかもしれない。
しかし、一般の大勢の兵士が運用するとなれば話は別だ。
マイソールロケットの砲弾を兵士が持って運用するにしても最大重量上限は10キロまで、これは装備品やライフル銃なども含まれているので、実際にマイソールロケットの砲弾を兵士が運用する際には4キロ爆弾までと定められている。
それよりも大きい砲弾に関しては馬車や荷車を使っての運搬を想定している。
この試作銃のままの重さでは一番軽い砲弾しか運搬はできない。
有名なカラシニコフが作り出したアサルトライフルの決定版ともいえるAK-47ですら総重量は弾薬込みで4キロちょいだから……うん、これ現代のアサルトライフルや、この時代の標準的なマスケット銃と比較しても重いわ!
総重量7.5キロは……流石に重い!
一般兵士では使いこなせない……。
これでもまだ弾込めと火薬を入れていない状態なので、おそらくそれを含めれば8キロぐらいになるんじゃないかな……?
「うーむ、確かに性能はいいかもしれないが、扱い方がかなり限定的になるぞ。戦場の会戦で敵の司令官を遠距離から狙うとか、敵国の市街地に潜入して重要人物を暗殺する際に使うとか……そうした限定的な運用であれば大いに力を発揮できるが、この状態ではとてもじゃないが一般の兵士達への運用は難しいぞ」
「はい、陸軍内での銃の性能試験でもその点を指摘されました。現時点では大量生産・大量配備ではなく特殊性の高い部隊や諜報員による暗殺や後方攪乱の為に使う銃となりえるでしょう。それ故に、これとは別に後装式の銃を開発しております」
「この試作銃以外にももう一丁作っているのか?」
「はい、この試作銃は射程距離が大幅に伸びた為に平原などの開けた場所での会戦での運用を想定しております。熟練兵であれば1分間に8発から10発の発射が可能になりますので、平原などでは効果は絶大です。市街地戦ではさらに軽量化されたものを運用できるようにしていくように本銃の軽量版をもう一丁試作している最中です」
担当者は清々しいほどにもう一丁作っていると自信を持って発言した。
重たいものの、これまでのマスケット銃とは一線を画す設計ということもあり、新しい銃としての立ち位置を考えれば……これでもいいのかな?と思ってしまう。
とはいえライフリング技術を導入したことで射程距離が飛躍的に伸びたそうだが、その代償として重量が増加したことで扱いずらいのではないだろうか?
暗殺や後方攪乱であれば少数生産でもいいが、その分高威力となれば狙撃に適した銃となる。
「この銃の口径はどのくらいだ?」
「口径は9.19ミリです。確実に遠距離でも相手を仕留められるように口径を大きくしました。弾丸がかすっただけでも相手に致命傷となり得る傷を負わせることが可能です」
銃の口径は9.19ミリだと結構でかい。
AK-47が7.62ミリ、アメリカのM16ライフルが5.56ミリであることを考えるとかなり大きい。
対人狙撃銃も確実に暗殺をするために大口径のものが使用されている現代の状況を考えると、大口径化するのは理にかなっているようにも見える。
いや、それまでのマスケット銃は熟練兵でも1分間に最大で3発程度発射するのが限界だったのに対して8発から10発撃てるようになったのはかなりすごいのではないだろうか?
つまり、相手が既存のマスケット銃で3発撃ってくるのに対してこちらは同じ時間で10発撃ち込めるとなれば……おお、かなり圧倒的優位に立って攻撃できるじゃないか!
ファーガソンライフルを持ってフランスに亡命した兵士や設計技師などを陸軍兵器工廠が雇い入れて、前装式ではなく後装式によって弾丸の弾込め速度などを大きく向上させたという。
試作銃ながらかなりの高威力、高性能(ただし扱いづらい)なこの銃は「Spirale(渦巻)」という名称で開発が進められていくという。
もう一方の軽量型についても近日中に提出するという言質を取り、銃の性能のお披露目をヴェルサイユ宮殿で直々にすることになったのだ。




