37:宮殿改革
作業中のBGMはクラシック音楽だったり80年代の洋楽・邦楽だったりするので初投稿です。
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1770年9月1日
この日は、ルイ・オーギュストが主導となって8月12日に公布された「ヴェルサイユ宮殿の大規模な人事異動・整理」と「ユダヤ人への寛容令」が施行された歴史的な日となった。
新聞各社はオーギュストが赤い雨事件以降、積極的に問題解決に取り組んでいる姿勢を評価し、寛容令も不況が続いている経済の活性化を促進させるためだとして、キリスト教でもガチガチの保守派以外は容認する傾向が見られた。
オーギュストは年末までに(※)農奴制の廃止(※協議の結果1773年までに施行予定)と特権者階級が犯罪行為を犯した場合、罰則を強化することも公布しているのだ。
フランスを本気で良くしようとしている王太子の姿勢は第三身分の平民階級からは絶大な人気を誇ることになる。
特に、改革派のプロテスタント系の信仰者が多いフランス南部や西部では改革派に属する政治家……主に地方議会の第三身分階級の者たちは、オーギュストの改革を支持していくことになる。
さらにヴェルサイユやパリだけでなく地方にまで公布の内容が発表されており、公布内容を見た大部分の人は王太子を讃え、オーギュストへの忠誠すら誓う者すら現れた。
さらにここ最近フランスで起こっている変化といえば、若いカップルなどがピクニックをするようになったことだろう。
野外で簡単な軽食を食べることが流行しており、これもオーギュストとアントワネット妃が仲睦まじい姿を見せながらヴェルサイユ宮殿の庭で食べていたからだ。
10代半ばであるにも関わらず、その熱烈な恋愛っぷりはヴェルサイユ宮殿内外に知れ渡っていた。
ヴェルサイユ宮殿の一般人立ち入りの許可が出されている区画や、パリ郊外の見晴らしの良い場所に行ってランチを楽しむことがブームになりつつあった。
またフランス国内にいるユダヤ人コミュニティもオーギュストを支持する声で満ちあふれている。
欧州各地で散らばっていたユダヤ人コミュニティにもその報が伝わり、ユダヤ人の中でも富裕層を中心にフランスへの投資が段階的に行われようとしていた。
そんな中、ヴェルサイユの下町では非番の使用人達が昼間から酒場「タンタシオン・ソルベ」でくつろいでいた。
今日から施行された「ヴェルサイユ宮殿の大規模な人事異動・整理」では、段階的に使用人の数を減らす事になった。
それでも王太子が次の就職先を手配した上に引っ越し費用をすべて国が負担する事を受けて彼らはそれぞれの就職先の情報を話し合っていた。
「……そうか、お前はパリの方に行くことになったのか」
「ああ、12月からテュイルリー宮殿の方に仕えることになったよ。うちの班じゃこっちに残っているのはエリスとマルコぐらいだ。段階的に減らしていくみたいだし、業務内容も大幅に変わるんだろ?」
「これまでの業務を統合化する代わりに、賃金などは大幅に上げるらしいぞ。やる事が増えた分、効率化とやらを進めるのだそうだ」
「なるほど……でも確かに一日中水を持っていたり、パンや配膳だけをする係もそれだけしか仕事が無いのは辛いもんな」
オーギュストは使用人達を混乱させないように、段階的にヴェルサイユ宮殿から使用人の人数を減らす事を説明した紙を配布したのだ。
配布された紙には使用人の数が膨大すぎてヴェルサイユ宮殿において大きな赤字を出してしまっている事、さらに業務内容を見直して1775年までに宮殿の運営に必要な人数である1300人前後にする計画などを出した。
2500人以上の使用人が数年以内にヴェルサイユ宮殿から去ることになるが、業務見直しと整理が完了次第段階的に人員削減が行われる。
あまりにも業務内容が単純なものは軒並み統合化が図られた。
配膳係や水差し係は統合化された結果……サービス課に。
ロウソク係や窓ふき係、それに芝刈り係は施設整備課。
厨房にいる料理人や食料の買い出しを行う者を調理課という感じに、各課ごとに統合化が図られたのだ。
課といっても使用人の人数は1000人以上いるのだ。
各課でも20人から最大で150人もいる課も存在している。
そうした人数の多い課はナンバーが割り振られており、ヴェルサイユ宮殿のすぐ近くにある建物を国が買い取って事務所として構えることになったのだ。
さらにオーギュストが行ったのは使用人達への意欲向上に向けた勤労オプションの充実性にもスポットライトを当てた。
末端の使用人は安価な給料で、上司からのパワハラや住み込みで働いている家主から法外同然の家賃を巻き上げられることが珍しくもなかった。
そこでオーギュストはヴェルサイユ宮殿周辺のアパートや近隣のホテル数軒を8月29日付けで買い取って使用人専用の宿舎にすることを発表したのだ。
『我々を支えてくれている使用人達の大半が、これほどまでに劣悪な環境で住み込みで働いているのには心が痛む。宮殿で懸命に働いている彼らの生活水準を上げて仕事の質を大幅に向上させるのだ』
その報が使用人達に伝わると、彼らは涙してオーギュストを讃えた。
劣悪な環境下で法外な家賃を支払っていた使用人達は、王太子の改革が嘘ではなく本気なのだと言うことを知る事になった。
さらに、人員削減でどうしても去ってしまう者には退職金や次の就職先の斡旋を国が行い、さらに引っ越し費用まで全額負担をするという。
オーギュストは使用人達の希望の星でもある、去ってしまう者も決してオーギュストの事を悪く言う者は誰一人としていなかった。
「王太子様は俺たちの事を良く想っていているんだ。今回の人員削減もやむを得ない事だったんだろう。だけど退職金や引っ越し費用、それに次の就職先まで探してくれるんだから慈悲深い御方だよ」
「ああ、お前もテュイルリー宮殿で頑張ってやっていけよ」
「そっちもな、それじゃあいつもの乾杯の音頭をやるか!」
「おうよ!」
「「「王太子様に乾杯!!!!」」」
酒場「タンタシオン・ソルベ」ではこれから行われていくであろうオーギュスト主導の改革を期待しているのだ。
ここでは約束された希望として使用人達の士気も高くなっていたのであった。
皆さんのオススメの曲とかはありますか?
私個人としては洋楽はGo westの「call me」ですね。
明るい気分になれる曲なのでループしてよく聞いています。