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383:フープ

★ ☆ ★


1780年9月3日


ヴェルサイユ宮殿 中庭


日本の使節団の方々がやってきて一週間が過ぎようとしております。

あれからオーギュスト様はより積極的に彼らと交流し、新しい貿易の取り決めなどを行った模様です。

カロンヌ首相も同席しての貿易の取り決めでしたが、主に琉球を経由した貿易を中心により一層強化してゆくことになったようです。

使節団代表の平賀氏との取り決めはフランス、日本にとっても好条件の内容で締結できたようで、オーギュスト様もご機嫌な様子です。

今日はお休みを取って私、テレーズ、ジョセフの一家揃って思いっきり遊ぶことにしたのです。


ここはヴェルサイユ宮殿でも芝生が植えられており、毎週火曜日と木曜日に係の者が芝生を均一の長さに切っております。

とっても広い芝生が生い茂っている場所だけに、芝生の手入れも欠かせません。

式典などの場合には前日の朝の6時から手入れを行い、庭の状態を万全の体制に整うようにしているのです。

彼らが一生懸命に仕事をしてくれたお陰でこうして一家団欒のひと時を過ごせますもの……。

本当に感謝しておりますわ。


「ふふっ……テレーズよ、私に挑むとは些か早いのではないか?」

「いーえ、お父様……今日こそは勝たせていただきますよ!」

「よかろう!ではいざ勝負……!よーい、ドン!」


オーギュスト様はいつになく、元気いっぱいの掛け声と共にテレーズと走り出しております。

手に持っているのは長い木の棒……。

その棒をリング状になっているフープにくっつけて、フープから離さないように走って目的地まで到着するという遊びです。

私の小さいころにも流行っていた遊びですが、最近では舗装された復興大通りでフープ回し大会というのが行われたのです。


この大会では幅100メートルもの大通りを数十人の青年や大人がフープを回して決められた距離を走るというものでした。

一見地味に見えますが、舗装して整備された大通りであるという事をPRすることも兼ねて大通りを貸切でフープ回しの競技場として運用したそうです。

もちろんのことですが、ただ単純に大会を開催したわけではございません。


あのパリ市内が焼け落ちた大火災からの復興と、ラキ火山噴火が重なった影響で去年は殆どお祭りなどが出来る状態ではありませんでした。

今年は少しずつですが景気も持ちなおしており、それに合わせてパリ市民を元気にさせてあげたいとオーギュスト様が主催となって企画なさったのです。


全国から参加希望者が殺到したため、事前にタイムを測定して男女別に15歳未満の子供、15歳以上の成人に分け、さらに200メートルの短距離、500メートルの中距離、1キロの長距離の三つの部門に分けて各地区の上位6人を代表として選出するという手法が取られました。

優勝賞金は2000リーブル……。

参加賞も20リーブルと決して一般庶民にとって少なくない金額です。


そして男女共に優勝賞金は同一のものになっております。

男女で賞金の格差があってはならないとオーギュスト様が進言したことにより、優勝賞金も含めて競技に参加した者は平等に支払われることになりました。


これにより、パリ市民だけが楽しむのではなくフランス本土全土から集まった代表者による競技となったのです。

フープ回しいえど、バランスとスピード、コントロールが必要になってくる関係上、一筋縄ではいきません。直線では決められた線内からフープがはみ出したり、棒を外してフープが倒れてしまうと失格扱いになるのです。

そうしたルール作りをしてから大会を開催したこともあってか大勢の人々がパリに集まり、特設した見物席には大勢の人達が押し寄せて食事を楽しみながら競技を楽しんだのです。


地元のパリ市場や飲食店が協力してお酒を含めた飲食が提供され、会場には正確に時間を計測するために高性能精密時計が持ち込まれてタイムを競い合うことになりました。

次々と更新されていくタイムに、さながら競馬場のように白熱した状態でした。

ちょうど日本人使節団の方々もいらしていたこともあり、彼らの中から特別参加したサムライの方が選ばれて会場は大いに盛り上がったそうです。

最後にはオーギュスト様自らが優勝者に純金で出来たメダルと賞金に換金できる小切手を渡してこの大会は幕を閉じたのです。


その影響もあってか、テレーズはフープ回しが欲しいとねだってきたのです。

数年前まではぐずってしまいよく泣いてしまう子でしたが、最近ではそんなことはなくむしろ大人しくしていました。

もう彼女も6歳、物をねだりたい時期になったのだと思い、オーギュスト様と相談して市販品で売られているフープ回しを一式プレゼントした途端に、見事夢中になっているのです。

何かに熱中して遊ぶのは良いことだとオーギュスト様は進んでテレーズが遊ぶのを喜んでみておりました。

休日ということもあり、テレーズも嬉しそうにオーギュスト様と一緒にフープ回しで遊んでおります。


「よしっ!勝った!さぁどうだテレーズ!もっと早く走ることはできるかな?!」

「望むところですよ!お父様には負けませんから!」

「ハハハ!いいぞ!そうだテレーズ!その意気だ!」


どうやらオーギュスト様が勝ったようですね……。

遠くからでもオーギュスト様の声が響いておりますの。

テレーズも負けじと走りながらフープを回してオーギュスト様に追いつこうと走っていきます。

その光景を眺めながら、ジョセフと私は木影の下でシートを敷いてからオーギュスト様が作ってくれたサンドイッチを食べるのです。

ジョセフはあまり身体が丈夫ではありません。

熱を出すことも一か月に一回のペースでありますので、運動も無理をしない範囲で行い、今日はゆっくりと休んでいるのです。


今日はこんがりと焼いたベーコンとタマゴ、そして夏野菜のきゅうりやトマトをスライスして挟んだサンドイッチです。

野菜も入っており、それでいてカリッと揚げたベーコンがとっても美味しいのです。

ジョセフはサンドイッチを口に入れると、美味しそうに食べています。


「ジョセフ、美味しいかしら?」

「うん、おいしいよ!」

「ふふっ、もっと食べたい場合は言ってね。まだまだ沢山あるから」

「ママ、もう一つちょうだい!」

「はいはい、でも焦って食べちゃだめよ。のどに詰まってしまうからね……ほら、紅茶を飲んでから食べなさい」

「はーい」


ジョセフにコップを渡してから私は水筒に入れた紅茶を注ぎます。

予め茶漉しで紅茶を注いでから、冷水と混ぜて冷やしておいた紅茶です。

熱い紅茶も好きですが、やはり夏場は冷たい紅茶のほうが好きです。

ジョセフは紅茶を注いだカップをグイっと傾けて飲んでからサンドイッチを美味しそうに食べております。

そして、どうやらオーギュスト様とテレーズの対決も終わったようです。


「ま、まさか最後にフープのバランスを崩してしまうとは……ぐぬぬ……俺の負けだ……」

「やったわ!お母様!私、お父様に勝ちましたよ!」

「あらあらテレーズ、良かったわね~フープ回しでオーギュスト様に勝つのは初めてね……二人ともお疲れ様です」

「いやはや……テレーズのフープ回しの腕がかなり上達していてね……最後で負けてしまったよ……」

「ふふっ、二人とも昼食を取ってのんびり致しましょう。お茶を出しますからはい、コップを持ってくださいね」

「おっ、そうしようか……では一杯いただくよ」


二人とも汗を流しながらコップに淹れた紅茶を美味しそうに飲んでおります。

笑いながらフープ回しの事について語ったり、美味しそうにサンドイッチを食べてからゴロンと寝転んで木陰で川の字になって昼寝をしたのです。

時折吹いてくる心地よい風に揺られるように、私たちは幸せな一家団欒の日を過ごしたのでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一家団欒良いですね!
[一言] 何か既に一週間経過してるー 主人公前世日本人で度々日本の話題出してて 初めて日本人がやってくる章だから 経過する前のやり取りや視点が見たかったな まぁ他がサクッと流して時間飛ばしてるからここ…
[良い点] フラフープのフープって、輪か!でフラダンスのフラは腰か!
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