表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

377/1014

375:角行

ブルボン宮殿での会議がひと段落していることもあってか、この宮殿の雰囲気は穏やかであった。

先月まで宮殿の庭までパリ大火による火災で家を失った人の避難場所として使われていたこともあり、周辺には多くの建築物資などが積まれていた。

木材や石材などは建築現場から近いということで、今現在でも宮殿の一部敷地は建築業者の人たちが借りて木材の置き場所となっている。


(今は復興作業の期間でもあるが……まぁ、近いうちにこの辺りの地区の復興が完了するわけだし、一時的に使用する分には問題ないな……)


宮殿の立替工事と似ているが、それでも宮殿を一つ立てるだけの物資があるのなら、50人が居住できる家を30軒建設することができる。

価格が落ち着いたこともあってか、物資の供給も滞りなく行えているようで内心胸をホッとさせている。

ブルボン宮殿にはネッケル、コンドルセ侯爵、ボーマルシェといった内閣の重鎮メンバーが会議に参加していることもあり、政府の首脳部が集まっている状態だ。


そして現在のフランス王国首席国務卿……もとい首相はシャルル・アレクサンドル・ド・カロンヌが担っており、彼を中心に政治を任せている。

赤い雨事件以来、フランスには首相がいない空白期が長年続いていたのだ。

あの事件では時の首相であったショワズール公爵が事件の引責責任を取って辞任したのだが、その後任人事で首相に名乗りを上げたのが(※)モールパ伯爵(※史実で高等法院を復活させてしまったが故にルイ16世が政治的権力を行使できなくなってしまった要因を作った)だったこともあり、それじゃあいかんでしょという話になった。

代わりに閣僚人事を揃えてひとまずそれで……という感じにやっていたら、なんやかんやで国王が首相の業務を担っているという状態でも政治運用が出来てしまっていたので、そのまま業務をしていたのだ。


俺自身も、アントワネットをはじめとする皆を何とかしなきゃいけないと思い、そのままの勢いで政治改革などをしてきたが、やはり補佐がいるとはいえ、一人で行うのに限界がきてしまった。

周囲からも「流石にこれからは経済面では我々が行いますので、陛下の仕事は多すぎますので減らしたほうがよろしいですよ」とアドバイスを貰ったので、1780年3月20日に政府首脳として地方総監で業務実績があり、史実でも改革に着手しようとしていたカロンヌを抜擢したのだ。


幸運なことに、彼が改革派に属していたこともあり、説得なども周囲の閣僚がサポートしてくれたお陰でとんとん拍子で首席の座についてくれたのだ。

これで絶対的な王権政治などではなく、国王の役割も立憲君主制に近い形になっていけるだろう。

あとは国の最重要事項の承認などを行うための承認人事としての役割を担うことになる。

朕は国家なり……でもいいのだが、それだと愚王や暴君が出現した時に対応ができなくなってしまう恐れがあるので、しっかりと法整備をしたうえで決定などをしていかねばならない。


王権があり、こうして自分が国王としての立場を行使できるのも国民による支持が無ければできない。

それに伴う権利などは閣僚会議の承認を経て大多数の国民に理解してもらうことにより、初めて権利を行使することが出来るという考え方に基づく。


「朕は国王なり、国王は国民の事を想い、国民と共に歩む」


……という言葉を座右の銘にしようと思い、新聞の寄稿欄に送ったら物凄い反響を及んでしまった。

やはり国王という存在が身近ではないこともあってか、やはりセンセーショナルに伝えられてしまう。

まぁ、まだ王権神授説を信じている人も多い……。

諸外国からしてみれば、国王が国民に寄り添うような姿勢を取っているのが相当珍しいと感じるらしい。

現代日本やイギリスのように国家・国民の象徴として庶民層に親しまれる存在になれれば幸いだ。


そしてカロンヌは改革派としてしっかりと手腕を奮っている。

史実では貴族や聖職者への課税を行おうと改革を実施しようとしていた人物だ。

……が、それを実行しようとしたら貴族や聖職者の猛反発を食らって実行に移せず、結果どうなったかといえばフランス革命である。

言い換えればその改革が実行に移せていればフランス王国は存続出来ていたかもしれないというわけだ。


さて、ブルボン宮殿の二階ではそんなカロンヌであるが、市長達との会議を終えて休憩をしていた最中であった。

ネッケル、コンドルセ侯爵、ボーマルシェも同席していたので、彼らにも休憩が終わり次第伝えておくべきだろう。

ここで行ってもいいのだが、流石に気軽なノリで相談できる内容ではないので、彼らが休んでいる間は無理に行くべきではない。

それに会議を終えて疲れているはずだ。

無理に会議を割り込ませて無理をさせてはいけないからね。


(あっ、しまった!……休憩中だったら食事も今のうちに済ませることが出来たな……うーむ、時間がタブってしまったぞ……)


この休憩時間の時に昼飯食べれば良かったのではないか?と頭の中に浮かんでしまうが、庶民の味を味わうのもいい。

アントワネットやテレーズの為にウーブリを買い置きするのもいいと思ったが、もし作り置きしたお菓子が傷んでいたらどうしようと思い買っていない……。

代わりにパリでも有名な菓子店のクッキーでもプレゼントしたほうがいいかな?

財布と時間と相談して決めておこう。

それにしてもあのウーブリとジュースは中々美味しかった……宮殿にも移動販売で来てもらって欲しいと思ったぐらいだ。

そして、休憩が終わった後にカロンヌ達を呼び出してスウェーデンからの提案に関する内容を話したのだ。


「……ふむ、フェルセン殿からお渡しされた手紙……間違いなくグスタフ3世陛下のものですな」

「つまり、スウェーデンはかつての大国の地位を取り戻すべく動いたというわけですね?」

「ですが、それだとプロイセン王国が黙っていないでしょう。かの国とは露普同盟によって結ばれているのですぞ?外交面でいえばグレートブリテン王国の国民平等政府を封じ込めてからまだ日が浅い……その浅いうちからロシアとの関係が悪化するのは避けたいですな……グレートブリテン王国の件では彼ら無くして勝利はありませんでした」

「プロイセン王国が戦争の主導的立場を取ってグレートブリテン王国を救ったのもまた事実ですが……しかし今後数回に分けて行われるグレートブリテン王国が所有している植民地の分割についても債務と担保も兼ねて各国平等な分割案を提示しているのに対して、プロイセンはインドやカリブ海のグレートブリテン王国所有の土地の領有権を主張したりとやりたい放題ではありませんか。彼らは戦争に勝利してから図に乗り過ぎているのもまた事実ではないでしょうか?」

「牽制も兼ねてフランス王国が領有するのも悪い話ではありません。むしろ戦争だけでなくお金をかけずに領地を得ることができるのですから……それに北海の拠点を抑えれば毛皮貿易なども安く仕入れることが出来るので軍の冬装備品も滞りなく行うことが出来るでしょう」

「それもそうですが……今プロイセンとの関係悪化は欧州協定機構の存在を瓦解させかねません。ここは北海の安定を図る為に、各国が使用可能な貿易拠点として港湾整備などをしたほうがよいのかもしれません」


早速スウェーデンからの提案に関して議論が始まった。

カロンヌとネッケルはロシアと関係の深いプロイセン王国を刺激しないためにも、フランス王国だけではなく各国が共有して北海貿易を利用できる拠点として使うことを提言し、コンドルセ侯爵、ボーマルシェは国民平等政府を倒してからのプロイセン王国の行動が野心的であるということも含めて、牽制も兼ねてスウェーデンからの提案に応じるように述べている。

中々議論は白熱しているが、本来政治ってこんな感じで賛成意見と反対意見を述べる場所でもあるよなと思った。

そして議論は夕方まで続くのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー

☆2020年9月15日に一二三書房様のレーベル、サーガフォレスト様より第一巻が発売されます。下記の書報詳細ページを経由してアマゾン予約ページにいけます☆

書報詳細ページ

― 新着の感想 ―
[一言] かつてナザレのイエスが行ったユダヤ教の改革で画期的だったのはこれまでは絶対的存在である創造主を“父なる神”として身近な存在にしたことにあるという。 神を父と同列にした聖句は戒律ばかりに因われ…
[一言] どうせ大陸国家に海外植民地の維持なんて手に余るもんなんだから調子に乗らせるだけ乗らせればいい。 ブタは良く肥してから食うべき。 とはいえ今スウェーデンの動きが止められたら正統ロシア政府が圧…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ