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374:利権競争とウーブリ屋

視察を終えてから、軽く食堂に立ち寄ってサラダとチキン、そしてワインを一杯引っ掛けて昼食でも食べようか……といきたかったところだが、フェルセンが渡してくれたスウェーデンのとんでもない案件がある都合上、ゆっくりとだらけて油を売りだす時間もない。

ただ、正直言ってこうした機会でないと外食できる時間がないのだ。

それに、ちょうど今日から三日間ほど閣僚たちはブルボン宮殿にやってきて、復興事業に関する会議を行っている最中だ。


パリ大火による復興作業が進んでいるものの、その作業に関してはパリの地区再編や経済の見直しなどを含めて閣僚たちと企業家、市長など大勢の人達を集めて時間をかけて会議をしなければならないからだ。

とはいえ会議の途中で割り込むのはいけないので、会議の区切りのいいところまで頃合いを見計らって今回の件を軽く説明する必要がある。


これに関しては独断専行で行っても大丈夫なのだが、短期的な利益と長期的なリスクを考えると即答できる案件ではない。

特に土地絡みに関する案件というのは周囲の人と相談して決めた方がいい。

これは国家だけではなく個人でも言えることだ。

その場所に住んでいる人達のこともあるし、仮にグスタフ3世からの魅力的な条件に合意するにしても、将来的にスウェーデン支援のロシア帝国か、自称ピョートル大帝がトップの正統ロシア帝国かが全ロシアを支配した場合、どちらに転んでもサーレマー島とヒーウマー島に関する領有権を巡って問題になり得る。


現代でも土地に関しての権利というのは複雑であり、管理している国土交通省ですら把握できていない案件なども多くある。

特に、そうした土地の利権を巡り不動産会社がヤクザを使って所有者に立ち退きを強要したりした事案もあるし、管理者が不明になったばっかりに二次災害が発生して責任問題が有耶無耶になったりと、とにかく土地を所持したりするとトラブルが多くなる。

個人ですらこれだけあるのだから、国家規模で持つとなれば問題もさらに多くなるだろう。


(しかし、重大な話の前だから腹に何か入れてからにしたほうがいいかな……ブルボン宮殿まで馬車で20分ぐらいかかるし……この辺でさっと食べれる食事にでもしようかな……)


時刻は正午すぎ……丁度お昼だ……。

食事を食べようとする者はカフェやレストランに足を運んでいくし、この時間帯は混んでしまいやすい。

先程までレンガを積み上げていた労働者たちも額から流れ出る汗をタオルで拭いてから、食堂にぞろぞろと入っていく。

せっかくパリに来たのだから何か胃袋を満たしてくれるもの……さっと済ませていけるようなファーストフード的なものがないかキョロキョロしていると、移動式売店が目に留まった。

台車にはパリ市内での営業許可証が貼り付けられており、しっかりと手続きに則って営業をしている販売店のようだ。


「はいはい!よってらっしゃい!ホイップクリームとメロンの入ったあまーいウーブリとレモンの果汁を使ったジュースがたったの(※1)5スー(※1 おおよそ現代の日本円の価値にして1250円前後)で味わえるよ!そこの旦那様!良かったらどうですか?!」


大道芸人のような恰好をした男が客引きをしているが、確かにいい匂いがしてくる。

ウーブリといっていたが……このウーブリは筒状に焼いており、その中にホイップクリームなどを詰め込んでいるらしい。

これは確かフランスでも中世から作られている焼き菓子だったな。

メロンだけでなくホイップクリーム付きとはこれまた珍しい。

現代のホイップクリームとは違い、製造も作り方も手間がかかるので作りづらかったと言われているからかなり凝った作りなのだろう。


メロンもおそらくこの時期であれば促成栽培を通じて暖房などをガンガン焚いて温かくして育てたものを使っているのだろうし、レモンも同じだろう。

それにしてもレモンの果汁入りというのも気になる……。

少々値が張るが、これだけフルーツが入っていて5スーはコスト面を考えても相当安いのではないだろうか?

あまり人はいなかったが、せっかくなので護衛をしてくれている者の分も合わせて買うことにした。


「うむ、せっかくだから6つ貰おうか」

「えっ!?そんなに買って下さるのですか?」

「ああ、どんなものなのか見てみたいからね……先に代金を支払えばいいのかな?」

「はい!えっと……ウーブリとジュースが5スーで6つなので……合計で1リーブル10スーになります!」


余談であるが、未だにフランスでは通貨が三種類存在する。

リーブル、スー、ドゥニエであり、それぞれリーブルとスーが幅広く使われており、ドゥニエは末端通貨……日本でいうところの銭に相当する。

なのでフランス人に転生してちょっと困ったのが通貨の計算方式だ。

末端価格のドゥニエはともかく、ルーブルとスーが混合したような表記もあったのでこれがまた面倒くさい上に計算する際に混乱してとにかく大変だったのだ。

財布から1リーブルと10スーの硬貨をそれぞれ相手に渡すと、あっという間に6人分のウーブリとジュースを作ってくれた。

ウーブリは紙で包んでおり、ジュースはしっかりとしたコップに注がれている。

かなりコップの口すれすれまで詰め込んでいるので、サービスしてくれたようだ。


「お待たせしました!たくさん買って下さったのでおまけにサービスしておきましたよ!」

「おお、ありがとう。君はよくこの辺りでウーブリを売っているのかい?」

「はい!去年まではもっと様々なウーブリ屋と一緒に歩いて販売していたのですが……パリ大火の影響でウーブリ屋も飲食店も大打撃ですわ。なのでこうして少しでも利益が出るように新しい飲み物なども合わせて商売しております」


ウーブリ屋はパリ市内だけでもそこそこの数がいたらしいが、パリ大火の影響で少なくない人数が犠牲になったこともあり、ウーブリ屋はココ売りのようなジュース販売も合わせて生き残る道を模索しているらしい。

パリ大火の後、パリの街中は良くも悪くも大きく変わってきている。

被災した人たちはパリ郊外の空き家などを借りて生活しており、宮殿の敷地にも一時的に仮設の簡易住宅が建設されたほどだ。

きっと目の前にいるウーブリ屋も被災して同じ境遇を味わったのだろう。


護衛係がウーブリとジュースを受け取り、先に毒味をしてもらう。

この店は営業許可証を出しているので大丈夫だと思うが、用心に越したことはない。

毒味をした職員が「……問題ないです、美味しいですよ」と小声で言ってくれたので問題ないでしょう。


最初にホイップクリームが詰まっているウーブリをがぶりと一口……。

砂糖が溶け込んでいて、それでいてメロンの薄っすらと甘い感触が旨い。

現代でいうところのクレープとコーン付きのアイスクリームを混ぜ合わせたような感覚だ。

甘くて旨い……これなら軽食として食べてもいけそうだ。


そして気になっていたのはレモン果汁入りのジュース……。

ベースは紅茶のようだが、これにレモンと砂糖を混ぜ合わせているので甘くて美味しい!

どれもアントワネットにあげたら喜びそうな味だ。

できればもっと堪能していきたいのだが、時間が差し迫っているので、ウーブリを食べてからグイっとジュースを飲んでウーブリ屋にお礼を言ってから馬車に駆け込んでブルボン宮殿に向かったのであった。

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[一言] 屋台のお菓子を買い込む国王 ええ話やなぁ
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