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358:La Marseillaise

☆ ☆ ☆


1779年9月16日


Vive La France!

フランス万歳!

おっと、開幕早々につい喜びの舞を披露してしまったのは失敬、失敬。

化学総合開発局への破壊活動は成功し、旧ロンドン塔は爆弾が起爆したことで半壊状態……。

再建までに数年単位でかかるそうだ。

また、作戦を指揮したアンソニーは何と工場で奴隷のように働かされていた元貴族階級の子供達までも救ってきてくれたのだ。


化学総合開発局及び工場の破壊命令を出していたのは事実だが、まさか子供達までも救ってくれるというミラクルプレイを成し遂げたアンソニーは確実に昇格確定だ。

勿論のことながら、彼の独断専行で救出したこともあり、そこは流石に審議の対象になってしまったが、彼の行った功績は大きく、また貴族階級出身の子供に対してこのような仕打ちをしていることを証言する機会としても絶好のタイミングであったことから、特別に不問にしたのだ。


作戦の際に助け出された子供達の人数は37名。

最年少が8歳の少年、最年長が17歳の少女であった。

いずれもロンドンを中心に社交界で実力を有していた貴族の子供だという。

その証拠に、ロンドンから亡命していた貴族や官僚などに子供達と面会させたところ、複数人が貴族の子供である確実な証拠を提示してくれたのだ。

保護された子供達の中には貴族院出身でプロイセン王国に亡命した議員の身内もいたため、いずれは彼らに引き渡すことも検討している。


だが、簡単に引き渡すわけにはいかない。

というのも子供とはいえ、かなりひどい扱いを受けていたようで……5人の少女達は常に体を震わせており、保護されてから一言も喋っていないという。

女性職員が少女達の身体を検診した際に、腹部を中心に複数の打撲痕などが見つかっており、子供達は新市民政府論を盲信する者達によって、徹底的に再教育と称した暴力を振るっていたという。

つまり……乱暴されていたのだ。

子供に対して余りにも酷すぎる仕打ちをしていたことを知った際に、思わず「なんて鬼畜な奴らだ!」と叫んだほどだ。


『子供達は大変辛い仕打ちを受けていたのだろう……静養施設で休ませてから少しずつ心と体を治していくしかない』


身体の傷は時間が経てば治療できるかもしれないが、心の奥深くまで傷ついた場合にはメンタルケアが必要不可欠だ。

まだまだ精神医学に関しては殆ど進んでいないし、かの精神分析学の権威のフロイト先生に至っては誕生すらしていない。


アンソニーから直に事の顛末を聞いたが、化学総合開発局では思想矯正も兼ねて従順し易い子供達を使って爆弾の製造をしていたという。

当然ながら長時間触れていると人体に有害な物質が含まれていたこともあり、爆弾の原料を取り扱っていたこともあり、保護された子供達の半数が手に酷い炎症が起きているという。

当初は同行していた班の仲間が子供達の救出に反対したらしいが、アンソニーは持論を持って説き伏せたらしい。


「全責任は俺が取る!それに、子供達は貴族出身だ……フランスを含めた各国の亡命イギリス人に親類がいれば本人であると証明できる。全員でなくても子供達に対してこのような仕打ちを施す時点で、あの国民平等を謳いながら実態は貴族を奴隷にさせて乱暴を企てるケダモノ連中だということを世界に知らしめることが出来るのだぞ?彼らの狂信的思想、および行動を公表し、息の根を止めなければならない!」


アンソニーの機転によって子供達は救出されたのだ。

子供達は大人に比べて従順になりやすい。

それを利用して奴隷のようにこき使われていたという。

何とも酷い話だ。

アンソニーによれば、化学総合開発局だけで40名近くいたので、ロンドン全体ではもっといるのではないかと語っていた。


「国民平等軍および、その系列の民兵組織に囚われた貴族や富裕層のうち、大人は炭鉱や奉仕活動を強制されて、子供達はこうした強制労働施設で日夜を問わず働かされているそうです。我々が助け出したのは37名ですが……本来であればもっと人数がいたようです」

「……つまり、身体が耐え切れなくなって亡くなった子供も大勢いるというわけか……」

「はい、聞き取り調査では中西部まで占領した時には100名近く子供達がいたそうですが、戦況の悪化によって食糧の配給が滞るようになり、一人分の食事を三人で分け合っていたそうです。その中から身体を壊した者から脱落していったそうです」

「なんとも痛ましい話だ……施設で強制的に働かせている子供ですらこのような状況だ……大人たちはもっと酷い目にあっているだろう」


国民平等政府は貴族や富裕層を恨んでいた。

捕らえた者は処刑か思想矯正施設での再教育を受けて強制労働……。

没収した財産を使って国民に分配し、さらに金を得るために各地のグレートブリテン王国軍を撃破……。

略奪をしているときはそうとう潤っていたのだろう。

結果的に、国民を平等にするために金を持っている人間を攻撃し、そこから奪った金を分配するという方式で勢力を拡大していったようだ。


それでも、この身分制度が確立された時代で身分の平等を訴えたこともあり、貧民層を中心に国民平等政府への支持も厚いという。

私服を肥やすのではなく、国民に還元するという形で食料や医療、教育に掛る費用は無料というふるまいだ。

ただ、先のラキ火山噴火の影響を受けているらしく、その状況もいつまで続くのか分からない。


「一般市民の生活はどうだった?」

「はい、ラキ火山噴火の影響を大いに受けている印象がありました。店頭に並べられている肉も加熱して傷みを誤魔化していたり、野菜も殆ど入荷がなされていないようでした」

「野菜がないのか……では、今年の冬は彼らは越せないのでは?」

「その可能性は極めて大きいです。なにせ『国民食堂』と名付けられた食堂では無償の飲食店がありましたが、食事もかなり貧しかったですよ……薄い羊肉が一切れ、小麦粉を丸めたものを煮込んで塩をまぶしたようなスープが出されていました……ええ、本当にあのスープは忘れられない味になりましたよ」


ロンドンの食糧事情は子供達への境遇を鑑みると、相当悪いようだ。

肉は傷み、野菜も殆どない。

すでにグレートブリテン島の穀倉地帯は欧州協定機構加盟国が奪還しているので、彼らの食糧庫が尽きるのも時間の問題だ。

そうなったとき、国民平等軍は戦えるのだろうか?

爆弾の製造元を吹き飛ばしたこともあり、切り札であった爆弾は使えない。


あとは今後の作戦を練る時だ。

新聞各社も国民平等政府の悲惨さを書き記している。

これは、今朝のパリに拠点を置いてある大手新聞社各社が報道している内容だ。


『ロンドンまであと20キロ、年内に国民平等政府は陥落か?』

『フランス王国政府、グレートブリテン王国の再編に向けて具体的な支援策を発表。南インド地域の買い取りも検討か』

『プロイセン王国政府、領邦各国と協議の上、グレートブリテン王国の資産を担保に支援を決定』

『哀れな革命政府、もはや滅亡も時間の問題か?亡命者が語るロンドンの惨状とは……』


ロンドンの情報を記載し、それを活字にして報道することにより、知識階級は確実に新市民政府論を支持しなくなるだろう。

この悲惨さを知れば知るほど、革命思想というのがいかにまやかしか嫌でもわかる。

新聞社や公布人を使ってメディア戦略では負けないように国内世論の調整はばっちりだ。

あとは、かの政府が倒れるときまで続けていくことが重要になるだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作戦成功!子供たちも救えて良かった良かった! 宣伝戦はいかに長く続けられるかが大事ですね。
[一言] 略奪して配るだけ。いわゆるネズミ講ですね。 略奪対象が無くなったら全員飢える。 もちろん、その前に上層部が資産財産持ってアメリカに逃げるんだろうな。
[一言] 成功おめでとう!
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