317:チューニング
コミックポルカ様よりコミカライズ化が開始されましたので初投稿です
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1778年6月10日
ヴェルサイユ宮殿は今日も平和だ。
それに、絶好の外出日和。
ポカポカを通り越して初夏特有の過ごしやすい陽気に身が包まれていくようだ。
グレートブリテン島のロンドン革命政府に対する懲罰……。
ひいては混迷が続くグレートブリテン島の解放に向けて結束した欧州協定機構加盟国軍によるシーライオン作戦は、今のところ我々に有利な状況だ。
イギリス王国最後の拠点であったエディンバラへの侵攻を目前に控えていた革命軍は、ハンバー川周辺とデウォン州一帯に強襲上陸を敢行したヨーロッパ諸国の軍勢に驚き、急遽引き返してマンチェスターやブリストルといった都市部、首都圏に国民平等軍の兵士を配備し、徹底抗戦を掲げている。
エディンバラ近郊まで迫っていた国民平等軍も、プロイセン軍が主体となって行った騎兵隊部隊による総攻撃によって壊走し、今月の1日までにカーライル城まで後退したという情報が入ってきた。
やはり、この時代ではマスケット銃も強いが、サーベルを抜いて高速でやってくる騎兵隊のほうが恐ろしいようだ。
現代で例えるなら装甲車が一斉に突っ込んでくるようなものだしね。
馬に踏みつけられたら骨折、下手したら死ぬし、さらに騎乗した兵士がサーベルや槍を振り回せば銃で先頭の馬や兵士を倒しても後続で押しつぶされるからねぇ……。
陸戦で本気になったプロイセン軍は強い。
流石ドイツの元ネタだけあって、補給が続く限り陸戦では負けなしといったところか。
シーライオン作戦は今のところ第一段階が成功している。
軍上層部との会合では、作戦が成功したことで困窮している占領地域の住民向けの毛布や食料の輸送作業などを行っているところだ。
イギリス王国海軍も行っているが、新大陸動乱によって北アメリカ連合州軍に鹵獲されたり、各船の船長の判断により自沈処分されたりと大幅に弱体化していることから、わざわざ東インド会社所有の船まで引っ張り出してきて行っているほどだ。
今回、イギリス王国本土の危機的状況を受けて、イギリス王国の各植民地はロンドン国民平等政府の要求に応じることはなく、代わりに王国への忠誠を誓い、植民地にいる軍や政府高官にボーナスを弾んで求心力を引き留めているようだ。
特に東インド会社に至っては、莫大な利益を生み出していることもあり、万が一このインド市場をイギリスが失ったら、今度こそ立ち直れないだろうと言われているのだ。
(東インド会社が無くなったらヨーロッパ諸国に香辛料を売りさばく市場の勢力図がまるっきり変わってしまうからなぁ……会社側からしてみても、何としてでも押さえておきたいというわけだ。今はこの辺りは刺激せずに見守っていこうかな)
流石にこんな状況でインド方面に火事場泥棒をする度胸はないからね。
イギリスは何かと約束を反故することで有名だ。
インドを独立させてあげようと約束したけど無視したし、かの中東パレスチナに至っては現地のパレスチナ人とユダヤ人双方に独立を約束した挙句、後はパレスチナは共同なり分割で統治してね(はぁと)……と、投げやりでやった結果現地で大きな戦争が4回起こったことは有名だ。
イギリスの信頼はどこに……うごごご。
……と、先の新大陸動乱の元になった強権的、ないし抑圧的な対応はかえって民衆の反発を招くだけだ。
今現在イギリスのデウォン州一帯に駐留したフランス軍がやるべき事は占領地域における治安の回復と信頼を勝ち取る事だ。
間違ってでも占領地域における略奪や暴行をしてはいけないと厳命してあるし、違反者は現場指揮官の判断で処刑せよと通達は出している。
(現場で暴走して民間人殺傷したり略奪したりでもしたら一大事だからな……新大陸動乱も軍人が好き勝手に植民地人に酷い事をした結果起こったことだし……軍の規律だけはしっかりやってもらわないと)
俺は生憎軍事部門では専門外だ。
ナポレオンみたいにアレコレ指揮が出来る軍事的センスがあれば良かったのかもしれないが、ゲームでも内政メインで頑張るタイプだったので、軍の指揮とかはオートモード……自動で任せていたのだ。
凝っているプレイヤーでは手動操作でユニットを一つずつ動かすこともできるが、現実でそんな事が出来れば苦労はしない……か……。
やはりゲームとは違って現実で軍事的指導を行うのは無理だな。
俺には専門外だし荷が重すぎる。
軍事は専門家に任せるのが一番だ。
勿論、定期的に報告を受け取ることは大事だよ。
毎週の月曜日、木曜日に結果報告の速報を届けるように義務付けをしている。
軍事戦略面における情報は今のところ以上となる。
「さてと……これで今朝の報告書は読み終わったな……イギリス方面はこれでうまくいけば今年中には片付くだろう……」
「陛下、そろそろご支度の時間でございます」
「おっ、もうそんな時間か……連絡ありがとう」
「王妃様もお着替えの準備に入られております。ささっ、こちらの衣装に……」
……というわけで、アントワネットと一緒にフランス科学アカデミーに行く日なのだ。
ただの見学ではない。
外貨獲得と新しい貿易圏の確立の為に技術力を披露してもらう場が必要なのだ。
その為に、フランス科学アカデミーが中心となって研究・開発した工具や機械の発表会が執り行われることになっている。
(そろそろテレーズが興味をそそるような本を買ってあげた方がいいのかな?最近だと絵本よりも雑誌とかに興味津々だからなぁ……同年代の女の子達と交流を深めるのもいいかも)
勿論、テレーズとジョセフはブリジットと乳母さんに預けてお留守番だ。
最近テレーズは妙に勉強熱心な所がある。
この間は真剣な表情で難しい本を読みたいと言い出してきたので、イラスト付きの科学雑誌などを渡したら、興味津々に読んでいる。
渡した本は【1777年版 フランス科学アカデミー監修、蒸気機関のすべて】という本だ。
総ページ数180ページ、うちイラストが40ページを占めている本で、蒸気機関について詳しく記した本になっている。
今日の科学アカデミーでも蒸気機関に関して詳細に聴くことになるので、ざっくりと説明するとイギリスから亡命してきたジェームズ・ワット氏の協力で、蒸気機関の仕組みなどを分かりやすく解説する本でもあるのだ。
主に高等教育以上の教育の場で使用したり、工場勤務で蒸気機関を取扱いを行う人向けの本だが、最近では書店でよく売れているようだ。
若い頃から興味のあるものに熱中するのは良い事だ。
物覚えも最近早くなってきているので、そろそろ専門の教師を雇うのはどうでしょうかとブリジットからアドバイスを貰った。
(それも馬車の移動の際にアントワネットに聞いてみるのが一番だな。女の子の気持ちはほとんど分からないからね……女性の事は、女性に聞くのが一番だ)
さてと……ではフランス科学アカデミーに久しぶりに行くとしましょうか。
ニコニコ静画の方でも閲覧できるので、興味のある方は是非とも見てみてください




