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289:パリ宣言(前編)

前編・中編・後編と分かれておりますので前編を初投稿です。

「ルイ16世陛下が本会議場にお入りになります!」


ブルボン宮殿に到着し、本会議場前を警備している国土管理局の職員が大声で告げると同時にドアが開かれた。

ヨーロッパ各国から馳せ参じた大使や王族、そして我らが同盟国であるオーストリアからヨーゼフ陛下が着席して待機していた。


勿論のことながら待たせているわけではない。

ちゃんと時間通りにやって来たというわけだ。

来賓の方々に一礼してから広場の中央に設置された演説台の前に立つ。

やはりこうして見てみると今日は多くの人達が集まっているな……。


本会議場は史実ではフランス共和国の下院として使用されているが、こちらでは第一回:国際フランス服飾見本市が終わった後に、本会議場として使えるようにと改装工事をしたのだ。

改革派による会議の場として提供するために作っていたのだが、こうして国際的な会議で使われるのであれば予算を投じた甲斐がある。

本会議場にはズラリと取り囲むように椅子が扇形に並んでおり、それぞれ後ろの席に行けば行くほど階段を昇って高い位置から見下ろせるようになっている。


(最重要同盟国と仮想敵国とはいえ、大国であるプロイセンの顔を立てないといけないからね……最前列にいるのはいいんだけど睨みつけるような目で見るのはちょっと勘弁してくれ!)


同盟国であるオーストリアやスウェーデンは勿論の事だが、仮想敵国であるプロイセン、ロシアからも代表者として選ばれた王族や大使は最前列で並んでいる。

これは大国であると同時に、会議では前に行けば行くほど国際的な地位が高いという風習があるので、万が一席を後ろにでもして筋を通さないでいると大変無礼になってしまう。

なので、プロイセンの代表であるハインリヒ・フォン・プロイセン(フリードリヒ2世の弟さん)とかは俺がしっかりした王なのか見分する気満々のようで、ジロリと見つめてくる。

なんか妙に視線が熱い気がするのだが、まぁ……大丈夫だろう。


同盟国と大国は最前列、中堅国家であるネーデルラントやクラクフは真ん中、領邦に至っては最後尾にズラリと並んでいる。

実質的にロシアの傀儡国となったポーランドも辛うじて末端に留まっている感じだ。

かなり地域によって大勢いる事もあってか、各地方の代表者が赴いて出席する形が採用された。

本来であれば最前列にイギリスを招いて話し合いをする予定だったが、あいにく革命戦争でそれどころじゃないので、急遽本国代理としてイギリス大使であるマンスフィールド伯爵が出席している。

あくまでも王党派として参加しており、革命に関する資料の提示などをする予定だ。


一歩、また一歩足を踏み入れて演説台まで足を運ぶ。

アントワネットは最前列から入り口付近の席に移動して待機している。

俺が入ると同時に代表者が一斉に起立してくれた。

見渡してから大きな声で宣言する。


「これより、第一回……欧州諸国会議を始める!まず最初にイギリスで起こっている内戦についてだが……手元にお配りした資料を参照して頂きたい」


今、この時点でヨーロッパの今後を決める長い一日が始まったのだ。

改めて気を引き締めて会議に挑もう。

会議で行う議題はまず新市民政府論がイギリスで起こした行動について、そしてこれらから派生した革命運動による王政打倒運動を阻止するべく各国がすべき事などを会議で述べる。

それに合わせて各国向けの資料も既に出来上がっている。


各国の言葉で翻訳された資料が置かれており、代表者の机の上に置かれているのは全て翻訳されたものを提示している。

プロイセンや領邦向けにはドイツ語を、トスカーナやサンマリノにはイタリア語といった具合に各国の言葉で翻訳されているので代表者が読みやすいように配慮している。

これだけでなく、資料に使われた本の内容などを全て一語一句間違えずに翻訳した国土管理局の翻訳家には少々無理をさせてしまったので、この後特別休暇と臨時ボーナスを弾ませておこう。


「新市民政府論……今、ヨーロッパ中を騒がせている王政打倒運動の原動力となっている急進的思想教本だ。この新市民政府論には初版と改訂版の二種類が流通しているのが確認されており、1775年頃に書かれたと思われる初版よりも改訂版では王政打倒のための手段を武力によって行うと過激な主張にすり替わっている。まさに、イギリスで起こっている内戦を起こした者達が主張している内容とそっくりなのだ!そればかりか、改訂版には国民平等政府が出した憲法の法案と同じことが記されている箇所があり、改訂版は英語圏で書かれたものであると推測される」


【黒本】という通称で出回っているとされる新市民政府論の本は初版よりも改訂版が過激な主張や暴力手段も辞さない急進的なやり方で政権を樹立させるという、史実のフランス革命のようなやり方をしていることから、この新市民政府論は初版が出された後、イギリスに渡った際にコンセプトに過激な主張を煮詰めて出来上がったと推測される。

現に、新市民政府論が最初に発見されてから英語版が多く流通している事からも、それが見て取れる。


「英語を使用している国は限られている。イギリスと北米、それにインドやアフリカの一部地域……。最初に植民地政府が蜂起を起こした北アメリカ連合州、現在の北米連合がこれらの製造に関与した可能性も否定はできない。しかしながら、北米連合は独立を勝ち取った領土の再建に追われていることから介入をする理由には当てはまらない。であれば……この新市民政府論がなぜイギリスで流行し、そして内戦を引き起こしたのか……答えは社会改革を疎かにしたことが原因なのだ……」


そう、もし社会が豊かであれば過激な主張などは白い目で見られるし、誰も聞く耳を持たない。

だが社会情勢が不安定化して、階級格差と身分による違いが元で生じる差別などが表面化すれば不満も沢山溜まっていくのだ。

現にイギリスだけではなくロシアでも反乱が広がっているという情報があるしね。

ちらりとロシアの代表者であるグリゴリー・ポチョムキン公爵を見てみると、どうやら自身でも当たっていると思っている節があるのか、少々苦い顔をしている。


(農奴解放をせずに戦争や貴族に忖度をした結果がコレだよ!……って感じに後悔してそうな顔だよなぁ……ポチョムキン公爵もある意味で被害者だよなぁ……)


プガチョフの乱が絶賛発生中であり、史実ではこの人が反乱を鎮圧しているハズなのだが……ここにいるという事は、別の人物が反乱鎮圧の対処中なのでしょう。

因みにこのポチョムキン公爵は現ロシア皇帝のエカチェリーナ2世陛下一番のお気に入り愛人だったと言われており、また彼の名前は後にロシア帝国海軍の戦列艦の名前に記され、戦艦ポチョムキンという映画で有名になっている。


皇帝が送り出したお気に入りの人物というのは、それだけ信頼関係が構築されていて、皇帝に直接物申すことが出来る数少ない人間でもあるわけだ。

ロシア側がしっかりと聞く準備が出来ればあとはこちらから各国がすべき事をまとめた別の資料を提示する。


「では、その社会改革では何が必要なのか……こちらの資料も踏まえた上で説明する……」

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― 新着の感想 ―
[一言] >プロイセンの代表であるハインリヒ・フォン・プロイセン(フリードリヒ2世の弟さん)とかは<中略>ジロリと見つめてくる。 なんか妙に視線が熱い気がするのだが、まぁ……大丈夫だろう。 ┌(┌^…
[一言] 遂に欧州大会議が開幕したか。 さて、賽の目はどう出ることやら・・・。
[一言] とは言えロシアはこの状態で政策を帰ると 反乱が政策を変えさせたとなるので それはそれで危険なんだよなぁ…
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