283:不安の種
ゲーミングパソコンを購入したので初投稿です。
「さて……この新市民政府論が拡大していく状況で、周辺国の貴族や聖職者といった特権階級が改革に従うかどうか……という問題があるな……貴殿はどう思う?」
「そうですねぇ……我が国やオーストリアはともかく、ロシアやポーランド辺りは難しいのではないでしょうか?両国の貴族は改革には反対の立場を取っておりますし、何よりもロシアは農奴制を支持しているのでその影響が強ければ強いほど抑圧的になるかもしれません」
「その通りだ。問題はポーランドとロシアだ……すでに求心力を失い、国内が分裂状態にあり政情不安……ロシアも露土戦争が引き分けに終わったことでアジア方面への進撃と反乱を起こしている軍勢への対処の為に元貴族・軍人達で構成された懲罰部隊で大急ぎで討伐を進めているところだ。一番ヨーロッパ地域でも不安定化する要素があるとすればこの二か国だ」
そう、欧州諸国会議前で不安視されているのが、上記の二か国が条約を締結しない恐れがあるという事だ。
ポーランドはオーストリア・プロイセン・ロシアによって分割された上に、例えるならすでに国そのものが瀕死の病人だ。
いつ消失してもおかしくはない。
ポーランドを見限って離反したクラクフ共和国はオーストリアとプロイセンの投資も相まって莫大な利益を生みだしており、おまけにポーランドに侵攻してきたロシア軍を撃破して軍事面でもロシアの脅威となっている。
そのポーランドを事実上の属国としているロシアもまた、国内に大きな不穏分子を抱えている状態だ。
農奴制を廃止した我が国の政策に対し、逆にロシアでは農奴制を一段と強めて税の取り立てを厳しくしているという。
史実とは違い、オスマン帝国との戦争である第一次露土戦争では勝利することが出来ず、その分の戦費が回収できなくなったのだ。
清国への侵攻と、それに伴って清国の領土の割譲と賠償金を得ることが出来たが、国内ではあまり改革がうまくいかず、やや時代遅れな政治状態が続ている。
そのような状況下で新市民政府論がポーランドやロシア国内で広がり、王政打倒に向けた内戦が起こったらどうなるだろうか?
新市民政府論は資本主義革命ではなく、どちらかというと社会主義革命を目指している側面が強い。
下手したら1世紀以上早くに「ソビエト連邦」が誕生する可能性をはらんでいる。
ロシアは農奴が多く、おまけに彼らへの扱いは酷い。
農奴の人達があまりにもひどい境遇に置かれていた事で、離散したり反乱を起こしたりするケースが多く出ている。
……って、ちょっと待って!さっきの話のなかでさらりと反乱という聞き捨てならないワードが入っていたぞ!
もうロシアで反乱起きているんかい!
農奴による一揆はよくあるらしいけど、軍隊に匹敵する勢力が反乱を起こしているとは……。
でもそこまで大きな反乱なのだろうか?
ヨーゼフ陛下に事の詳細を尋ねた。
「既にロシアでは新市民政府論に同調した反乱が起こっているのですか?」
「いや、それとは違うがな……。ロシアではまだ偽皇帝が扇動しているとされる農奴反乱が収拾していないそうだ。清国との紛争では国内外に内戦ではなく勝利したというアピールをしたいがために、わざわざ不満逸らしも兼ねてやったという話すら聞く。おまけに鎮圧できていない事もあってか、皇帝への威信も落ちているそうだ」
「えっ、まだ反乱は続いているのですか?!」
「勿論だとも。ロシア皇帝エカチェリーナ2世も所詮は農奴の集まりの軍勢だから大したことは無いと高を括って主犯の偽皇帝に微々たる懸賞金を懸ける程度だったが、今ではカザン・クレムリンを中心とした総勢5万人規模の軍隊を有するほどに成長したようだ。ヴォルガ川を中心にその勢力が勢いを増しているそうで運河で帝国軍の物資輸送船を襲撃したりと問題が表面化してきているぞ」
「そんなに……まだ鎮圧されていなかったとは……」
偽皇帝による反乱……恐らく史実におけるプガチョフの乱と呼ばれている反乱の事だろう。
プガチョフの乱……ロシアで起こった農民一揆でも最大規模の反乱と言われている出来事だ。
自称ピョートル3世を名乗っていた偽皇帝ことプガチョフという元コサック軍尉官が指揮を取って農奴解放を掲げて起こした反乱だ。
一時はカザフスタンやカスピ海にまで勢力を拡大させるまでに至ったが、拡大した結果戦力が分散されて1774年には反乱軍主力部隊が撃破された上に、信頼していた仲間に裏切られた結果、1775年にプガチョフは一族や仲間共々処刑され、農奴反乱は終結した。
この一連の流れがプガチョフの乱である。
HOBFのロシア帝国プレイでは割と高確率で反乱発生するので悩ましい問題でもある。
しかし、こちらではプガチョフはまだ生きている上にロシアの露土戦争がうまくいかなかった反動もあってか、プガチョフにつき従う人々は予想以上に多いようだ。
ヨーゼフ陛下がその事を教えてくれたのだが、どうやらロシア軍は初期対応を完全にミスってしまい、反乱鎮圧にてこずっており、清国から得られた賠償金と領土で巻き返しを図っているとさえ聞く。
農奴を解放している上に、現地民がプガチョフに協力的ということもあってか、反乱は治まるどころかドンドン悪化しているという。
「貴殿も聞いたことがあるかもしれないが、自称ピョートル3世であると語りながら農奴解放を行っている男がいるのは知っているな?」
「ええ、ロシア関連の情報に目を通した時に……ただ、その男に関した情報は1775年頃から聞かなくなったのでてっきり反乱は鎮圧されたのかと思っておりました」
「……そうだ。確かにほとんど情報が入って来なかったからな……私も鎮圧されたと思っていたが、先月29日にウィーンに届けられた速報では去年の11月30日頃までにヴォルガ川下流域一帯を制圧し、カザンを守っていた帝国正規軍1万人と討伐に向かった帝国軍の増援2万人を撃破したぞ。交通の要衝であるカザンを制圧したことで『正統ロシア帝国政府』の樹立をカザン・クレムリンで宣言したそうだ」
驚くべき話であった。
史実では兵站の問題も合わさってプガチョフの軍勢はカザン・クレムリンでの戦いでロシア帝国軍に破れてしまった。
しかし、こちらでは単なる反乱ではなく建国宣言まで行ってしまったのだから。
事実ならもう既にロシア帝国はプガチョフの反乱を抑えることが出来ないのかもしれない。
話の続きにはさらに悪い話も入っていたのだ。
「その自称ピョートル3世は正教会やイスラム教の宣教師を巧みに使って正統な皇帝であると周囲に宣伝しているそうだ。露土戦争で疲れ果てた農奴達は藁にも縋る想いで、男の下に集まって来ているそうだ。農奴も一人では無力かもしれないが、十人、百人、数千人と雪だるまのようにどんどんと集まっていけば、やがては強大な勢力になるというわけだ」
「しかし、鍛え上げて農民や逃亡農奴を討伐に向かった正規軍を撃破するとは……」
「偽皇帝は曲がりなりにも元軍属だったこともあってか規律も正しく、農奴を兵士に変えて各地でロシア軍を撃退している。下手な正規兵よりも戦闘慣れしていると聞くぞ。それに、奴の元に集まった農奴達には後がない。だから死に物狂いで偽皇帝を守るべく戦うから士気も高い」
「そんな彼らに新市民政府論が融合すれば……」
「ああ、いずれ出まかせな王族を自称する人間が反乱を起こして階級を平等にすると宣伝するだけでも人々はついていくだろうな。特に改革が進んでいない東ヨーロッパ地域では尚更不安定化が進んでしまうだろうに……全く、エカチェリーナ2世も愛人を囲う生活を送るぐらいなら、さっさと反乱を鎮圧すれば良かったのだ……」
ヨーゼフ陛下はそう言ってロシアの現状を憂いていた。
プガチョフの乱がこのまま進んでしまえば、オスマン帝国と手を組んでロシア帝国を撃滅できるだけの力がある。
オスマン帝国も敗北はしなかったが勝利もしなかった。
その雪辱を果たすべく積極的に裏で支援をしているに違いない。
この時代のオスマン帝国は本来であれば政治的・軍事的にも欧州諸国に負けっぱなしであり衰退を迎えていく。
第一次世界大戦が始まった20世紀初頭には瀕死の帝国というネーミングセンスが付けられるレベルで悪化していき、結果的には協商国にボコボコにされて領土を奪われた挙句トルコ革命で滅亡した。
だが、これで正統ロシア帝国と手を組んだらどうなるだろうか?
偽皇帝ではあるが、イスラム教の宣教師までも使っている情報を鑑みれば、オスマン帝国の保護国にならないにしてもそれ相応の援助を行うのは間違いない。
北方の安全さえ確保できればオスマン帝国の悩みの種であるロシアへの脅威が減るのだから万々歳というわけだ。
欧州諸国会議で、万が一ロシア帝国に泣きつかれてしまった場合……正統ロシア帝国政府への処罰に援軍を寄こしてくれと言われかねない。
各国が新市民政府論……革命思想に対抗できるには団結が必要なのだが、思っていた以上に難航しそうだと頭を抱えてしまうのであった。




