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277:君にしか出来ない事

今回はちゃんと真面目なお話なので初投稿です

お昼ご飯を食べ終えた後、俺はアントワネットと二人っきりの時間を作った。

勿論のことながら、大真面目な話をする時には大トリアノン宮殿の書斎を使うことにしているのだ。

防諜面を考慮して、部屋の前にいる護衛役に至るまで、全て国土管理局の職員が警備を務めている。

守衛もいるが、守衛に関しては巡回警備が主な任務であり、基本的に重大な話などがある場合には部屋の前に国土管理局の職員が警護と警備を担当するようにしているのだ。

これも赤い雨事件を教訓にしている。


今思えば防諜に関して言えばあの事件を教訓に対策を練られた所も多い。

ルイ14世時代からの伝統で、王たるもの国民への威信を見せつけるためにも王室の私生活全て見せます!という信念の下で、食事だけでなくなんとトイレシーンも見せていたらしい……。

ルイ14世は晩年虫歯だけでなく健康な歯すらも毒であるという謎理論を理由に全部抜歯した関係で、固い食べ物が食べれなくなった関係でお腹が弱く、トイレをしながら大使とか使節団と謁見していたという話すらある。


……と、そんな彼が作ってくれた(悪習を作ってしまったと言えばいいのか……)ちょっとどころか全くもって警備のけの字も感じられない体制だったこともあり、赤い雨事件ではあっという間に警備の隙を突かれる形でアデライードの凶行を許してしまう形となった。

なので執務室の両側の部屋には、緊急時に部屋に駆けつけてくれるように隠し扉を設置しているのだ。

勿論のことながら、国土管理局の職員が執務室内に常時2名待機しているので、いざという時は彼らが咄嗟に飛び出してきて俺やアントワネットを守ってくれるSPでもあるのだ。

あ、ちなみに彼らの正式な役職は『王族警護係』という形を取っているよ。


「それで……オーギュスト様、重大なお話の事をお聞きしたいのですが……」

「ああ、それは来月にパリで行われる【欧州諸国会議】でオーストリアとプロイセン代表の間に入って双方を執り成して欲しいのだよ」

「執り成し……ですか?」

「うん、一応は宿敵でもあるわけだけど、そうも言ってられない状況だからね……イギリスの惨状を見ていると、近いうちにプロイセンや領邦にもこの騒乱状態が飛び火する可能性があるんだよ……だから共通の敵を倒す為に、一時的でもいいから共闘をする必要があるんだ……」


欧州諸国会議……本来であればイギリスを含めた欧州各国が集まって、貿易協定や経済連携、互いの意思確認などを行うために俺が主催して呼び掛けた会議だ。

この時代、なんか相手が気に食わないとか国内の不満逸らしの為に戦争を数年スパンでドンドンやっていたこともあり、内政に力を入れている我が国としては戦争なんて金と人員の無駄でしかないので、突発的な戦争を引き起こさない為にも、各国が集まって互いに意思表示をする場を設けようと思ったのが始まりである。


早い話が現代の国際連合をこの時代に適合させた縮小版と言った方が分かりやすいだろう。

その会議では王の意見を代わりに答弁する王族ないし大使が代表者となり、各国がそれぞれ2人から3人を選出し、パリのブルボン宮殿本会議場で来月……2月20日に会議を開催する事を各国に去年の11月末までに連絡を入れたのである。

丁度イギリスで大規模な暴動が起こり、それが革命運動へと変わっていくというスペクタクルな状況だったこともあってか、各国は状況確認の為にとパリに赴くようだ。

距離的にイギリスと最も近く、英国国内の騒乱の情報を入手しやすい国がフランスだからね。


で、そんなフランスでオーストリアとプロイセンが握手する必要があるというのも、プロイセンでも革命思想が最近浸透しつつあるようで、有事が起こった際にはプロイセンや領邦を通じてフランスとオーストリアとの国境線が遮断される危険性が生じてきたからでもある。

同盟国であるオーストリアとフランスは地形図で見ればブーメランのように「く」の字でプロイセンやネーデルラントを包んでおり、これが包囲網の役割を成していて抑止力となっている。

……が、逆を言い換えれば「く」の窪んでいる部分にプロイセン軍が集中的な攻撃を加えることで軍事的にも経済的にも双方で重要な陸路を遮断できるのだ。


「しかし……流石にプロイセンや領邦でも動乱が起こるのは確率的に低いのではないでしょうか?新市民政府論を支持している団体の摘発に乗り出していると伺っておりますが……」

「ああ、だけど問題なのは新大陸の動乱で帰国してくる兵士達が革命思想に感化されている場合だ。現にイギリスに帰国した兵士達の中には国王や現政権を敵と見なして革命思想に転身した兵士も多くいるという情報が入って来ているんだ。捕虜になった軍人全てがそうした考え方に賛同的というわけじゃないけど、感化されていた場合には国内で反乱を起こす、もしくは起こす可能性のある軍事教練を受けた人間が大勢入って来ていると考えたほうがいいんだよ……」

「つまり……プロイセンや領邦で大規模な反乱や内戦が起こる危険が差し迫っている……という事ですか?」

「そういうことになるね……。それに万が一反乱に成功して国王廃止論を唱える国家元首が誕生でもしたらそれこそ大変な事になるよ……」


もし、プロイセンで革命が起きてフランス方面に侵攻してきた場合、我が国はイギリスと睨み合いを続けているドーバー海峡だけではなく陸上でも挟み撃ち……二方面戦闘に対応しなければならない。

特にこの時代にはマジノ線という要塞防衛ラインなんて立派なものはないのでネーデルラントを経由しなくても軍事力と物量で押し込んでしまえばパリを占領する事も出来る。

あくまでもこれは極端な例ではあるけど、そうなった場合フランスの防衛ラインは大きく後退してしまう。


「仮にイギリス全土で革命が成功した後に、プロイセンと領邦でもこれと同じような内戦が起こり、革命派が勝利したとしよう。全ての市民が賛同するわけではないかもしれないが、それでも大勢がこれに同意して王を倒そうと目論んでヨーロッパ各地に侵攻してきたら……まず彼らが攻めるのはどこだと思う?」

「そうですね……経済的に豊かな国を侵攻するのであればフランス……次に友好国や同盟国への海上を封鎖するとすればネーデルラントやデンマーク=ノルウェーですか?」

「そうだね、ドーバー海峡を渡ればすぐにフランスがあるから日を決めて同時に攻撃すれば我々は二方面の戦いを強いられる事になるね。それにスウェーデンやロシアからの海軍の援軍を封じ込めるにはデンマーク=ノルウェー同君連合が有する北海とバルト海を封鎖すればいいからね……今のデンマークはかつての勢いは無いからプロイセンが総攻撃を仕掛けて傀儡化すれば、イギリス・プロイセン・デンマークは地理的に三角形上に結ばれるから北海の封鎖もやりやすくなるというわけだ……アントワネットも中々鋭くなってきたね!」

「ふふふ、しっかりと勉強をしてきた甲斐がありましたわ!」


やはりアントワネットに勉強させておいて良かったわ~。

滅茶苦茶冴えている上に、俺の読みを当ててくるのが凄いなぁ。

イギリス・プロイセン・デンマークが革命勢力に支配された場合、北海の制海権はほぼ彼らの手中に治まることになる。

さらにネーデルラントを占領されたら、プロイセンとの国境であるストラスブールだけでなくダンケルクにも陸上戦力を割り振らないといけないのだ。


同時攻撃されて大西洋側の沿岸地帯やプロイセンや領邦と領土を接している地域が制圧されたりでもしたらパリはあっという間に陥落してしまうだろう。

フランスというのは国土の大半が平原でもあるので侵攻されやすいのだ。

もし侵攻を受けて攻撃に耐えられないと判断された場合、パリまで一直線に侵攻されていくだろう。

そうなったら最悪パリを捨てて遷都も考えなければならないのだ。


候補としては現在繊維産業が盛んで工場の建設ラッシュが進んでいるマルセイユ、モンペリエといったフランス南部地域だ。

これらの地域は現在国が主導して再開発事業を行っており、地中海貿易などを担う海洋貿易都市でもある。


万が一に防衛線が突破されて敵がパリに侵攻してきた場合には、首都から国民を脱出させてマルセイユ・ないしモンペリエに臨時のフランス王国の首都を置いて侵攻勢力へ対抗するという手筈だ。

トスカーナやスペインと連携して挟撃する……つもりだ。

一応スペインとはまずまずの関係だし、この時代はスペイン・ブルボン朝でありルイ16世とは遠い親戚にあたるカルロス3世が統治している。


余談だがスペイン・ブルボン朝は現代でも確か存続していたし、国民からも高い支持を得られていた。

……けど、このまま新市民政府論が拡大していけば王政を廃止して共和政治、下手すれば独裁政治を望む危険性が高まるし、スペインからの援軍待ちを期待している段階で詰みに近い状態だ。

特に王政廃止・革命上等なアナーキズム風味にたっぷりに浸かった連中が、平和的に解決をするようには見えないし、良くて幽閉……最悪の場合史実と同じく処刑という悲惨な運命をたどることになりそうだ。


そうはなりたくない。

今の人生はとっても充実しているし、平穏な日々で無くなるにしても、今ではもうアントワネットやテレーズ無しの生活だなんて考えられない。

俺は守りたいんだ……この幸せを……。

その想いを込めて、俺はアントワネットに頼んだのだ。


「俺の想定としてはイギリスに関しては当面内戦状態が続くと踏んでいる。しかしながらまだプロイセンや領邦に関してはここで協力関係を見せておかないと今後の防衛戦略に大きな支障をきたす……プロイセンもオーストリアも犬猿の仲である事は十分に承知しているけど、今プロイセンや領邦で内戦が起きるのはオーストリアにとってもマズイことだと思うんだ……。アントワネット、両国の共闘を呼び掛けるのは神聖ローマ帝国の血を受け継いでいる君にしか出来ない大役でもある。会議でお願いできるだろうか?」

「そうですね……お話は分かりました。オーギュスト様の頼みであるならば、妻として王妃として……大役を引き受けてみせますわ!」


アントワネットはグッと視線をこちらに向けて言ってくれたのだ。

すごく頼りになるぞアントワネット……!

いつになく真剣な表情で言ってくれたので、俺としても本当に良かったと思っているのだ。

アントワネットが大役を引き受けてくれたことに感謝し、彼女の想いを台無しにしないためにも会議を成功させる決意で俺はより一層の熱意を込めて仕事に取り掛かるのであった。



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