表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

264/1069

262:スパイシー1776

午後8時を過ぎたという事もあってか、会議は区切りのいい所まできていたのだ。

まだまだ煮詰める必要のある議題もあったが、今日一日で突き詰めるには時間が足りない。

それに軍の派遣やマイソール王国への投資案件なども国土管理局だけでなく各省庁と連携して対応しなければならない案件だ。

俺の独断でホイホイ決めて後になって問題が発生すれば威信に関わる問題も引き起こし兼ねないのだ。


先程議題に上がっていたマイソール王国の農業従事者の移住計画も、閣僚会議で議論して反対が多数を占めれば拒否することにもなる。

移民として青龍にやってくるであろう人達は身分制度によって縛られている状態なのだ。

というのもカースト制度という厳格な身分制度体制を敷いているインド大陸だけに、農業従事者の身分はヨーロッパに比べてかなり低いのだ。


それでもまだ農業従事者に関しては人間扱いされるだけマシなようで、不可触民と呼ばれている人達に至っては、人間ではない扱いをされてるという。

それに関しては今のうちに言った方がいいだろう。

俺はデルウィーシュに訊ねた。


「デルウィーシュ、青龍は我が国の領土である以上、我々の法律が適応されるので農業従事者に関しては我々の法律に従って貰えるようにお願いできるかな?」

「勿論でございます。法律といいますと、フランス側の法で犯罪などを起こした時も裁くという事ですか?」

「そうだ。それと我が国では数年前まで小作人として働いている農業従事者を農奴として取り扱っていたが、奴隷制・農奴制を完全に廃止にして彼らを一律に平民として扱っているのだよ。つまり、農奴であったとしても青龍に到着して移民として移住を希望すれば『平民』として扱うが……それでいいかな?」

「かしこまりました。フランスの領土ですからフランスの法律に従います。異存はございません」


マイソール王国から派遣される農業従事者が農奴であったとしても、青龍に移住を希望すれば平民になれる事を確約してくれたのはいい事だ。

これで規定があやふやのままだったらフランス本国やサン=ドマングでは奴隷制を廃止したのに、青龍ではまだ続いているじゃないかと突っ込まれる可能性があったのだ。

我が国ではヨーロッパではいち早く奴隷・農奴制の廃止を行ったが、まだまだ差別や偏見が完全に無くなった訳ではない。

人々の意識の中に深く根付いてしまったものは取り除くのに長い時間を有する。

多様性や価値観の違いというのはどうしてもあるが、これが正しいから全員右習えで強要するべきものじゃない。


(ユダヤ人に黒人……そしてアジア人……法律も定めて受け入れの準備は整いつつある。多種多様な人達がフランスを訪れて、この国に暮らしたいと心の底から言えるようになりたいんだ。だけど俺の代ではまだ到達すら出来ないだろうね……マイソール王国との関係を強化すれば、必然的にインド系の人達が我が国に入ってくる。そうした人達の居場所を確保できるようにするのが王としての責務だな)


過激な民族排斥主義的な考え事を公共の場で主張したり、差別や偏見を助長するような言動や行動に関しては処罰するという法令を制定こそした結果、大通りや街中ではそうした行為を大っぴらにやる事は無くなったが、裏路地や安酒場に入れば厳格な審査を経て入国を認められた移民に対する不満や憎悪などが愚痴としてこぼれているという話を耳にしている。


現代以上に偏見や差別が根強いこの時代で、法令以上の処罰を実施することは難しい。

これ以上厳しく規定してしまうと、よりそうした人種間の不満を持った人間はストレスの捌け口を無くして暴走するリスクが高まるのだ。

それこそ王権を使って価値観の強制的なアップデートなんて事したら彼らの反発を食らうだけだ。

下手をすれば俺だけでなくアントワネットやテレーズに危害が加えられる可能性すらある。

これに関しては現代でも根本的な部分までは解決されていないし、人類史にとっても難しい問題なので、少しずつ初等教育などで学ばせてから問題が少しでも軟化させていけるように工夫するしかないのだ。


(高度な民主主義が成熟すれば人種間問題は21世紀には解決するって言っていた社会学者がいたけど、アレは嘘さ……民主主義を理解した人達は自分達のルーツやアイデンティティを重視するようになり、やがては民族主義に目覚めるか宥和主義者になる。自分と相反する意見に対してはより一層過激な排斥行動もしくは過剰な宥和的主張を起こし、最終的には双方の衝突によってこれらは全て瓦解する……極端な話になるが、ドイツやフランスで極右政党が躍進しているのもそうした事が原因なんだよなぁ……)


時間が解決してくれる……いや、時間じゃなくて教育と理解できる寛容な心が育まれるまで待つしかないのだ。

それが数十年、数百年経過して学んでようやく相互の教育と理解が追いついた時こそ雪解けとなる。

まぁ、これはあくまでも俺個人の理想論に過ぎない。

机上の空論という言葉をそっくりそのまま当てはめてしまうだけだ。


「今日デルウィーシュ殿との会談を踏まえた上で我が国が取り組む課題、並びにマイソール王国への友好条約の更新や条約内容の改訂手続きにつきましては後日、日を改めて話し合いましょう」

「そうですね……もうかなり時間が押しておりますし、今日はひとまずここまでに致しましょう。陛下、コンドルセ侯爵、パンティエーヴル公……お時間を取らせていただき誠にありがとうございました」

「いえいえ、会議は一旦終わりますが、是非とも今夜の晩餐会に参加してください。今夜はマイソール王国との友好を記念してヴェルサイユ宮殿のシェフが南インドの料理を幾つかお造り致しましたので奮ってご参加ください」

「おぉ、それは楽しみですね!では、晩餐会の際には宜しくお願い致します」


デルウィーシュがパンティエーヴル公と握手を交わして会議はお開きだ。

パンティエーヴル公が区切りの良いところで会談を終わらせて、ひとまず今日の会議はここまでという流れになったのだ。

確かにさっきからお腹がくぅくぅ鳴り続けていたからねぇ……。

先にデルウィーシュが退室し、小休憩を挟んでからコンドルセ侯爵やパンティエーヴル公と共にこの部屋を後にする。


恥ずかしい話だが、空腹を紛らわすためにコーヒーやビスケットをちまちま食べていたが、やはり難しい話を続けていると頭を使うし、考え事に加えてお腹が空いてしまうものだ。

お腹がへってしまうと頭の回転も悪くなる。

思考が鈍ってボーっとしているとコンドルセ侯爵が話しかけてきたのに半分ぐらいしか聞き取れなかったのだ。


「陛下、区切りの良い所までいきましたし、これから会談の内容を整理した上で続きは後日に持ち越しをしましょう。……陛下?」

「ん?……ああ、すまない、ちょっと考え事をしていただけだ。会談に関する項目は大丈夫、明日の閣僚会議の場で整理した内容で議論をすればいい。……晩餐会への出席は問題ないよ」

「ええ、ですがあまり無理はいけませんよ。王妃様からも言われておりますから……体調は大丈夫ですか?」

「勿論だとも、ただ身体の具合が悪いのではなくお腹が空いてしまっていたのさ……ちょうど会議も終わって緊張がほぐれたのもあって思考が鈍ってしまうからね。区切りの良いタイミングで切り上げることが出来てよかったよ」

「そうですね、あまり会議が長すぎてしまってもグダグダになってしまいますからね」

「すまない、ちょっとばかり緊張の糸がほぐれてだらけてしまったね……」


いかんな……あまりディープな事を考えてしまうと深く悩んでしまう。

俺の悪い癖だ。

考えれば考える程悩んでしまう。

負のループと言えばいいのだろうか、どんどん悪い方向に進んでしまうのではないかという不安に押しつぶされそうになる。

これから晩餐会だというのに暗い空気のままではイカンな……。

頬をパチパチと叩いてからシャキッと気持ちを切り替える。


「よしっ……それじゃあ晩餐会で使節団との親睦も深めようか……」


ようやくマイナス的な思考を取りやめて前向きになプラス思考に切り替えることが出来た。

インド料理が出てくるそうだが、南インドの料理だと言っていたな……。

どんな感じの味になるのだろうか?

俺はささやかな楽しみである晩餐会に向けて場所を移動したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー

☆2020年9月15日に一二三書房様のレーベル、サーガフォレスト様より第一巻が発売されます。下記の書報詳細ページを経由してアマゾン予約ページにいけます☆

書報詳細ページ

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ