254:国王夫妻の演説
かれこれ80万字以上書いていると、自分でも「あれ……あのキャラクターの所属って何処だっけ?」となるので初投稿です。
熱烈な民衆の前に姿を見せると、先程と同じように大盛り上がりであった。
これから蒸気機関車が直るまでの間、時間稼ぎも兼ねて演説をするのだ。
元々は10分程度のスピーチ予定だったが、その三倍もの時間を使わないといけないのだ。
赤い機体は早さと強さが三倍とか言われているが、こちとら演説時間を三倍にするのでゆっくりとはきはきした声で喋ればいい。
元々アントワネットも演説をする予定だったのが、彼女の演説内容もランバル公妃が中心となって考えてくれたみたいなので密かに気になっているのもある。
俺とアントワネットが前に出ると、まずは俺から演説を始めることにしたのだ。
演説を始めようとすると、一瞬で民衆が静まり返った。
「おはよう!諸君!余が国王のルイ16世である!今日、この場に集まってくれた国民諸君!君たちは歴史的出来事を目撃する事になるだろう!……白い天幕に隠されているのは蒸気の力を利用してレールの上を走る乗り物……そう、蒸気機関車である!今は始動の準備をしているが、ひとたび動き出せばたちまち馬車より多くの荷物や人を乗せて動き出すだろう!」
「おおおおおお!」
出だしの演説は順調だ。
蒸気機関車についての説明もこの際教えたほうがいいだろう。
本来ならここで『では、皆にその姿を見せてやろう!』とか決めセリフを言って天幕を下ろしてお披露目という流れだったので、壮大だが決して嘘はつかないように蒸気機関車の説明を行う。
割とこれ列車について知識がないと喋れない内容でもあるので、事前に調べた甲斐があったというものだ。
「さて……蒸気機関車は、名前の通り蒸気機関を応用して作られた代物だ。この中で蒸気機関を直接見た者はいるかね?見たという者は手を挙げてほしい」
蒸気機関を直接見たという人間が次々と挙手をする。
一人、二人、三人……。
おっと、思っていたよりも多いな……。
ざっと数えて五十人程は蒸気機関を見たという。
ここに集まっている民衆の総数は不明だが、蒸気機関を炭鉱や工場などで使用を開始していることもあってか、それとなく見た事のある人が多いようだ。
それでも蒸気機関って何だよ?と思っている人の方が多いようなので、その起源について話した。
「ふむ、思っていたよりも蒸気機関について見た事のある者が多い事に驚いているぞ。うむ、蒸気機関はここ数十年で飛躍的な発展と開発が行われてきた分野だが、もっとも実用的で今日工場や機関車などに採用されている蒸気機関が発明されたのは今から7年前にイギリスのジェームズ・ワット氏によって生み出されたもの……つまり、蒸気機関はつい最近になってから普及が始まったものなのだ」
産業革命という人類文明の水準を底上げするきっかけを生み出したのが蒸気機関とも言われているし、その機械を発明したジェームズ・ワットの功績はデカい。
そのワット氏が考案した機械に改良を重ねて生み出されているのが現在フランス科学アカデミーで試験実験中の高圧蒸気機関である。
この高圧蒸気機関については国家機密扱いであり、出力を大幅に底上げをする為に改良しているそうだが、実用化すれば機関車も大幅にアップグレードができるだろう。
それだけ科学の進歩が早くなってきているのだ。
ワットの蒸気機関が発明されて特許を取得して7年……基礎研究が進み、さらに出力の大きい高圧蒸気機関がフランス人科学者たちの手によって生み出されようとしているのだ。
「7年……7年間で我々の科学は大きく進んだのだ。湯を沸かす熱を利用して機械を動かすなど五百年前であれば戯言だと言われたり、異端児として処罰の対象になった代物だ。それが今では工場で、炭鉱で使われるようになり、我々の生活を大きく変えようとしている。まだ7年目ではない、もう7年目でここまで技術が進歩してきているのだ。あと7年後には白幕の中にいる蒸気機関車もパリでは日常の光景になるだろう」
高圧蒸気機関の安全性が確保されれば、蒸気機関車の利用は増えていくだろう。
最初は人員輸送ではなく物資輸送で、そこから開発と研究を繰り返し行ってから駅から駅へ移動が出来るようにしていくつもりだ。
利益が出るまでには時間も費用も掛かるが、それでも鉄道に関するノウハウを身につけておけばフランスによる鉄道技術が培われて、同盟国や友好国向けに輸出が出来るようになる。
引いては国力と技術取得の為でもあるわけだ。
「……これからフランスは大きく変わっているだろう。近い将来には日常に蒸気機関が身近なものになり、多くの場所で取り扱いが行われるようになる。多くの技術や研究が培われていき、これから蒸気機関は機械の心臓となって動き続けるのだ。今日発表する蒸気機関車も改良を重ねていけば、人員を短時間で馬よりも早く運べるようになるだろう。やがて、パリだけでなく地方都市にも行けるようになり、人々の生活は劇的に変わるのだ……」
蒸気機関車も最初から高速で走れるわけではない。
今の技術力だと、だいたい時速5キロ前後が関の山だ。
徒歩で歩くぐらいの速度だが、重い積荷を連結して運べるという点で馬車や人力よりも利点があるのだ。
それまで人力で行っていた移動手段が、駅までの間だが鉄道輸送によって大規模な物資の輸送を可能にするという利点があるのだ。
人々は俺の演説を聞いて時折「おぉ……」と声を漏らしていた。
「今日、こうして記念すべき日を国民と共に迎えることが出来たのは余としても、誠に目出度い事である!蒸気機関車を植物で例えるなら、今はまだ発芽して間もない小さい芽かもしれない。しかし、いずれは芽は大きくなり、花を咲かすだろう。今日は土の中から芽を出したばかりの記念すべき瞬間でもあるのだ。今日、1776年6月8日はフランスにとって……いや、人類史にとって大きな意味を持つ一日となったのだ!」
「おおおおおおおお!」
それとなく演説を行ったが、目の前にいる人達は大いに盛り上がっていた。
ハリウッド映画で宇宙人との最終決戦に備えて大統領が映画史に残る名演説場面が頭をよぎったので、それっぽい演説をしたら物凄く彼らに受けたのだ。
拍手喝采で気分もいいのだが、天幕の方をチラ見したがまだ蒸気機関車は直らないのだ。
体感時間でいえば20分ぐらいは時間潰したと思ったのだが、まだ10分ぐらいしか時間が経過していなかったぞ。
ふと、隣を見るとアントワネットが覚悟を決めたような顔つきでこちらを見ていた。
どうやら演説を行う覚悟を決めたようだ。
「あの……オーギュスト様、今度は私が演説をしてみせますわ」
「おっ、いいのかい?」
「はいっ!蒸気機関車を走らせる為です!頑張ってやってみます!」
演説を進めていく中で、区切りの良いところでアントワネットに演説をバトンタッチする事となった。
アントワネットの演説は殆ど聞いたことがないので、どんな演説をしてくれるのか楽しみだ。
彼女は息を吸い込むと、民衆の前でゆっくりと語り始めた。
「皆様、私はアントワネット王妃です。こうして陛下と皆さんと共に蒸気機関車がお披露目されるのを前に、僭越ながらお話をさせて頂きます……この蒸気機関車が作られるきっかけとなったのも、蒸気機関という新技術によって産み出された科学の結晶なのです……」
アントワネットが話したのは蒸気機関車ではなく、蒸気機関を使った工場や紡績機にまつわる話であった。
曰く、蒸気機関が無ければ紡績機も工場も完成しなかった事や、時代が大きく変わる転換期である事も語り、それに目を付けていた俺の事を話ながら、国民に科学についてより多くの興味を持って欲しいという事を語ったのだ。
「陛下は蒸気機関を中心に科学アカデミーの保護を行いました。これからの時代は何よりも科学が重要な役割を果たすようになると……そうおっしゃっていたお言葉は正にこうして現実のものとなったのです。数年前までは科学の力で、生活が大きく変わることは無いのではないか?と思っていた時期が私にもありました……ですが、もう既に生活は蒸気機関を中心とする科学分野の技術向上によって変わりつつあるのです。こうして、陛下や皆さんと共に、記念すべき日を迎えた事に感謝致します」
言葉の締めくくりを同時に、拍手が辺り一帯にこだまする。
俺の演説よりも、アントワネットの演説は科学に対する知識を高める効果がありそうだ。
実際に女性陣がよくうなづいていたように思えるし、科学が発展したからこその蒸気機関でもあるわけだ。
俺よりもアントワネットの演説が一枚上手だったようだ。
「陛下、蒸気機関車の修理が完了致しました」
「分かった。天幕を下ろしても大丈夫だな?」
「はい、問題ありません」
そして天幕からキュニョー中佐が出てきて、俺に蒸気機関車の修理が完了したと報告をしてきたのだ。
いよいよ蒸気機関車のお披露目がやってきたのだ。
演説もちょうどいいところで終わったのでグッドタイミングだぜ!
「では、これより蒸気機関車のお披露目である!」




