251:噴火対策
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1776年6月8日
「おっと……今日は6月8日……いよいよ7年後か……」
諸君、ラキ火山大噴火まで丁度7年後に迫っている事を認識しているルイ16世だ。
執務室の机に面と向かって考え込んでいる。
皆はフランス革命が起こった原因について……知っているかな?
貴族や聖職者が国民が貧窮しているにもかかわらず贅沢三昧していたから起こったという認識は当たっているが、実はそれはあくまでも革命の要因となる一つのパーツに過ぎない。
フランス革命が起こった最大の要因となったのがこのラキ火山と浅間山の大噴火が原因だ。
アイスランドに存在するラキ火山が1783年の今日に大噴火を起こし、その二か月後には日本の浅間山が噴火して北半球全体で寒冷化が起こったんだ。
HOBFでもこのイベントは完全再現されており、特に『悪夢の5年間』と呼ばれる北半球寒冷化イベントにより、ヨーロッパや北アメリカ、東アジアでは凶作と飢餓、全体の効率低下という最悪な効果がもれなく付いてくる。
プレイヤーにとっては税制の軽減や出費の抑え込み、食料が無いので隣国に侵攻して食料を奪ってくるといった世紀末的状況を再現できるイベントだ。
あと7年後に起こるのは勘弁してほしいと願っている。
火山が噴火したことで空気中に大量の火山灰が舞っていき、太陽光を遮る。
太陽光が大幅に遮断されてしまう事で、育てていた作物は日照不足によって育たなくなり、育成不足となる。
それによって収穫できた小麦の味はスッカスカでマズイ、粗悪品のような出来の小麦でも凶作状態なので小麦価格が高騰。
ライ麦や大麦も育成不足でパリでは倍々ゲームのように高くなり、火山の噴火する前に比べて食料価格は高騰し、雑穀ですら満足に買えなくなったパリ市民の怒りが爆発する事態となる。
それがフランス革命の合図だ。
そう、アントワネットが言ったと近年まで言われ続けていた「パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない!」というセリフも、火山の噴火で地球の寒冷化が起こってパンの原料である小麦が不足していた事を示している。
あ、因みにそのセリフが文献で出されたのは19世紀……つまりは創作されたセリフであり今から半世紀後なのでこじつけ的な意味合いもあるのだろう。
アントワネットへの風評被害はやめようね!
「まだ7年……しかし、されど7年……これから7年後までに凶作対策や食料配分の案件の作成もしなきゃいけないなぁ……7年なんてあっという間に過ぎてしまうからな」
そう、あと7年後とはいえ……俺は既に転生してから6年が経過しているのだ。
時が経つのは早いものだ。
こんな調子だとあっという間に革命が起こる最大要因イベントが発生してしまうので、対策が行えるうちにやるべき事はキチンとやったほうがいいのだ。
……で、まず何をやるのか?
アントワネットと世継ぎを増やす作業も極めて大事だが、先ずは寒冷で起こり得る事態を幾つか書いていく。
史実通りなら北半球で噴火に伴う火山灰が空気中に大量に放出して寒冷化するし、農作物や畜産業……果ては人体にも大ダメージを受けることになる。
どのぐらいやばかったのかといえば、火山灰に含まれている有毒物質を吸いこんで肺にダメージを受けて呼吸器疾患で亡くなった人が倍増し、ちょうど秋ぐらいに収穫予定だった作物の大部分が根腐れしたりするぐらいに凶作となり、馬や牛も気候の変化に伴って多くが死んだそうだ。
これに加えて数年間に渡る気候不順と寒冷化、果ては農作物の不作・凶作という農業国家であるフランスにトドメを刺しにきたんじゃないかと思いたくなるぐらいのイベントが起こるわけだ。
そりゃ世界規模に影響を及ぼしたわけだから、ヨーロッパだけじゃなくてアジアも被害食らいますわな。
といっても火山の噴火が止めれる能力なんてもっていないので、おそらく史実通りに起こるとしたら被害を覚悟しないといけない。
ラキ火山や浅間山の噴火による寒冷化でただでさえ農作物がダメになってしまった上に重税を課したり、貴族や聖職者の利権を守る為に特権階級者への課税政策に圧力を加えたりして、経済がドンドン悪化した結果が積もりに積もった鬱憤が、革命という手段で行われたというわけだ。
……そりゃ、小麦のパンとかが食べられなくなった上に、貴族や聖職者は食料を大量に仕入れる関係で食料の値段も庶民が買うよりも優遇してもらえていたんだから、キレるのも無理ない。
俺が庶民の立場なら「もぅまじ特権階級むりぃ……革命しよぉ」と決意をキメて暴れる自信がある。
フランス革命で語られるようなバスティーユ牢獄の襲撃が革命の合図だったとも言われているからねぇ……。
革命は全力で阻止する……それが俺のモットーである。
というか革命起これば国王としての権限を剥奪され、夫婦諸共処刑されて粛清という名のロベスピエール君による悪夢のような恐怖政治しかないので何としてでもそれだけは阻止しなければならない。
なんで同じ組織の有能な人物を粛清したがるのか?と歴史ゲームで思っていたが、翌々考えたら自分より有能だったらトップの座を奪われると思ってやったんだろうね。
その結果、ナポレオンがクーデター起こして帝政敷くまで国内ゴタゴタになりましたけどね……革命はクソだよ!
特権階級者への課税政策は既に行っているので、これに関しては大丈夫だとして……。
問題はこのラキ火山と浅間山大噴火によって引き起こされた寒冷化がいつまで続くのかが問題だ……。
「5年ぐらい続くのか……?それだと農作物はほぼ自国向けに切り替えをしたりするとしても大麦やライ麦系に切り替えないと小麦が育たないからなぁ……野菜も寒さに強い野菜を春までに収穫して乾燥するなりして瓶詰め保存しておくべきかなぁ?それだとその年はいいかもしれないが、次の年にどうするか悩むんだよなぁ……」
1783年から噴火の影響が、どのぐらい続いたのかが分からないんだよ。
ゲームだと影響はだいたい5年ぐらい残るんだけど、フランスだとそれ以降も気候が安定しない年があったようで、不作だったり凶作となる年が立て続けに起こったそうなんだよね。
そんな食料ねぇ!金もねぇ!パンを求めて街中ぐるぐるという状況なのに王族や貴族・聖職者は腹いっぱいご飯を食べているのを見れば市民が激昂するのも無理はない。
農作物の中でも寒さに強い野菜や、長期保存が可能な瓶詰めしたジャムや食べ物を予め大量に作っておいたり、台湾やサン=ドマングといった赤道付近の地域であれば食料生産がなんとかできると思われるので、そっちで畑を作らせて収穫させる案もある……。
うーん、でもラキ火山噴火した時って各国はどんな対応していたんだっけ?
ドイツ……プロイセン王国はジャガイモを育てていたみたいだし、各ヨーロッパ地域は野草や食べれるものを口に入れて飢えを凌いでいたという。
今もジャガイモの栽培を進めているのだが、それだけでは少々不安でもある。
気候の影響を受けにくいのと、多少痩せている土地でも育てる事のできる食べ物を探したほうが早いだろう。
「うーん、これに見合う条件の作物ってあったっけ?飢餓の救済食……非常食なら野草でも食べられるのはあるけど……食用として育てるならジャガイモと同じ芋系がいいのかなぁ……あっ……芋ならアレがあるじゃないか!日本の秋から冬に必須ともいえる風物詩となっている食べ物が!」
……やはりジャガイモと並んである程度寒さに強く、ボリュームもあるもの……。
となれば、俺が思い当たるのはサツマイモだ。
量もあるし、何よりも甘味があるので噛めば噛むほど砂糖などを付けずとも美味しいのだ。
味噌汁にも合うし、シチューにぶち込んでも割と旨い。
洋食にも合うだろうから、これはいいんじゃないかな?
「確かサツマイモって日本だと江戸時代から飢餓対策の為に鹿児島辺りで栽培されていた筈だし……伝来したのが種子島だったから薩摩藩からという意味でサツマイモなんだっけか?ヨーロッパだとスイートポテトって呼ばれているんだっけか……甘味があって栄養値もそこそこ高いからいいねぇ!」
転生前だと、秋になれば軽トラックで石焼き芋を公園で売りさばいていたのがよく印象に残っている。
あの釜で焼いた石焼き芋を公園の自販機で売っている暖かい緑茶と一緒に食べると身体がポカポカと温まっていくもんだ。
折角だから来年にはサツマイモを王立試験農園で栽培・収穫してアントワネットとテレーズと一緒に焼き芋を堪能しようかな?
ジャガイモと並んで寒さに強く、痩せた土地でも育てることが出来るのでサツマイモも大々的に導入をしようかな。
そうすれば7年後までにはサツマイモを普及させることも十分に可能だろう。
よしっ……とりあえずは噴火後の食料対策については今のところはこれだけでもいいからまとめておこう。
ドアがコンコンとノックされてから、使用人が報告を行うために執務室に入ってきた。
「陛下、そろそろ出発のお時間でございます」
「おっ、もうこんな時間か……分かった直ぐに行くよ」
俺はササッと書き終えてから歴史的瞬間を目にする為にヴェルサイユ宮殿を後にする。
というのも、今日は蒸気機関車がついに完成し、一般向けにもお披露目する形となっているからだ。




