238:美味しいものを食べて過ごす事
午前8時30分、早朝に起きてしまったので再び就寝し、朝日を浴びて起床する。
実際に二度寝ほど気持ちいいし、毛布の中に籠っていたい気持ちになる。
特に冬場は寒くなるので尚更その気持ちが強くなる。
けど、起きなければならない。
さらば毛布!就寝の時までしばし待たれよ!
「お目覚めのお時間でございます!」
召使い長の号令で起床し、アントワネットとテレーズを起こして朝を迎える。
今夜のクリスマスパーティーを楽しみにして今日の仕事をこなしていこう。
朝起きてからするべき事は朝ごはんを食べる事。
朝食を食べないと頭がボーっとして動かない。
それに朝食を抜きにしてしまうと昼飯でドカ食いして結果的に居眠りする原因になってしまうので、起床してから朝食を出すようにしてもらっているのだ。
今日の朝食は香ばしい匂いがしてくる。
「おはようございます陛下、王妃様、王女様、本日の朝食はライ麦パンを使ったサンドイッチにホットレモンティーでございます」
「おっ、朝ごはんの良い香りがしてくるね~サンドイッチには何が入っているんだい?」
「はっ、今日のサンドイッチには子牛のローストビーフ、高原キャベツにスクランブルエッグが入っております。王女様のお口にも合うようにサイズを噛みやすいものにしたものも用意してあります」
「おお、ありがとう。さてと……今朝ごはんを食べて今日も一日頑張っていこうか!アントワネット!テレーズ!」
「ええ!素敵な一日にしましょう!」
子牛のローストビーフという贅沢な部分を使ったサンドイッチ……。
外側にキャベツが、ローストビーフの中にはスクランブルエッグが入っており、ホットティーがコップに注がれる。
う~ん、なんとリッチで贅沢な朝食なんだろうか……。
子牛のローストビーフはかなり高い部分になる。
柔らかくて噛めば噛むほど旨い。
牛肉盛沢山ということもあってか、カロリーは高いがその分冬場は寒いので十分暖かくなる。
おまけにレモンティーは果汁がたっぷりと入っているので身体を暖めるには最適だろう。
ホットレモンティーって温まるし、あのピリッとしたレモンの果汁が美味しいんだなこれが。
テレーズも柔らかくしたライ麦パンを美味しそうに食べている。
笑みを浮かべながら食べてくれているのでパパとしても安心だぞう!
「よしよしテレーズ、しっかり食べようね~」
「うん!」
「よしよし、これで一安心だ。ふぅ~っ……冬場のレモンティーは身体が温まるからいいね~」
「そうですね!ホットミルクティーも好きですけど、レモンティーも身体がポカポカしてきますね」
「レモンは身体にいいからね。このレモンもフランスで育てるように品種改良ができればもっと価格も抑えることができるようになるからねぇ~」
ローストビーフが入ったサンドイッチを食べながらホットティーで身体を暖める。
レモンは今現在スペインやイタリア南部といった地中海の温暖な地域でしか栽培できない貴重な果物だ。
フランスではスペインや地中海貿易を経由して入って来ているが、冬場は価格が高騰しやすいので入手が難しいのだ。
温室栽培も行われているのだが、これはまだ限られた富裕層とかが行っているので一般にはあまり冬場は普及していないのが実情だ。
レモン美味しいんだけどなぁ……他の柑橘系の果物もかなり高い値段で取引されているので、温室栽培を促進させるのもいいかもしれない。
「温室栽培をしている所もあるけど、まだまだ数は少ないからねぇ……」
「ええ、レモンは南の温暖な場所でないと育たないですものね」
「そうなんだよねぇ……今こうして美味しいレモンティーを飲めるのも貿易で栄えているお陰さ……夏場ならレモンサワーにしてお酒で飲むのもオススメだね」
「ふふっ、オーギュスト様は色々と味わうのが御好きですね」
「こうして色んな食べ物や飲み物を味わう時が好きなんだ。美味しいものを食べて過ごす事こそ人生で重要な事ですって俺の尊敬している人も言っていたんだ……」
「美味しいものを食べて過ごす事こそ人生で重要な事……そうですね、味わう事ができない時ほど辛いものはありませんものね」
「それに、こうしてアントワネットとテレーズと一緒にご飯を食べているのを真横で見るのが一番癒されるよ。日々の疲れも吹き飛んでいくのさ」
「ふふっ、オーギュスト様も美味しそうに食べるので私も好きですよ」
微笑みながら食事を続ける。
美味しいものを食べて過ごす事こそ人生で重要な事……。
これを言っていたのは俺の好きなアニメの登場人物が語っていたセリフだ。
主人公たちが料理を振る舞い、知恵者の登場人物が料理の味を堪能して主人公を褒めた上で、人生で回り道や辛い事があっても、料理を食べてひと息落ち着かせる事も重要だと忠告するのだ。
普段は無愛想だが主人公に心を開き、笑みを浮かべて話している光景を見ていると心がほっこり和む。
そのシーンで登場した料理はかなり手の込んだ作画だったし、人々の心を掴んだ名作アニメとして名高い作品だ。
実際に、こうしてアントワネットやテレーズと一緒にご飯を食べる事で、俺は幸せを噛みしめている。
毎日公務ということもあってかキツイけど、それでもテレーズが成長してアントワネットと一緒に食事を取るだけでも格段に違ってくる。
二人がいなかったら俺は王としての行動を続けることが出来なくなっていたかもしれない。
あのアニメで言っていたセリフの言った通りだ……。
辛い時や苦しい時でも、美味しいものを食べて過ごす事が人生で大事な事だと……そう教えてくれた……。
ホットレモンティーを飲み終えて身体が温まり、時計を見て午前9時10分になっている事を確認する。
公務開始が9時30分からなので、そろそろ準備をしなければならない。
「さてと……アントワネット、俺はそろそろ仕事に行ってくるよ」
「分かりました、では私は王立試験農園で育てているほうれん草の収穫に立会いますわ」
「おぉ、ほうれん草かぁ……今の時期が収穫期なんだね~。ということは今夜はほうれん草関連の食事も出るかもね!」
「ほうれん草は苦味が強いのでまだまだ私には食べづらいのですわ……まだニンジンのほうが食べやすいですの」
「ああ、確かにほうれん草はアクが強いからね……まぁ、ゆっくり改善していくことがオススメだね。テレーズは乳母さんの所に?」
「ええ、そろそろ発音の教育などを行う予定です。もうじき喋る事が多くなりそうですから」
「成程……テレーズ、しっかり学ぶんだぞ!」
「うん!」
朝食を食べ終えてアントワネットとテレーズに言葉を交わしてから、寝間着から普段着に着替えて執務室に向かう。
これから午後4時までは王としての執務の時間となる。
大トリアノン宮殿に設置してある『国王専用執務室』が俺の主戦場だ。
クリスマスとはいえ、王としての執務は欠かせない。
休息日を除いて基本的に俺はここで職務を全うしている。
執務室に到着し、椅子に座って前日分の書類に目を通しているとまずやってきたのはハウザーだ。
今や改革派にとって欠かせない人物であり、最近では国王の右腕というあだ名が付けられているのだという。
5年前まで宮殿に出入していた商人が、今では政治中枢に関わる政治家へと変わったのは凄いことだなと自分でも驚いている。
「おはようございます陛下、本日の重要な報告書はこちらにございます。まず本年度の施設費用の決済は既に済ませてあります。後は陛下の最終承認待ちです。続いてアメリカ大陸の戦況報告と貿易関係の書類と合わせてお読みください」
「うん、ありがとう。今日の報告書と書類はこれだけかい?」
「はい、今のところはこちらにある報告書と書類になります」
「そうか……また追加でやってくるようであれば順次持ってきてくれ」
「かしこまりました」
「それから……改めて聞くけど今日のパーティーには参加するんだね?」
「ええ、せっかくの機会ですから参加しようと思っております。何卒よろしくお願い申し上げます」
ハウザーは一礼して執務室から去って行く。
今日のパーティーに参加すると言っていたし、これはまた張り切って仕事を早急に片付けさせないといけないようだ。
転生してから日常となっている執務の時間だ。
寒くなってきているので暖炉に薪をくべてガンガン燃やして部屋を暖かくしている。
施設課の人が巡回して薪をくべているので火が消える心配はない。
頬をパンパンと叩いて気合を入れてから執務の作業を行うのであった。