228:閑話休題
ハウザーに新大陸における新しい貿易内容を伝えると、目を丸くして驚いていた。
今までやってきた事の応用編といえばいい内容だったが、それでもリスクは低めであり、経済的・人員的にも大きな費用を掛けずに行えるという事で、ハウザーは俺の出した案を頷きながら聞いてくれていた。
「……確かに、それなら新大陸での利益も大きく見込めるでしょう。人件費も殆ど掛からずに、必要な人員と元手の資金さえ手に入れば行けますね」
「どうだろうか?国土管理局のトップとしてこの案はいけると思うか?」
「……うーむ、殆ど問題なく行けるとは思います。我が国はかの戦争には加担しておりませんし、何よりも新大陸側の評判も悪くありません。しっかりと正当な賃金などを支払えば問題ないと思います」
「そうか……では、この案も意見の一つとして入れておいてくれ」
「畏まりました」
アントワネットのアドバイスを受けて考えた俺の案も意見の一つとして取り入れてもらえた。
ハウザー曰く十分に賛成多数で可決されるようだが、それでも改革派の意見として入れておく。
俺ばかりが独断専行でドンドンやってしまうと色々と問題になった時が大変だからね。
ちゃんと皆で議論し、出された意見を把握するべきだ。
それを反映せずに自分の独断専行で行ってしまうのはよろしくない。
そんな事をした暁にはだれからも信用されなくなってしまう。
ディスカッションを一通り終えた後、それぞれ出され始めた意見などを見ていく。
俺が閃いた参入方式も良い案だとは思うが、まずは皆の意見に目を通すべきだろう。
何か改善につながるものがあるかもしれない。
常に人の意見はしっかりと聞く姿勢が大事だ。
仕事でもプライベートでもね。
反論などをする際にも、意見ではなく個人的な感傷だったり別の話題が出されたらいい気分はしないだろう。
転生前に人の意見を聞かずに独断専行で会議を行う嫌な上司がいたからねぇ……ある意味あれは反面教師としては優秀だったよ。
パワーハラスメントは日常茶飯事。
ホチキスの針が留めてある場所が違うという理由で書類で顔面ビンタ。
飲み会ではアルコールハラスメントで新人社員を酔い潰して急性アルコール中毒で入院させる。
女性社員にセクハラ行為をしまくった挙句、ホテルに連れ込もうとする等……。
会社に陳情しても仕事だけは優秀だったこともあり、中々辞めさせて貰えなかった。
ただ、会社のお得意先でプレゼンの内容が気に食わないと重役連中の前で癇癪を起こして女性の部下を平手打ちだけでなくグーパンチで殴った為、この時ばかりは擁護のしようもなく退職処分になった模様。
それでも懲戒免職にしなかったうちの会社はブラックすぎるぜ……マジで。
話はそれてしまったが、ディスカッションで持ち上がった案などをまとめあげ、その中から参考になるものを今後の政策方針に組み込むことで一致する。
俺の意見も選ばれたようで何よりだ。
「さてと……大まかではあるが意見も出揃ってきたようだね。」
「はい、当初は多かったですが今現在ではおおよそ5つの行動指針に絞ることができました。これらの中から改革派と国土管理局の総意として各員の投票で選ぶことになります」
「うむ……いいだろう。ただ、その前に夜食を一つ取るとしよう……議論で少々疲れてしまったからね。頭に栄養を行き渡らせておきたい」
「そうですね、もう午後10時ですから軽いお食事をとったほうがいいでしょう。議論が再開する午後10時30分までの間に丁度料理総長が軽食を作っておりますからお呼びいたしましょうか?」
「おお、是非ともそうしてくれ」
時刻は午後10時を回り、夜食用として皆に軽食が振る舞われた。
アルプス山脈で栽培されたレタスをふんだんに使い、その中にハムとチーズを挟んだサンドイッチだ。
サンドイッチをこぼさないようにと、包み紙まで用意されている優れっぷりだ。
さすが料理総長は色んなところで気が利いて助かる。
俺やアントワネットもただ座っていたわけではないし、今後に備えて対英ないし新大陸への貿易案を練っていたところだったので、実にいいタイミングで夜食が運ばれてきたというわけだ。
「お待たせいたしました陛下、王妃様、アルプス山脈で採れたレタスを使ったサンドイッチでございます。夜食ということもあってお腹の負担にならないようにソースもタルタルソースで締めておりますがよろしいでしょうか?」
「おお、勿論大丈夫だよ!アルプス山脈で採れたレタスを使ったサンドイッチか……どれこれを食べてから総括のまとめに入るとしよう」
「ええ、色々と考えているとお腹が空いてしまいますわね。頭からも力が抜けてしまっていましたから」
「夕食は軽くスープだけだったからねぇ……どれ、サンドイッチの味を確かめてみるとしよう」
夜10時に食べるサンドイッチの味はどうか?
旨いに決まっている。
特に議論などを経て食べるので頭に糖分がガンガンと流れ込んできている感じがする。
噛めば噛むほどレタスのシャキシャキ感が伝わってくるし、ハムとチーズがレタスの美味しさを引き立ててくれている。
サンドイッチだけではなく、セルフだがコンソメスープも作ってきてくれたようだ。
コンソメスープの良い香りが漂ってくる。
「コンソメスープか……アントワネット、コンソメスープも飲んでみるかい?」
「そうですね……せっかくサンドイッチを食べたら〆にスープを一杯頂きたいですわね。一緒に飲みに行きましょうか!」
「そうしよう。ひと息してから一気にやったほうが良い。休息も取りながらしっかりとやろう……テレジア女大公陛下も仰っていたからね」
「ええ、休みながら物事を進めるのが一番いいですわ。あまり詰め込み過ぎてもお体に悪いですもの。ささっ、オーギュスト様!」
アントワネットはコンソメスープの匂いに釣られて俺の手を軽く引っ張って向かって行く。
やはりコンソメスープを欲しがっているのを見るに、アントワネットは相当お腹が空いていたのかもしれない。
まぁ難しい話を議論する場なのだからお腹が減るのも当然と言えば当然だな。
勿論、サンドイッチを食べ終えてからコンソメスープを飲むのだが、座席が汚れないようにとスープを飲むスペースを確保してある。
俺も皆に混じってコンソメスープを頂く。
コンソメスープの中にはニンジンに大豆、トマトにさやえんどう……そしてベーコンが入っており栄養満点だ。
アントワネットと二人でコンソメスープを頂き、ゆっくりと口元を火傷しないようにふーぅと息を吹いてから飲み始めた。
「……お野菜もたっぷりと入っているのでお身体にはいいですわね!」
「そうだね……アントワネット、野菜は残してはいけないよ?」
「大丈夫ですよ!ちゃんとニンジンも食べますから!」
「……ちゃんとコップが空になるまで飲んだらシナモンティーを作ってもらうように料理総長にお願いしよう」
「ホントですね!二言はないですね!ほらっ!見ていてください!」
「……おお、アントワネットが苦手なニンジンを一気に……」
「……ふぅ……これでどうですか?」
「……うむ、よく頑張った。今夜はシナモンティーを飲むことを許可しよう」
アントワネットが苦手とするニンジンもシナモンティーパワーで飲み干すことが出来た。
やはりこういう時は女性の好きなモノ……食べ物や飲み物でお願いするといいみたいだ。
そしてコンソメスープを飲みながら改革派のメンバーとも閑話休題、息抜きという感じで気さくな感じで様々な話題で会話を行う。
休憩時間にはまだまだ余裕がある。
身分や出身など関係なく、互いに話をし合うだけでもいいものだ。
こうして距離を縮めて話をするだけでも彼らの状況を知る事ができるのだから。
談話をしていると、一人の青年が近づいてきた……彼はピエール・ヴェルニヨであった。
ガチガチに緊張しているのか、彼の足元は震えていた。
「あのっ……!陛下!お初にお目にかかります!自分はピエール・ヴェルニヨと申しますっ!」
「君がピエール・ヴェルニヨだね。改革派にようこそ。今年初めて入ったんだね」
「はいっ!陛下のお役に立ちたく……改革派に志願致しました!」
「おお、それは大変結構!我々改革派は国だけでなく国民と共に……より良い社会に導くために結成した組織だ。各自が持っている知識を生かして改革の役に立って貰いたい」
「はいっ!全身全霊で参ります!」
ピエール・ヴェルニヨはかなり喜んでいたようで何より。
彼、史実だとジロンド派と呼ばれる革命勢力の一派を担っていて、最終的にはロベスピエールによって処刑されるんだよね。
ただ、元々弁護士として有能な性格と演説が上手い事で有名だったそうだ。
そんな彼が革命ではなく改革派に入るとは……人生何が起こるか分からんねコレ。
さて、休憩も終わっていよいよ議論の大詰めを迎えることになる。
改革派はどんな方針を採択するのか……俺とアントワネットはその様子を見守るのであった。




