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227:参謀本部

プロイセン王国の発明品を奪ったので初投稿です

時刻は午後8時30分を回ったところだ。

議論を開始して2時間と10分が経過し、オペラ劇場では蝋燭に火が灯される中で議論が展開されている。

その中でも、今後の対英政策や民間レベルでの協議が議論され、経済関連に関しては銀行家や投資家による議論が白熱している。

軍事方面での予測はおおよそまとまったが、やはり経済に関しては議論が白熱しやすい。

楽観論もあればより強烈な悲観論も噴き出している。

議論を見つめながら、傍にいたハウザーに現在の状況を尋ねた。


「どうだ?各自議論は煮詰まっているか?」

「はい、おおよそではありますが軍事方面はまとまりました。あとはイギリスの今後の経済対策を巡って各グループごとに分かれて議論を重ねております」

「経済対策は大事だからね……今まで行ってきたディスカッションが役になってきた気がするよ」

「ええ、こうして改革派のメンバーや国土管理局が合同で議論を重ねるのは良い機会であります。軍部では参謀本部で対英戦略の随時更新が予定されております。今回の議論でいくつか挙げられた視点も取り入れるとの事です」

「それは良かった。色んな意見を聞いたほうが選択肢も増えるからね。参謀本部長のシュフランも意見を積極的に採用する軍人だ。彼に任せておけば問題ないだろう」

「はい、彼も議論に参加しておりますのでひとまずは問題ないかと」


軍事方面では参謀本部が今後の軍事面における対英戦略を担うことになる。

参謀本部……響きがいいよね。

軍事方面はそこまで手を加えていなかったんだけど、流石に陸海軍が共同で意思疎通ができないとマズイよねという理由で陸軍・海軍が作戦を行う上で互いの作戦内容を共有化し、相互の連絡などをしやすくするために軍の統制機能の計画・指導を行う参謀本部を我がフランスでは今年8月1日付けで設立。

恐らく世界で初めて陸海軍合同の作戦計画を担う参謀本部を設立したのだ。

史実ではプロイセンがこのシステムを開発したんだけど、ちょいと半世紀ほど早く作り上げてやったぜ。

プロイセンは泣いていいぞ。


で、この参謀本部長を務めるのは実戦経験があるか、もしくは指揮統制能力に優れている将校を入れようということになり、適任者を探した末に参謀本部長としてサン=ドマングでの動乱を鎮圧した海軍提督のピエール・アンドレ・ド・シュフラン海軍少将が担っている。

根っこからの海軍軍人というべきか、軍人としての気質もさることながら指揮を高めることに優れている軍人だ。


外見はすごくぽっちゃりした体形の持ち主で、俺個人としては彼のBMI値を少々心配しているものの、海軍軍人として資質はスゴい。

七年戦争の時から彼の戦場を見る目はかなり鋭いものであり、当時の戦争の相手国であったイギリス海軍の艦隊運用方法などを見抜いていたという。

ただ、色々と上司には恵まれなかったようでかなり苦労したようだ。


彼の訓練はスパルタ教育とも言えるぐらいに厳しいものであったが、彼の率いる艦隊は常に士気は旺盛であり艦隊運用に関しても、とびきり海軍大臣からお墨付きを貰う程だ。

サン=ドマングでの動乱を鎮圧した功績を持って少将に昇進した彼は新造されているシャルルマーニュ級フリゲート艦の訓練指揮を担う程に、上司からも部下からも信頼は厚い。


他の海軍軍人からも猛将と呼ぶに相応しいという声が挙がる程だ。

第二次世界大戦時におけるアメリカ海軍で猛将を謳われたハルゼー提督みたいな人だね。

直接会って話したこともあるけど、彼は武人としての心得を理解していて、それでいてしっかりと教育を行う人物である事は俺も承知している。


「参謀本部長としての任務を任せたいのだが、やっていけそうか?」

「色々と初めての事ですので海軍だけではなく陸軍の情報を共有して取り組んでいきたいと思います。陸海軍の作戦指揮の補佐を担う……今まで個人での力量でなんとかするしかなかった部分を専門の補佐官を入れて担うことで力量をカバーする……これなら今後の軍事作戦もしやすくなります!」

「それは良かった。何かわかないことがあれば遠慮なく聞いてくれ。分からないことや改善点が生じた場合には陸海軍の各大臣に報告するように、定期的な演習なども行って不備を洗い出してほしい。頼むぞシュフラン参謀本部長!」


肩をガシッと掴んでお願いすると、シュフランは涙を浮かべて喜んでいた。

いやはや、やはり軍部の意思疎通って大事だわホント。

俺は転生者だけに、この意思疎通がダメで悲惨な末路を遂げた軍隊を知っている。

何を隠そう日本軍だ。

恥ずかしい限りだがね。


日本軍だと陸軍主導の参謀本部と海軍主導の軍令部というのがあり、戦時中は大本営で指揮を取っていた。

……が、太平洋戦争の際には意思疎通はおろか双方の戦略思想が決定的に違っていたこともあってグタグタになってしまった負の思い出がある。

日本陸軍は中国やソ連を主軸とした大陸での戦争を想定して訓練を積んでいたのに対して、日本海軍はイギリスやアメリカなどの海洋国家との戦争に備えていた……。

そう、陸海軍で戦略目標が纏まっていなかったのである!


おまけに同じ軍隊なのに足を引っ張り合い、陸軍は海軍が信用できないといって自前の輸送潜水艦というものまで作ってしまうし、海軍は海軍で陸軍用の物資を奪うし身内同士で争いあっていた。

「海軍としては陸軍の提案には反対である!」というゲームのセリフは有名だが、まさにその通りの状況が繰り広げられいたのだ。

アメリカやイギリス、中国と戦争しているのに真の敵は自国の陸海両軍とかシャレにならんわ……。


その結果が広島と長崎への原子爆弾の投下……ソ連の中立条約破棄による一方的な宣戦布告によって完全に軍は破綻。結果が敗戦という建国以来諸外国との戦争では本土に足を踏み入らせなかった日本の地がGHQを中心とする連合国軍による占領下に置かれてしまった末路である。

そんなかつての日本軍のような足の引っ張り合いを起こさないように、各軍隊の作戦指揮を把握する必要があるのだ。


問題は経済対策であった。

経済に関しては国土管理局よりも改革派のメンバーに多くの銀行家や商人、さらに経済学に詳しいユダヤ人の人達が議論をしているが、大きく分けて二つの意見が採り上がっている。

新大陸への大規模な参入か、それとも従来通りの地中海貿易やスペイン・ポルトガル等の近隣諸国の貿易を堅実にやっていくかである。

新大陸への参入は魅力的ではあるが、既にフランスは一度失敗している上に、これから台湾の基隆獲得の為に行動を起こしている。

一度に二つの大きな参入事業はリスクが高い上に、新大陸では君主廃止論を含めた『新市民政府論』が主流となっているようで、取引とついでに革命思想みたいなヤバイものまで持ち込む可能性が高いのだ。

慎重に越したことはないのだが、改革派のメンバーではイギリスの後釜ではないにしろ、貿易路を拡大すべきとの声も決して小さくはない。


「軍事行動はいいとして、問題は経済方面の対策だね」

「はっ、国土管理局でも話し合いが行われましたが、今のところ行動を抑えて静観するようにする動きが主流となっております……しかしながら、やはり事業の拡大と経済発展の為に進出という手段を取るべきとの声も聞かれます」

「あら?今イギリス軍は混乱しているのですよね?ならイギリスは新大陸に目が行くので殆どこちらは影響はないのでは?」

「王妃様、イギリスが新大陸から撤退することになりますと、当然ながら新国家が誕生します。国名までは分かりませんが、北アメリカ連合州軍が国家になると、それだけ新大陸での貿易なども大きく影響します。特に、新大陸ではイギリスの貿易の一大拠点であり、七年戦争以降はフランス領だった場所もイギリス領になりましたので、新大陸における貿易はほぼ独占状態でした。それが崩れるとなれば欧州はイギリスの独占状態であった新大陸の貿易路を新たに獲得できるので、各国は貿易路の獲得に躍起になっているのです」

「つまり……新しい市場の獲得の為にイギリス以外の国が参入していく……今までの近隣諸国との堅実的な貿易も兼ねてイギリス無き新大陸での貿易も拡大するべきだ……という考えが広がっている認識でよろしいかしら?」

「はい、その認識で問題ありません」


アントワネットはハウザーにそう尋ねると、暫く考え込む。

顎の辺りに指を触ってふむふむと考えている姿もすごく可愛いのだが、アントワネットの場合は彼女なりにどういった考え方に纏まるのか予想が付かない。

議論を重ねて20分ぐらいが経過した時、突然アントワネットは何か閃いたようで俺に質問をしてきた。


「オーギュスト様、フランスは今新大陸では貿易をなさっているのでしょうか?」

「一応はしているけど、あくまでも民間企業に偽装した国土管理局の情報連絡船が行き交っている程度だよ。勿論、嗜好品の類をイギリス軍やボストンを占領している北アメリカ連合州とも取引をしているけど……それがどうかしたのか?」

「それですよ!まだ新大陸では嗜好品の類は作れないんです……つまり、()()()()()()()()ようにすれば大きなリスクを背負わずに貿易を行うことが出来るのではないでしょうか?」


大きなリスクを背負わずに貿易を行う。

つまり、作る基になる物を売り込めばいいのだ。

おおっ、これならいける!いけるぞぉぉぉぉ!

脳内で問題解決の効果音が音割れ爆音で流れ出るぐらいに今年一番興奮した。


「……おおっ!そう言う事か!アントワネット、でかした!それならフランスがローリスク・ハイリターンで利益が返ってくるね!その案で行こうじゃないか!」

「まぁ!私の意見がお役に立って何よりですわ」

「ハウザー、イギリス軍が新大陸から撤退すると同時に国営企業を参入するのはどうだろうか?勿論、人員も少数で……」

「そうですね……少数でなら問題はないかとおもいますが一体なにをなさるおつもりですか?」

「フフフ、言わば元締めさ……今から詳細を話す……」

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