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212:新大陸は燃えているか

2020年9月15日に一二三書房様のレーベルであるサーガフォレスト様より書籍版が発売される事が決定されました。

これも皆様のお陰です。

本当にありがとうございます。

また、この世界線における独立戦争は文字通り燃えるので初投稿です。

★ ★ ★


1775年3月20日


アメリカ大陸・イギリス領ニューヨーク


フランスでは転生者とその伴侶が愛し合っている最中、アメリカでは血みどろの独立戦争が継続していた。

史実ではアメリカ合衆国の一大金融市場センターとして名を連ねているマンハッタンは、イギリス本土から派遣された部隊や雇われドイツ人傭兵部隊をウィリアム・ハウ将軍が率いて約2万4千人の軍勢が守備を固めつつあった。

ウィリアム・ハウ将軍と北米方面軍最高司令官の任に就いているトマス・ゲイジは、司令室にてアメリカ大陸の地図を見ながら何度も部隊の場所の確認をして、来るべき反撃作戦の立案を構築している最中であった。


「司令官閣下、予定通りヘッセン並びにヴァルデック侯国の兵士達にニューヨーク各地の要所の守備に就かせました。本土から到着した野砲や銃なども順次陸揚げする予定です」

「報告ご苦労、本日到着した我が軍の兵士達には追加のテントと寝具を支給してやってくれ。ここも人数が大幅に増えたからな」

「綿花の栽培の拠点だった南部地域が北アメリカ連合州軍に占領されてしまいましたからね……当面は今ある物資と追加で輸送された藁で凌ぐしかありません」

「そうだな、まだ武器・弾薬は足りているが……このまま北アメリカ連合州軍が優位になればそれすらも危ういか……」


イギリス軍のトップを悩ませていた問題。

それはボストンやケベックが植民地支配からの脱却を訴える北アメリカ連合州軍に占領されて以来、アメリカ大陸の東海岸エリアのイギリス軍支配地域は狭まるばかりであった。

ボストン暴動事件で恐慌状態に陥ったイギリス軍兵士が無垢な市民までも虐殺した事が仇となってしまい、イギリス軍に味方してくれている者達は少ない。


東海岸エリアでも戦略的に重要な港であるニューヨークは辛うじて近隣のニュージャージー全域を含めてイギリス軍が支配できているが、それ以外の地域ではノーフォークやカナダのセント・ジョンのみがイギリス軍に残されたアメリカ大陸における反撃拠点であった。

それ以外の地域や港、主要な植民地都市は北アメリカ連合州軍の手に落ちたのだ。


「我々に残されたのはこの三拠点を中心としたエリアだけだ。それ以外の地域でも孤立した友軍がいるようだが……残念だが、彼らを助けることは出来ないようだ……」

「ええ、予想以上に民兵組織や植民地人間の情報網が深く、我々の支配地域以外では度々輸送隊が夜襲を受けております。恐らく孤立した友軍は我々をおびき出すために()()()殲滅していないのでしょう」

「救援に駆け付けたところを待ち伏せの奇襲を仕掛けてくるからな……まるで狩人のようだな」

「植民地人は今や我々イギリス人を狩る立場になっております……とても厄介なことです」

「イギリス狩り……またの名を王冠狩りとはな……」


王冠狩り……それはイギリス軍兵士や王党派に属していた市民たちを文字通り狩る事を示していた。

ボストンやケベックが占領された時に軍兵士や英国王党派の市民が成すすべなく虐殺されたイングランドの草刈り場以来、数は減ったものの北アメリカ連合州軍占領地域では毎週のようにイギリスの支持者や奇襲攻撃によって指揮系統を失ったイギリス軍残党の殲滅戦が続いていた。


例を挙げればイギリス軍支配地域のノーフォークへの逃避行動を行っていたイギリス軍の小隊が、逃避行動の途中で見つけた宿を訪れた際に宿屋の主人に丁重に招かれて豪勢な食事を振る舞われたが、その食事には猛毒が盛られており兵士達は食事を食べて数分で痙攣と発作を起こして次々と倒れた。

唯一食事の直前に腹痛を起こしてトイレにいた兵士は、その様子を見て大慌てで宿を飛び出して馬を奪い、命からがらノーフォークでその状況を伝えるといった有様であった。


ボストン暴動事件後も、植民地とイギリス本土との間で広がっていた溝は深まるばかりで、状況は一向に改善できなかった。

イギリスの議会では庶民院の複数の議員達が植民地に配慮して減税措置や茶税の廃止などを盛り込んだ法案を提出したものの、国王のジョージ3世や首相のノース男爵を中心とした政府トップがこれに断固として反対した為である。


『既に新大陸の植民地では民兵組織によって兵士達が不意打ちで殺害され、無垢なイギリス市民が植民地人によって虐殺された挙句、家や財産まで奪われたのだぞ!抵抗した者は尽く殺されてしまった……このまま引き下がったら彼らはよりつけ上がってくる!次はイギリスの国土を差し出せと脅してくるやもしれん!』

『それに新大陸といえど蒸気機関は殆ど持ちこまれていないし、大砲や銃の製造能力は我がイギリスが圧倒的に上回っている。残された支配地域には今すぐにでも増援を送って植民地人を教育する必要があるのだ!』

『奴らは植民地人でありながら産み育ててくれた親を貶す不良少年になってしまった。親としては不良少年は躾をさせるべきだろう。そしてドイツ人の友の力を借りてでも更生させるべきだ』


年が明けた直後に、イギリスとの関係が良好であったプロイセン王国の領邦国家を中心に、新大陸植民地討伐軍を編成する。

イギリスが勝利した暁には南部地域の一部領土の割譲まで約束させているのだ。

狭い領土でひしめき合っている領邦国家にとっては、自分達の名声を上げるチャンスでもあった。

特にヘッセンは2万人もの兵士を新大陸に送る事を確約しており、今月に6千人もの兵士が新大陸に到着している。

またイギリスでは討伐が決定されたことで正規兵を中心とした兵士不足を解消するため囚人たちに兵役を行う代わりに罪を取り消す「恩赦兵役」が行われ、重犯罪者を除いて多くの元犯罪者達が兵士として新大陸に赴いている。


「本当に彼らで大丈夫なのだろうか……」

「それでも戦力が無いよりはマシです。本国も正規兵の消耗は避けたいのでしょう」

「北アメリカ連合州軍の大部分は民兵で編成されているが、彼らだって訓練を積んでいると聞くぞ。烏合の衆にならないといいがな……」

「とにかく、今は目の前の敵を倒し、新大陸に秩序を取り戻すべきです。恐怖を取り除かないといけないのです」


ウィリアム・ハウ将軍はトマス・ゲイジ司令官に語る。

恐怖の反動というものは凄まじい。

北アメリカ連合州軍支配地域に潜伏させたイギリス人スパイからもたらされた情報はウィリアム・ハウ将軍やトマス・ゲイジ司令官の目に留まり、思わず顔を伏せたくなるような内容が書き連ねていたのだ。


・植民地人はイギリス人を酷く憎んでおり、特に英国王党派の者やイギリス軍に協力的だった者を厳しく弾圧・迫害している。良くてコミュニティーからの追放だが、最悪の場合は子供を含めた一家全員が見世物として処刑される。


・特にボストンではその過激な行動が頻発しており、半年の間でイギリス軍の協力者の大部分は密告等によって情報網が壊滅し、3月後半以降の活動は行えそうにない。


・また、連合州軍や民兵組織はともかく、一般市民によるイギリス軍の敗残兵狩りが残忍であり、農民は斧や鎌で敗残兵を追いまわし。集団で嬲り殺した上で死体をコミュニティーの入り口に磔にする。

磔にされた亡骸には『イギリスを大陸から追い出そう!』と描かれた板が打ち込まれていた。


「ですが本当に……我々はこの大陸で勝てるのでしょうか……」


報告書を読み終えたウィリアム・ハウ将軍は思わず弱音を吐いてしまう。

本来であれば隣にいるトマス・ゲイジ司令官が「そんな弱気でどうするんだ!」と叱責するべきなのだが、生憎と司令官もウィリアム・ハウ将軍と同意見であった。

蜂起を起こした民兵組織や北アメリカ連合州軍を撃破すれば良いという状況ではないのだ。

仮にこれらの軍事組織を打開できたとしても、もう植民地では反英国主義が剥き出しになっている。

裁判や処刑を行ったとしても、ここまで敵意が剥き出しの市民を処刑したとなれば、倍返しされるのは目に見えている。


「だが、俺達がやらねばならん。でなければイギリスに忠誠を尽くしている市民の死体が増えてしまうからな」

「敗北しても地獄、勝利しても地獄ですか……この戦いは長くなりそうですね」

「ああ……長く、苦しい戦いの始まりだよ」


トマス・ゲイジ司令官はウィリアム・ハウ将軍のやつれそうな声に、深く同情するのであった。

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☆2020年9月15日に一二三書房様のレーベル、サーガフォレスト様より第一巻が発売されます。下記の書報詳細ページを経由してアマゾン予約ページにいけます☆

書報詳細ページ

― 新着の感想 ―
[良い点] >2020年9月15日に一二三書房様のレーベルであるサーガフォレスト様より書籍版が発売される事が決定されました。 おめでとうございます! [一言] 最初から少しずつ読み進めて今ようやく4…
[一言] 仮にイギリスが勝って南部地域の一部の割譲が実現するとして、 イギリスのお仲間の彼らを市民が歓迎するとは…(それでもイギリスよりはマシ?) というかまさか新大陸に逆侵攻するだけの海軍力が無い事…
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