210:試合後のお風呂は至高
資料の為に購入した本のレシートを紛失してしまった(確定申告用に使う予定だった)ので泣く泣く初投稿です。
アントワネットとの激戦を繰り広げた直後。
物凄く喉が渇いてしまった。
額には汗がびっしょり濡れており、服にも染み込んでしまっている。
これは帰ったら夕食前にお風呂に入らないといけないようだ。
流石にベタベタしたままだと辛いからね。
きれいさっぱり汗を洗い流してから夕食を食べるべきだろう。
額からあふれ出る汗をハンカチで拭くのだが、ハンカチで拭きとっても次から次へと汗がぽたぽた落ちてくる。
「それにしても……凄い接戦でしたね……」
「思っていた以上にアントワネットが強すぎたわ……もうかなり汗でびしょびしょだよ……」
「本当に、ここまで運動も兼ねて動き回ったのは久しぶりですわね」
「ああ、テレーズ……試合を見てどうだった?」
「あ~う~!ううう!」
テレーズは試合中に泣いたりせずに、ずっと試合を見ていたようだ。
乳母さんから「テレーズ様は興味深々そうに試合をご覧になっておりましたよ!」と告げられた。
テレーズにとって初めての球戯場だったこともあり、きっと目を引くものが沢山あったのかもしれない。
いつかテレーズがラケットを扱える年頃になったら、試合に挑んでみたいものだ。
それにしてもテレーズはアントワネットに似ていて、本当に可愛いなぁ。
まんまるな目に、愛嬌の良い笑顔。
顔を近づけると両手で頬っぺたを抓ってくれる。
地味に痛いが娘の愛情表現だと思えばこのぐらいどうという事はない!
それからヴェルサイユ宮殿に戻り、緊急の報告がないことを確認してからお風呂に入ることにしたのだ。
「さてと……汗を流したことだし、お風呂に入るとしますか」
「ええ、ところで……今日はお風呂はどうします?」
「うん?もしかしてアントワネットが先に入りたい?」
「あっ、いいえ、その……もし良かったら一緒に入りませんか?だいぶ今日の試合で汗をかいたと思いますので……それに、ルイ14世陛下が使っていたバスタブを浴槽周りも改装して新しく排水処理も行えるようになったので、二人で入っても問題ないかなと思って……」
「あー……そういえばあの王室専用のバスタブも改装して新しくしたんだよね……以前は一人分だけのスペースを二人が入ってもゆとりがあるようにしたっけ……それじゃあ一緒に入ろうか」
アントワネットから誘ってくるとは珍しい。
普段は個別に一人ずつ入ることにしているのだが、今日は一緒に入りたいという。
決してやましいことは考えていないのでそこは安心してほしい。
やましい事をした瞬間にこの物語が終わってしまう予感がプンプンするのでね。
純粋に夫婦が風呂に浸かるだけだ。
テレーズも一緒に入ろうと思ったのだが、抱えながら入るのは結構怖いのと、乳母さん達がテレーズの身体を洗ってくれると申し出ているので、テレーズは乳母に任せて俺とアントワネットで久しぶりに一緒にお風呂に入る事にしたんだ。
「さてと……それじゃあ風呂に入ってくるからテレーズをよろしくね」
「はい、どうぞごゆるりと休んでくださいませ」
「あああううう!わあああああん!」
「大丈夫だよテレーズ、お風呂に入ってくるだけだからね?」
「そうですよテレーズ、ほら、乳母さん方を困らせてはいけませんよ?」
お風呂に行こうとした直後に、テレーズが泣いてしまった。
俺とアントワネットがそばから離れた事で急にぐずってしまったようだ。
乳母さんがテレーズを抱っこしてよしよしと宥めている間に、アントワネットと共にお風呂に向かう。
ちょっとだけ泣きながら引き留めようとするテレーズを見て心が痛んだのは秘密だ。
今日二人で入るお風呂はルイ14世が使っていたバスタブを改装して排水処理などの問題を解決した新しい王室兼来賓者専用のお風呂場だ。
普段使っているのは一人用のバスタブであり、現代のバスタブと比べても対して変わりない。
それに比べてルイ14世が使っていたバスタブは床より下に設置された浴槽なのだ。
露天風呂とかに近い形式だったのだが、このバスタブが長らく使われなかった原因が排水処理が不十分になりやすいのだ。
なんでも設計時にはそこまで排水処理に対してきちんと設計をしていなかったらしく、おまけにルイ15世は全然お風呂に入らない生活を過ごしていた事もあってこの風呂は使われていなかった。
(折角いいお風呂場を持っていても使わないんじゃ宝の持ち腐れじゃないか……なら、この際ここのお風呂場も新しくしてみようかな)
結果、維持費が嵩むしメンテナンスが大変だったという。
最近は予算も潤沢になってきたので、たまには贅沢しようかなと思ってこのお風呂の改装を決定し、半年ほど時間をかけて掃除などが行き渡りやすいように手を加えたというわけだ。
脱衣所で服を脱いで、いざ風呂場の扉が開かれると、そこにはヴェルサイユ宮殿に新設した公衆浴場に対抗できるほどの優雅さを兼ね備えたお風呂場になっていた。
「おおっ!これが新しいお風呂場かぁ!新古典派のデザインを取り入れたようだね」
「あらっ、オーギュスト様!これを見てください!ハーブのお風呂ですよ!」
「ハーブ風呂かぁ……香りもいいし、心地いい感じがするね」
「それにこれも……炭酸水が入った瓶が備えてありますわ!」
「炭酸風呂にも変貌できるというわけか……これはすごい贅沢だ」
どうやら球戯場で運動し汗水流していることを知った職員が、ハーブをお風呂に入れてくれたようだ。
ピンクと紫色の中間色のようなお風呂には、鼻の中が透き通るような香りで満たされている。
これだけでも贅沢なお風呂だが、さらに炭酸も加えてシュワシュワとしたお風呂にも変貌できる。
アントワネットはウキウキしており、今すぐにでも入りたい衝動に駆られているようだった。
「まずは身体の汗をお湯で流してからお風呂に入ろうか」
「日本式の入浴作法ですね!」
「そうそう、湯加減はこれで大丈夫かな?」
「はい、これぐらいでしたら大丈夫です」
「よし、それじゃあ軽く身体をお湯で洗い流すよ」
「お願いしますわ」
桶に汲んだお湯を使い、ゆっくりとアントワネットの身体に流し始める。
普段は俺とテレーズにしか見せない彼女のありのままの姿。
美しく、透き通った白い肌。
滑らかでぷにぷにとしたお肌にお湯が掛かる。
お湯で軽く洗い流したアントワネットの肌はいつ見ても綺麗だ。
「ふぅ~っ……気持ちいいですねぇ……」
「ハハハッ、汗水流した後にお湯できれいさっぱりするのは本当に気持ちがいいよね」
「それでは、今度は私がオーギュスト様のお身体にお湯を掛けて差し上げますわ」
「ああ、頼む」
今度はアントワネットが桶に入ったお湯を俺の身体に掛けてくれた。
相変わらずというか、慎重にゆっくりとお湯を掛けてくれた。
アントワネットは入浴の時は一人で入るタイプだが、こうして一緒に入る時は俺に気を遣ってくれている。
なので、俺もアントワネットに負担を掛けさせないようにしている。
身体を洗い流してから、二人揃って新しく出来た浴槽に肩まで浸かる。
「おぉ、かなり深いね……アントワネットは大丈夫かい?」
「ええ、丁度浴槽の真ん中部分は座れませんわね……私だと深すぎて溺れてしまいそうですわ」
「確かに……少し深いから背の低い人がうっかり溺れるとちょっと怖いね……後で施設課の職員に連絡しておくか」
浴槽には階段のような場所があり、その場所に座って入浴を楽しんでいる。
中央部分は結構深めであり、恐らく俺のように背の高い人でも寛げるように浴槽の深さを調整したものと思われる。
ただ、これはこれで後々トラブルや事故になってしまうと怖いので、施設課の職員に連絡を入れて注意書きなどをプレートに刻んで風呂場の入り口に設置する等をしたほうが良さそうだ。
「フフフ、こうしてお風呂に浸かっていると……疲れが癒されますねぇ……」
「ああ、その通りだよ。ハーブの心地良い香りと相俟ってまさに天国にいるような気分だ……」
「そうですねぇ……私はオーギュスト様と一緒にいる事が幸せですね……えい!」
「おぉふ!」
そう男の心をピンポイントでくすぐってくるアントワネットはゆっくりと俺と身体を密着させてきた。
ぎゅーっと身体がくっついてきたものだから、思わず声が漏れてしまう。
豊満な彼女のふくよかな身体もそうだが、まさに心地良い感触だった。
抱きしめあってお風呂場で一通り彼女の甘えを受け入れた後、一旦アントワネットは浴槽から出てグラスを取り出した。
「せっかくですから、この炭酸水を飲んでみませんか?お風呂に入れるのもいいですけど、一度浸かりながら飲んでみたいのです」
「あー、確かに……喉の潤いも必要だもんね」
何とも贅沢すぎる状況下で、アントワネットは瓶のコルク栓を抜いて炭酸を注いだ。
ポンと栓が抜けて炭酸水をグラスに注ぐとシュワシュワとした炭酸特有の気泡が弾け飛んでいる。
炭酸水だけあって、この水も飲める。
炭酸風呂にするのもいいが、せっかくだし炭酸水を飲みながらお風呂に浸かるにも悪く無いだろう。
「それじゃあ乾杯するか」
「それでは一緒に……」
「「乾杯!」」
再び浴槽に入ったアントワネットと共に炭酸水が注がれたグラスを手に持って乾杯をする。
すっきりとした味わいで浴槽に浸かりながら飲む炭酸水は格別な味わいだった。




