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209/1022

207:ミサ

午前10時に起床したのは、史実におけるアントワネットの起床時間に合わせている為です。

後書きに参考文献を載せますので初投稿です。

午前10時、起床の時間になったので俺とアントワネットは起き上がり、服を着替えた上でミサに参加する。

これは割と重要な日課でもあるわけなのだが、アントワネットはともかく俺はあまりミサには参加せずにひたすらに仕事を行っていた。

神様への御祈りも大事だとは思うけど、このミサって朝だけじゃなくてお昼を食べる前にもミサを行う。

つまり午前と正午にそれぞれ2回も御祈りをしなければならないのだ。

王太子時代はよくミサに参加したが、宮殿行事でもかなり長い間行われてきたようだ。

フランスはカトリック教会が主流の国でもあるので、こうしたミサはカトリックの方法で行われる。


朝に行われるミサというのは、基本的に数分間程行われる。

司祭がやってきて旧約聖書などキリスト教の教本となる本を朗読し、神様のありがたい教えを説教する。

この説教というのは叱りつける事ではなく、宗教の教義とか経典に書かれている内容を説いて教える事を示すのだ。

まぁ、早い話……司祭が『今日も神様の教え守って頑張ろうぜ☆』という感じに語っていく感じだ。

お昼のミサのほうが時間も長いものの、こちらは割と祝日や休息日に司祭が大々的にやる。


ヴェルサイユ宮殿にはそうした宗教的行事を行うために礼拝堂が設置されているのだが、これまた他の建物に比べて大きい。

結婚式を挙げたのもこの礼拝堂だったのだが、改めて建物の大きさに圧倒されてしまう。

最近殆ど礼拝堂に赴く機会無かったもんなぁ……。

アントワネットは俺よりも多く行っているらしいが、ヴェルサイユ宮殿の礼拝堂は本当に大きいですねと感嘆している。


「それにしても……教会の礼拝堂と引けを取らない程の大きな建物ですね……この礼拝堂はいつ頃建設されたものなのですか?」

「宮殿内に礼拝堂を造ろうとしたのはルイ14世の時だね、丁度崩御した年に完成したハズだよ……」

「まぁ……ルイ14世陛下が建設を命じたのですね……通りで装飾なども物凄く凝っているのですねぇ……」

「ああ……これだけ天井に立派な絵を描くぐらいだから相当お金掛かっただろうねぇ……」


礼拝堂の天井を見上げると、神を題材にした絵が敷き詰められている。

宗教画なのだが、こればかりは圧倒されてしまう。

礼拝堂の天井がキャンバスとなっているので、これを描いた人は本当に凄いとつくづく思っている。

ただ、この礼拝堂を作るためにどれだけのお金が建設費で支出されていったかと思うと少々頭が痛くなる。


とはいえ、絶対王政の象徴として君臨したルイ14世が遺してくれた遺産の中でも、この礼拝堂を含めたヴェルサイユ宮殿はフランスにとって欠かせない存在となった。

流石世界遺産に登録されるだけの事はありますねぇ……。

なお、財政がどうなったかといえば俺が尻拭いしている有様なんだけどね!


午前中の御祈りというわけで、テレーズもちゃんと参加している。

といっても乳母車に乗ってのミサだけどね。

抱っこしながらだとテレーズがぐずってしまい大泣きしてしまう事があるんだ。

どうもテレーズはまだこうした広い場所が苦手なのかもしれない。


「これだけ広いと司祭の声も反響するから……きっとそれで驚いてしまうのかもしれないね」

「そうかもしれませんね……しばらくはこうしてそっとしてミサを受けさせるほうがいいかもしれませんね」

「ああ、もう少しテレーズが大きくなったらそうしようか……おっ、司祭が来たぞ」


カトリック教会の司祭がやってきた。

ヴェルサイユ宮殿の礼拝堂にやってくる司祭は身内・素行調査などを行い、問題なしと判断された人間だけが入ることが許される。

ヴェルサイユ宮殿は以前のロアン枢機卿のような人物がのうのうとしていていい場所ではない。

過去にも色々あった事で、教皇国が直々に教育を授けた司祭を派遣しており、関係改善を図っている。


……まぁ、フランスや同盟国であるオーストリアは同じキリスト教でもカトリック系に属している。

ネーデルランドやプロイセンはプロテスタント派だ。

同じ欧州のキリスト教でも、宗派が違えばそれだけで争いの原因になる。

俺としては宗教や宗派の違いによる規制を撤廃したものの、まだまだフランス国内ではプロテスタント派への偏見があるのも事実だ。

偏見を今すぐ無くすことは出来ないが、こうした問題は時間を掛けて少しずつ解決させていくしかない。

アニメや漫画のように主人公がズバッと行動してピタッとなくなるようなものじゃないからね。


「おはようございます。陛下、王妃様、王女様……これより、朝のミサを始めさせていただきます」

「うん、宜しく頼む」

「お願い致します。司祭様」

「では初めに……主であらせられるイエス様は……」


驚くかもしれないが、アントワネットはミサに関しては欠かさずに毎日行っている。

これは母親であるテレジア女大公陛下がキリスト教を信仰し、それでいて宗教的にも密接な関係であった事が挙げられる。

当時からお転婆娘で目を離せばすっ飛んで何処かに行ってしまうアントワネットでも、ミサだけは欠かさずにしっかりと礼儀よくテレジア女大公陛下と共に受けていたという。

アントワネットはお母さん大好きだからねぇ。


「では続いて、交わりの儀に移らせて頂きます」


朝のミサは簡単な御祈りを済ませた上で、交わりの儀が始まった。

ミサの歌が歌われている間に、司祭が聖爵と呼ばれる器に注がれたワインを一口頂くと、先程の聖体とセットで飲み始める。

司祭はこのワインと聖体を飲み干さないといけないルールがあるらしく、最後の一滴も残してはいけないようだ。

……具合悪い時とかむせてしまった時はどうなるんだろうかと思っていると、司祭が飲み干したので今度は俺達の番だ。


司祭から薄い煎餅みたいなものを渡される。

なんでもこれは聖体せいたいといって、神様が実体化した姿らしい……。

これを食べれば神様が心の内側から見守ってくれるとか……。

見た目で例えるなら、奈良県の公園で売っている鹿用のせんべいみたいな感じで薄く丸みを帯びており、ちょっと力を加えるだけでボリボリとこぼれてしまう。


薄く焼いてキリスト教のシンボルマークである十字架を模った模様を加えているのだが、味は……二日酔いで酔いつぶれた次の日辺りでも胃に優しく食べられるような感じと言えばいいだろうか。

物凄く薄い小麦粉を焼いた味がするとだけ言っておこう。

聖体を食べ終わって祈りを捧げたら、ミサは終わる。

後は教皇国からの定時連絡が司祭から行われる。


「今後も教皇国とフランスが良い関係であられますように、教皇様は陛下に尽力いたしますとの事でございます。また、ロアン枢機卿の関係者の処分に関しましては全てお任せするとの事です」

「分かった。クレメンス14世聖下にはご足労をかけた。そしてフランスの情勢に配慮してくれた事に感謝するとお伝え願いたい」

「かしこまりました」


司祭は頭を下げる。

これにてミサは終了だ。

朝ミサ終了~!


「朝のミサはこれで終わりみたいだね」

「ええ、それでは朝食を食べに行きましょうか!」

「勿論!アントワネット、テレーズ、一緒に行こう!」


俺とアントワネット、そして乳母車に乗っているテレーズを連れて三人で歩いていく。

ミサをしているときに大人しく聞いてくれていたテレーズに感謝だ。

彼女もご機嫌そうで何よりだ。

こうしてミサが行えるのも、教皇国との関係改善があってこそだ。


教皇国との関係はロアン枢機卿の一件以来、改善傾向が続いている。

これまでオルレアン2世のやらかした一件も含めて、教皇国は関係改善の為にフランスに協力的な姿勢を取るようになった。

ロアン枢機卿への尋問や彼の配下であった者達の自白によって、教皇国内部にも現ローマ法王のクレメンス14世の姿勢に反対していた者達が、彼を軍事的圧力によって退位させようと目論んでいた事が発覚したからだ。


クレメンス14世はキリスト教を積極的に布教させて教皇への権力集中を行っていたイエズス会を解散させたが、この事を良しとしない教皇国内の急進派は武力を用いて強引に教皇を退位させ、自分達の意見を強く言える傀儡の教皇を即位させようと目論んでいたようだ。

その為にフランスで武器密造・密輸に関わっていたロアン枢機卿を使って、教皇国内に少なくない武器・弾薬の類を持ちこませていたのだ。

尋問によって発覚した後に、すぐさま使者を飛ばして教皇国に知らせると彼らは蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。


急進派は直ぐに逮捕されたが、急進派が目論んでいたのはイエズス会よりも更に強力な権限で布教・忠誠を行わせる宗教機関の設立だったらしく、下手をすれば教皇国内だけでなくカトリック系が主な宗教圏の国で戦争という事態になりえたのだ。

教皇国は急進派の排除に全力を注ぐ事になり、その過程でフランスとオーストリアに助けを求めたのだ。


内戦までには至らなかったものの、ロアン枢機卿の逮捕があと数日遅ければ教皇国で大規模な動乱が発生しただろう。

フランスとオーストリアに借りが出来た教皇国は協定を結び、気がつけばフランスはイタリア半島でも実力と名声ある国家となった。

……と、そんな事があったなと思い出しながらもアントワネットと会話をしながら先に進む。


「……さぁて、今日の朝ごはんは何かな~?」

「少し寒いですので温かいスープがいいですわねぇ~ブイヨンスープで浸したキャベツとかいかがでしょうか?」

「ああ~凄くおいしそうじゃん!あれだけでパン一斤はいけるネ!」

「まぁ!パン一斤は流石に食べ過ぎですよ!」

「そうだね、あはははははは!」


今日の朝食はどんなものになるのか?

そんな事を話し合いながら歩いている俺達。

公務の仕事がない完全なオフの日ということもあってか、俺のテンションも妙に高くなるのであった。

石井美樹子「マリー・アントワネット ファッションで世界を変えた女」株式会社 河出書房新社(2014)

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― 新着の感想 ―
[一言] 「説教」というより、「説法」ですね。
[気になる点] 気がつけばフランスはイタリア半島でも実力と名声ある国家となった。 ↑ この文脈だとイタリア半島にフランスがあるように描写されているように感じるのですが。 「イタリア半島にまでフランスは…
[一言] 下手したらイギリスと教皇国の二正面戦争になってたかもしれないのか。 うわぁ……
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