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199:愛妻家

思えばもう62万字分を書いていたので初投稿です

★ ★ ★


「あううう~」

「あらあら、テレーズ。また目が覚めてしまったのね~よしよし、いい子いい子……」

「あううう~キャッキャッ」


いい子、いい子と呟くとこの子は笑ってくれます。

心の底から喜んでいるような感覚が伝わってきます。

愛しのオーギュスト様との間に産まれた子という事もあってか、今のところは健康にすくすく成長しております。

あなたが大きくなった時、フランスはどんな国になっているのでしょうか?


きっとフランスは今以上に発展しているでしょう。

工場や蒸気機関……さらに科学者や医学者を集めて新しい研究を次から次へと推し進めております。

国家予算もそうした未来への投資に多額の金額を費やしています。

オーギュスト様が実権を握ってから、経済は右肩上がりが止まらない状態です。


オーギュスト様はフランスを変えたいと願っております。

そして、その願いを叶えるべく日々邁進しているのです。

フランスに嫁いでもう4年……。

時が経つのは早いものですね


お母様や家族の皆……ウィーンの宮殿で過ごした懐かしい日々とはもう会えないと泣いた時もありました。

ですが、そんな時でもオーギュスト様は私の事を気を遣って下さったのです。

無下に扱うような事はせず、むしろ大事にしてくださっております。


ああ、お母様への月に一度の手紙も書かないといけませんわね。

先月は出産の関係でゴタゴタしていましたから。

落ち着いた今だからこそ書いておく必要があるでしょう。


「ふふふ……お母様への手紙も書かないといけませんね……テレーズ、手紙を書くから静かにしているのですよ?」

「あう~」

「それじゃあテレーズをお願いね?」

「はい王妃様、テレーズ様は私が見ていますので、どうぞごゆるりとお過ごしください」


テレーズを乳母に預けると、私は机に座って筆を走らせました。

大好きなお母様へのお手紙。

そして、ついに母親になった事をご報告しなければなりません。

既に出産の第一報はウィーンにも届いているのですが、私自らお手紙を書いてお伝えしなければなりません。


『お母様へ アントワネットです。ご機嫌麗しゅうございます。既にお聞きかと思いますが私は先月女の子を出産致しました。予定していたよりも早い出産でしたが、産まれた赤ちゃんは問題なく育っております。オーギュスト様と名前を相談した際に、お母様の名前が良いという事になり、赤ちゃんの名前はお母様の名前をフランス語読みにした”テレーズ”と命名しました。これからテレーズをしっかりと育てるためにも、テレーズに様々な教養を身につけていきたいと思います』


きっとお母様は孫が産まれた事で喜んでいるでしょう。

しかしながら、ウィーンから駆けつけてくることはないでしょう。

あるとしても、条約締結などの重大行事以外はウィーンから離れることは無い。

なので、こうしてお母様との手紙のやり取りが私の心の支えにもなっているのです。


手紙を書いているうちに、どうやってお母様が私を育ててくれたのか……考えるようになりました。

小さい頃はとにかく身体が蒸気機関の歯車のように動き回らないと気が済まなかったのです。

落ち着きがなく、先生達のお話よりも外で優雅に飛んでいる蝶々が気になって気がついたら部屋から抜け出してしまっていました。

……思い出せば、お母様から御叱りのお言葉を投げかけられる事も多かったです。


わがままで動きまわって……フフッ、手のかかる娘でしたね。

頭を存分に使って思い出してみても、ドレスを着たまま噴水の中にダイブしたり、宮殿の庭で花々を素手で摘んで髪の毛に飾ったりしたり……男の子よりもやんちゃな気質でした。

でも、オーギュスト様と一緒にいるようになってから、そうした事は封じ込めて王太子妃として……やがては王妃として振る舞うようになりました。


私の側近としてランバル公妃を推薦したのもオーギュスト様です。

歳が近いのと、アントワネットとの相性が良いという事で彼女とお話をしたりするうちに、何時しか側近という間柄ではなく親友としての仲になりました。

義理の妹であるルイーズ・マリー夫人も、夫のフィリップ2世から度重なる暴力を受けていた事が明るみになった事から、保護も兼ねて国土管理局へと身を寄せて以来、彼女もまた私の良き親友になってくれました。


王妃としての職務を全うできるのだろうか?

そんな不安がやって来たときに、オーギュスト様をはじめ、ランバル公妃やルイーズ・マリー夫人が傍にいて支えてくれたからこそ、私は不安に押し潰れずに夜遊びなどもしなくて済んだのです。

オーギュスト様……そして大切な親友たちの事も書かないといけませんね。


『今日、こうして私が王妃としての職務を全うできるのも、オーギュスト様やランバル公妃やルイーズ・マリー夫人といった様々な方々の支えがあってことです。良き夫、良き部下、良き友人……私の周りには本当に素晴らしい人達が集まってきています。フランスに来て不安に思う事もありましたが、皆がいる事でそうした不安の種も無くなり、フランスでの生活に支障はございません。私は今、とっても幸せです。お世話になっている方々の絵も近いうちに送ります』


何不自由なく生活でき、そして恵まれた人間関係の中で過ごせている私は本当に幸運です。

いつか、皆がいる所を宮廷画家に描いてもらいましょう。

国土管理局の上層部と一緒に集合している絵を描いてもらい、テレーズが大きくなってから色んな人に頼ることになる際に、思い出すように語ることが出来るから。

想い出としてではなく、確実に歴史に残すことが大事なのですわ。


1年後……10年後……100年後……。

未来がどうなっているのかまでは確定できません。

しかし、ある程度であれば予測は出来ます。

オーギュスト様が昨晩話していたのです。

今後のフランスがどうなるか未来を予測しようって。

私はオーギュスト様のお話を聞きながら、二人で語り合ったのです。

どのような未来が良いのかと。


オーギュスト様の予測はこうです。

科学・医療技術が発展し、工場なども今後数年単位で沢山建設されているでしょう。

蒸気機関が発展していけば、いずれは食べ物なども作る際に使われていき、あのキュニョーの砲車もレールの上を元気よく走ってヨーロッパ中を駆け巡るのではないでしょうか?

そして、時代の大きな分岐点で優位に立てれば、それだけフランスが躍進するだろうとも語っていました。


私も似たような考えでした。

蒸気機関は本当に人力では大変だった作業が改善し、機械の力によってその作業を補う。

これがより単純なものから複雑な事が出来るようになるのではないか?

そう考えてオーギュスト様に伝えると、しきりにオーギュスト様は頷いて「その通りだ」と仰っておりました。


未来にどのような事が起こるのか……オーギュスト様のお話は妙に説得力があるのです。

機械や科学が飛躍的に発展していく産業文明社会が訪れ、それによってフランスだけではなく世界が大きく変わる時だと。

4年前に聞いた時は、流石にそれは言いすぎではないかと思った時もありました。

しかし、蒸気機関を見せられてからは、決してそれが夢や空想ではないと考えさせられたのです。


国土管理局の設立や、農奴・奴隷の廃止……アデライード派、オルレアン派の粛清、科学アカデミーへの多額の資金提供、サンソン医師による科学的な治療方法……。

制度や従来の在り方を変える幾つもの改革、大きく変わりつつある社会、それに連動していくように日々技術が進歩していくのです。

私が嫁に来る前からオーギュスト様はこれらの事を考えて行動していたのではないでしょうか?


「もしそうだとしたら……オーギュスト様はかなり前から情報の網を張り巡らせていたのでしょう。かつては人前ではあまり喋らない人だったと聞きますし、きっと時がくるまで沈黙を守り通していたのでしょう」


最近になって、オーギュスト様と出会ったときの事を思い出してしまいます。

あの頃の事を考えれば、まだまだ周りに敵が多かったのも事実です。

一歩間違えていたら、私も様々な噂や悪い人達の口車に乗せられていたかもしれません。

沈黙こそ賢者になるべき条件という言葉もあるぐらいですし、策を巡らせていたとなれば納得がいきますわね。


「さて、手紙も書き終えた事ですし、テレーズと一緒にオーギュスト様の帰りを待ちましょうか。家族三人で団欒のひと時を過ごす……これは平凡な事かもしれませんが、その平凡な日々を過ごせる事こそが国が安定している証拠なのかもしれませんわね……」


大きな争いもなく、政治や治世も安定していてフランスは平穏そのものです。

このまま平穏な時が過ごせるように、私の……いいえ、国の為に一生懸命働いて下さっているオーギュスト様の心が安らぐように、私はこれからもオーギュスト様の為に全身全霊で支えますわ!

そう心に深く誓って、オーギュスト様の帰りを待つのでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] この頃の欧州圏にも、「沈黙は金」という言葉が、存在していたのですね。
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