198:近代的軍備(海軍編)
「この度、海軍では新たに攻撃力並びに防御力を重視したシャルルマーニュ級フリゲート艦の建造・配備が進められております。陛下のご指示の通り、艦の大部分を鉄や鋼によって補強し、艦の前方後方に新造した48ポンドカノン砲を2門、12ポンドカノン砲を12門装備しております。従来のフリゲート艦に比べれば砲の数はかなり少ないですが、それを補うように火力に優れており戦列艦への攻撃も的確に行えるようにしております」
「それは素晴らしい、どんなに多くの砲を積んでいる戦列艦でも命中精度と貫徹力が悪ければ役に立たないからね。対戦列艦用の砲弾も開発しているそうだけど、これについては目途がつきそうか?」
「それに関しましては陸軍との共同研究によって戦列艦への攻撃に優れた榴弾の開発が行われております。遅くても半年後までには配備が出来るようになるでしょう」
「なるほど、現在開発中の榴弾の試験結果が出来たら報告を忘れずに持ってくるように」
海軍戦力に関しては、速度と攻撃力を重視したフリゲート艦シャルルマーニュ級の建造を進めている。
シャルルマーニュ級の名前を付けたのは俺だ。
理由といえばやはりこの時代でも武勲詩として名を馳せている物語であり、多くのフランス人が知っているからだ。
この作品が作られたのは11~12世紀ごろであり、その時代辺りの日本では「平家物語」などが作られた。
因みにだが、この武勲詩が作られる100年前ぐらいには「源氏物語」が既に完成していたりする。
そう考えると朝廷を舞台にした恋愛小説を描いていた紫式部ってやはり天才なのではないだろうか?
とにかく、シャルルマーニュの物語はフランスでは最も有名なお話なんだ。
その有名な話に登場する人物達は、現代ではファンタジー小説やゲームで日本でも有名になっている。
俺がシャルルマーニュが登場する武勲詩を知ったのは、とある現代ファンタジーゲームに登場したキャラクターがきっかけでもある。
シャルルマーニュ伝説は現代でも通用するぐらいの面白さがある。
史実に基づいた話と、英雄伝記として語られている話があるけど、やはりこれの名前を付けたほうが海軍の箔が付くんじゃね?と思い命名しました。
シャルルマーニュ伝説でお気に入りのキャラクターと聞かれたら……アストルフォかなぁ……。
理由?お調子者だけど仲間想いで良い奴だからかな。うん。
まぁ、このままではシャルルマーニュ物語を熱く語ってしまう人間になってしまうので話を戻そう。
ここからはシャルルマーニュ級フリゲート艦について詳しく話していこう。
シャルルマーニュ級フリゲート艦は現在フランス海軍が建造・配備を進めている新造艦である。
主に沿岸部やサン=ドマングなどの遠方の海洋地域への警戒や有事の際に急いで駆けつける事が出来るように速度を出せるようにしている。
全長40メートル、総重量1300トンと戦列艦に比べれば一回り小型艦であり、ロシャンボーが言っていたように艦に設置された砲台の数も少ない。
一件パッとしない凡庸な作りに見えるかもしれないが、この時代の戦闘艦の弱点である船体下部を精確に狙い撃つ事を主軸に作られており、フランス海軍にとって新技術を某家系ラーメンのニンニクマシマシラーメンの如く、科学アカデミーや改革派の軍人たちの知恵と技術がふんだんに盛り込まれた艦なのだ。
「資料を見ましたがフリゲート艦に48ポンドカノン砲を2門……そのカノン砲は砲弾の命中率が高いグリボーバル砲なのでしょうか?」
「はい、グリボーバル砲です。陸軍では12ポンドカノン砲の大部分をこのグリボーバル砲に換装する更新手続きを行っております」
「しかし48ポンドカノン砲ともなれば、重い砲弾の装填なども大変になるでしょう。その辺りは問題の解決に至っているのですか?」
「ええ、科学アカデミーの協力を得て新しい装填技術の獲得に成功しております。その点に関しましてグリボーバル中将が良く知っておられます」
まずは武装面で特筆すべきなのは48ポンドカノン砲だろう。
このカノン砲は海軍の艦船用として完全新規設計されたものであり、砲兵技術者で新規の砲兵システムを構築した功績を讃えられて陸軍中将にまで上り詰めたグリボーバルによって開発されたカノン砲である。
この時代、船に積んでいる砲でも攻撃力を重視したものは臼砲が多く、命中すれば威力は大きいものの、命中率が悪いという弱点があった。
そこで、命中率が悪いのであればある程度命中精度が高いグリボーバル砲の口径を大きくして船の上でも安定した射撃が出来るようにすればいいのではないか?という結論に至ったのだ。
ある程度軍事に関してはそこそこ知っていた程度だったので、艦砲システムとか現代チートみたいな事までは出来なかったが、大型の大砲でも安定した射撃ができるようにこの時代の技術力を駆使して実現にこぎつけることは出来た。
艦首側の主砲は少々高い位置に設置し、この主砲を取り囲むように台座などを分厚い鉄板と鉄工で加工した防弾壁を形成、前方から放たれてくる砲弾に対して砲手を守るように設計している。
外見は対戦車砲のような見た目をしている。
台座は回転することができるので、大きなハンドルを使って目標の位置調整を行う事ができる。
帆船ということもあり、マストを張る関係上真っ正面や真横に向けて撃つことはできないが、砲のカノン砲は600メートル以内であれば目標部分を精確に撃ち抜ける事が出来るようになった。
これは、当時の大口径カノン砲の有効射程の倍であった。
そしてこの48ポンドカノン砲のユニークなのは砲弾の装填方法である。
グリボーバル中将は海軍と科学アカデミーと協力して、新型の装填装置を完成させていたのだ。
それがリボルバー式拳銃のような回転装填装置である。
これについては臨席していたグリボーバル中将から直接説明が行われた。
「海軍用として波で揺れている中での装填となりますので、砲弾を装填する兵士達の安全を考え、予めカノン砲の前出に装填装置を取り付けてあります。4発の砲弾を装填できる回転式装置です。蒸気機関方式と手動方式の二通りが考案され、今回は手動方式が採用されました。4人の水兵が回転装置を動かし、砲弾をカノン砲手前に動かします。カノン砲側は、砲弾が誤って落ちないように安全装置が掛かっていることを確認し、カノン砲に砲弾をスライド板に乗せてセットします」
「スライド式なのか……これでいて従来の砲弾を運ぶよりどのぐらい時間が短縮できるのだ?」
「水兵の熟練度にもよりますが、1分は短縮できるでしょう。砲弾の重さと安全性を考えればこの装填装置はかなり優秀です」
48ポンドカノン砲の装填方法は、砲の真下に設置された弾薬庫から砲弾を取り出し、砲弾を装填装置にセットしてから人力で回転させて砲の入り口手前で止める。
予め火薬をセットした砲にスライド式に砲弾を詰め込んで砲撃するというシステムで、一昔前の戦艦や駆逐艦で使われていた砲塔システムを簡素化し、人力でも行えるようにしたものだ。
回転式にした理由は砲弾の装填が簡単であるという事、またこの時代でも実現可能であるという二つの理由から試作が1772年の冬から行われて、今年の5月下旬までには最終試験でクリアーしたばかりだ。
「いずれにしても、万が一装填装置が壊れても、砲弾を運べるように非常用の移動装置を組み込ませてある。二重対策を行った上で新造された最新鋭の海軍艦船だ。我が国が誇るべき戦闘艦でもあるわけだ。総合的に戦列艦よりも高い攻撃力能力があるだろうね」
「一昔前の戦列艦などは容易く貫通できるでしょう。イギリス軍の戦列艦ですらも、この48ポンドカノン砲の攻撃によって大きな損傷を与えられるかと思います」
「うん、まぁあくまでも海軍の新造艦隊は商船護衛や駆けつけ警護、沿岸警備が主な主任務となる。今回の48ポンドカノン砲も試験的な意味合いが強い。それを考慮して今後も発展と開発に尽力して頂きたい」
「ははっ、肝に銘じておきます」
アメリカ独立戦争には介入しないものの、サン=ドマングなどの遠方の地域への警護なども最近課題になりつつある。
新大陸での動乱をきっかけにして、海の治安も悪くなっているという情報も入って来ているからだ。
シャルルマーニュ級フリゲート艦……もしかしたらこの艦は将来きっと活躍するのではないか。
そんな確信を俺は心のどこかで抱いたのであった。
それからは軍事会議も予算の報告等で終わり、内務関係の報告が終わると同時に会議は解散となった。
会議が終わったのは午後7時過ぎであった。