196:計画経済
ナント大聖堂が放火されてショックを受けているので初投稿です
「……そして、経済改革における政府の行動方針である『農地開拓計画』について説明致します。フランスでは現在ジャガイモや大麦の栽培が盛んに行われておりますが、これらの作物をさらに拡充させるために大規模な農地開拓を国が来年1月を目途に行う予定です。これまでアデライード派やオルレアン派の貴族や聖職者が保有していた農地を国が接収し、元解放農奴の農業従事者や改革派の者に分け与えて生産をしておりますが、まだまだ土地が足りないのが現状です。土木工事関係者も同様に人手が足りておりません」
「農業従事者は奴隷廃止と共に解放したからな……彼らの開拓用に土地を整備させていた筈だが……」
「はい、その整備分が9月末までに既に一杯になってしまったのです。予定よりも1年ほど早いペースで整備分まで埋まっている状態です。農地開拓を行ってもらい彼らの仕事を提供すると同時に、他の人員が不足している職種の人材確保にむけて、農地の拡充と拡大を視野に財務からは国営事業としてこの計画をお願いしたいのです」
「なるほど、それで農地開拓計画というタイトルで銘打ったわけだな」
「はい、その通りです」
農業従事者向けの農地と土木工事従事者の人手が足りないという。
故に財務総監であるネッケルは雇用確保と農地拡大の為に開拓を進言したのだ。
ネッケルが国営事業として開拓を薦めるのは珍しいが、既に色んな場所のインフラ整備等で実績がある土木工事関係者を、そうした開拓の方面に回したいらしい。
俺個人としてはネッケルの意見には理解しているが、パリでは上下水道工事がまだ全体の3割程しか進んでいない。
今現在、川沿いを中心に修繕も兼ねて作っているが、それでも人手が足りないのだ。
汚物の都とか散々な評価をされてきたパリの下水システムを見直し、国が主導になって民間にもパリの汚水処理などを任せる事業を展開している。
親に捨てられた子供や、身寄りのないお年寄り、そして軽犯罪を犯して出所した元犯罪者でも行える仕事として『生活排水処理事業』を1772年から実行している。
社会復帰や学習支援、それに伴う住居の提供なども同時進行で行っているが、これらの事業に参加している者はパリだけで3500人以上に達する。
もう少し人数減らしてもいいんじゃないかな?と思うかもしれない。
これでもかなり人数は精一杯なのだ。
上下水道が完備されていない状態で、生活排水や汚物処理が間に合っていないので窓から平然と投棄されていく光景を……。
料理の残骸ならまだしも、溜まった大便が建物の上層階から平然と降ってくるようなヤベェ街なのがパリなのだ。
あぁ^~最悪だぜ。
歴代国王がそうした汚物投棄を禁止にしても全然効果がなかった程だ。
なので、下水道が出来るまでは住民の汚物を買い取って専門の処理業者である生活排水処理事業者がパリ郊外でそうしたものを肥溜め場で発酵させて、観葉植物や植林の堆肥として用いるようにしているのだ。
それまでは一銭にもならなかった汚物が買い取ってお金になると分かった途端に、パリで汚物投棄が一気に激減したのだ。
日本だとこうした下肥を使った肥料を使って農作物を育てていたらしいが、下肥は発酵が不完全だと人糞に紛れ込んだ細菌や寄生虫が死滅しないのと、大根やニンジンなど根っこで育つ野菜にそうした臭いが付着しやすいらしく、生で食べるのはNGだったのだ。
いかん、ちょっと話が逸れてしまったな。
とにかく、ブルボンの改革によってフランスにやってくるユダヤ人やプロテスタント派が戻ってきているものの基本的に彼らは技術職を身につけた者が多い。
なので、技術職を身につけている者は土木工事事業に斡旋したり、専門のスキルがあればそのスキルを活かせる職種に付かせている。
そしてこれらは農地の拡充と拡大の為に人を増やすことに重点を当てるとしよう。
「農地開拓計画については俺としては異存ない。開拓を行えば土地の整備が必要だからな。フランスにやって来ている移民希望者にも率先して開拓事業に参加させるのはどうだろうか?勿論、地域のコミュニティーとの連携や融和措置、並びに賃金格差是正のためにも必要な支援があれば国が補填するように働きかけをしなければならないがね」
「ええ!まさにその通りです。農業従事者や移民従事者の賃金格差はここ数年で改善されてはいますが、まだまだ差が大きいのが課題なのです。それまで元農奴階級だった者達はお金ではなく食料などの現物支給によって暮らしていた者が多くを占めております。そうした者達への賃金をどのように支払うかでここ最近地域間で差が出てしまっているのです」
「そうか……それはまた新しく規則や法整備が必要だな。何よりも彼らもれっきとしたフランス国民だ。フランスで生まれ育ち、フランスの民の胃袋を支えてくれていた人達だ。彼らが働きやすい環境を作るのも国の務めだ……皆が議論して良い案を出せるように遠慮なく意見を述べて貰いたい」
早速『農地開拓計画』についての議論が始まった。
開拓に掛かる費用や人員数……それに土地を整備するにあたって必要不可欠な日数の計算などが行われ、会議においてもそうした計画をどのように進めていくかが争点となった。
まず、費用に関しては国庫から支出されることになり、土地の整備代などを含めて初年度に4800万リーブル程掛かるという。
首飾り事件で使われたダイアの首飾りが160万リーブルだから、ダイアモンドの首飾り30個分の金額で農地改革ができるなら非常に有意義な使い方になるだろう。
次に、必要とされる人員数だが約5万人を動員する予定だという。
この時代では地方都市並の人を動員するわけだが、全員が一か所で作業をするわけじゃない。
各地方の休耕地や未開発の土地、さらに政府が改革後に経営が上手くいかず破産した貴族や聖職者が経営していた荘園・農園事業を買い取り、そうした土地での再開発や河川の護岸・農業用水路の整備もこの農地開拓計画に入っているのだ。
5万人の人員には一律給料と作業着が支給されるし、これらの給料も出身や身分の差別なく平等の同一賃金として一人当たり年間400リーブルを支給する。
これは、この時代のフランスにおける庶民の平均年収の1.3倍に相当する。
「一人頭400リーブルですか……少々給料を高めに設定しておりますが、これには理由があるのでしょうか?」
「勿論です。一つは農地開拓ではかなりの重労働を伴います。重労働なのに安い給料ではだれもやりたがらないでしょう。もう一つは国が主体となって開拓事業を行うので、国が労働者にどれだけ給料を支払うかによって政府への評価も変わっていきます。国民から支持をされる為にもこのぐらいの出費の増加は許容範囲内でしょう」
コストカットではなく、どうすれば人がやってくるようにするか?
答えは極めてシンプルで単純明快だ。
賃金を弾ませて、見合った報酬を確約してキチンと支払う。
それをするだけで基本的に人は入ってくる。
不景気だからとか人件費削減とかで給料を無駄に減らしていった日本経済がグダグダになってしまって行ったのをみれば、国の事業では少なくとも給料を減らさずにむしろ増やして雇用確保を行えばいいのだ。
そうした内容を盛り込んだ農地開拓計画は大きな反対意見もなく、全員の賛成によって計画が始まったのだ。
「では、農地開拓計画はネッケルが最高責任者となって進めて貰いたい。勿論、国土管理局は土地の調査も行っているから、彼らのバックアップも手配しよう」
「ありがとうございます陛下、国土管理局の方々にもよろしくお願いいたします」
「なに、ネッケルのお陰で財政赤字も減って黒字転換しているじゃないか、俺からお礼を言いたい」
「いえいえ、私は大したことはしておりません。陛下の聡明なお考えあってこその改革です」
ネッケルはそう言っていたが、彼の財務管理は確実に革新的なものだった。
おまけに銀行家として腕を振るっていた経験を生かして、ユダヤ系や新興系の資本からの投資をし易くているのも彼のお陰だ。
本当にこの時代のフランスには経済・軍事・科学分野のスペシャリストが勢揃いだ。
経済に関する報告と審議を終えた後、1時間ほど休憩を挟んで次に軍事に関する議題を進めていくのであった。
文化遺産や歴史的建造物への放火はゆ”る”さ”ん”




