194:やはり美味しさって大事だね
やはりこうした美味しい食べ物を味わうのが楽しみの一つになっている。
美味しいものは沢山食べないとね。
アントワネットと一緒に食べる事によってさらに美味しさがアップする。
好きな人と一緒に食事を取るのはいい事だもんね~。
この幸せを味わえるのはどれだけ幸せな事か……うーん、これぞホントに贅沢だよね。
特にアントワネットはテレーズを産んでからよく食べるようになっていた。
食欲が戻ったのと、良いお乳を出すためにしっかりとご飯を食べるようにと乳母さんからアドバイスを貰ったらしい。
出産直後はご飯を遠慮していたんだが、無理な食抜きは身体に毒だと言ったら悪阻で美味しいものを満足に食べれなかった分を取り返すかのように食べている。
テレーズを出産して一週間後にイチゴのクリームが食べたいと言っていたので、料理総長と一緒にイチゴクリームを作ったりもした。
男ルイ16世、この世界線では愛する妻の為に料理をこなす。
テレジア女大公陛下の旦那さんであるフランツ一世を超える愛妻家になるぜぇ!という意気込みを宣言した上でイチゴクリームケーキを2時間ぐらいかけて作りました。
いやはや、もうイチゴクリームのレシピがあるのは正直驚いたけどね。
アントワネットがランバル公妃やルイーズ・マリー夫人と一緒にイチゴクリームを乗せたケーキを食べるのが好きらしい。
この時代でもイチゴは貴族だけでなく平民でも野イチゴなら食べれるからね。
甘いし、あのイチゴの種の粒々食感がたまらないという。
しかし、現代の品種改良を重ねたようなデカいイチゴはない。
何というか……野イチゴに近い感じであり、一回り小さいように感じる。
スイカだってまだ皮が厚くて赤い果肉といえばいいのか、瑞々しくて美味しい部分が少ないので、如何にして現代における農作物の品種改良が凄いのか身に染みて実感したんだ。
また、味はまぁまぁ美味しいので問題ない。
というか科学的データを基に美味さを追求した品種改良のイチゴに、この時代のイチゴが敵うわけないだろ!
とにかく、そんなイチゴを両手一杯に収まるぐらいクリームと砂糖で混ぜ合わせて煮込んだ下地にぶち込んで、地下で凍らせていた氷を使って冷やす。
ひんやりとして、冷たくて甘いイチゴクリーム……。
そのクリームを小麦よりも栄養値の高い大麦パンに挟む。
しかし、これだけでは何かと寂しいというわけで、メロンやオレンジといったフルーツを盛りつける。
ちょっとした豪勢なケーキ(※厳密にはパンの間にイチゴクリームを挟んで、そこに他のフルーツを盛りつけたフルーツマシマシサンドイッチ)になったのだが、これをアントワネットに持ってくると、彼女は大喜びしてケーキを食べてくれたんだ。
「はわわわ!こ、こんなに沢山の果物が乗ったスイーツを作って下さったのですか?!」
「うん、ここ最近はアントワネットが苦手な野菜を頑張って沢山食べていたからね。偶には甘い物を食べてリフレッシュしてほしいなと思ってね。急いで食べるとお腹がビックリしちゃうから、ゆっくり食べてね!」
「本当に……本当にありがとうございます!オーギュスト様!」
そうお礼を言いながらアントワネットはケーキを頬張りながら、美味しそうに食べていた。
やはり女子力アップにはフルーツが最強か……。
いやー、アントワネットがあそこまで美味しそうに食べているとはね。
フルーツは適度に食べれば身体に良いし、育児を頑張るアントワネットにとってもそうした甘い物で不安やストレスを抜く必要がある。
食欲旺盛なのは良い事だ。
無理なダイエットは身体に毒だし、俺としては自然体でいいと思います。
とまぁ、こんな感じで最近はアントワネットの為に本格的なおやつを作るのに凝っているというわけだ。
そうした甲斐もあってか、最近料理総長がこれまで以上に料理の腕を奮ってくれているような気がする。
この香ばしいバターの香りからして、何かをバターで炒めた料理のようであった。
「お待たせいたしました。陛下、王妃様……本日の昼食をお持ちいたしました」
「おぉ!待ってました!」
「ええ!美味しそうな香りが漂ってきますわね!」
「ハハハッ、そう慌てなくても料理は逃げませんよ!今朝王立試験農場で採れたてのジャガイモをふんだんに使った料理のフルコースセットでございます」
「おっと、昼食中はテレーズの事を乳母さんに任せておこう。流石に抱えながら食べるのはちょっと危ないからね」
「そうですね……テレーズ、良い子にしているのですよ」
「あうぅぅぅ~」
テレーズを乳母さんに預けて、俺たちは昼食を取る事にした。
まだまだテレーズは離乳食を食べる時期ではないし、しばらくは母乳で育つ感じだ。
本当は一緒にご飯を食べたいんだけどね……。
テレーズ、あと半年ぐらいしてから離乳食を食べよう!
王室御用達の離乳食も豪勢っぽいので乞うご期待というわけだ。
で、昼食として出された料理を見て俺は思わず心が躍っていた。
見渡す限り、ジャガイモ尽くしであったからだ。
小麦の代用食として飢餓に備えて普及を進めているジャガイモだけど、やはり人類にとって欠かせない食物と言われるだけあってか、すでに国内の生産量は順調に伸びている。
こうして料理で出されている王立試験農場のジャガイモも、品種改良などを重ねてフランス全土で作られるようになるのだから、これで史実のようなラキ火山の噴火による影響も被害を抑えることができるようになるだろう。
「まずは、ジャガイモのポタージュスープでございます。さやえんどうも添えてありますので、お口に合うと思います」
「ジャガイモのポタージュか……ジャガイモの甘味でまろやかな味わいだね」
「ええ、とろみがあって飲みやすいですわ!」
「はい、ジャガイモの風味を活かし、味を悪くせずにスープを飲み込む際に風味を保った状態になるように工夫致しました」
ジャガイモのポタージュスープ……これは中々旨い。
とろーんとしたポタージュのスープだが、しょっぱく無くてジャガイモの風味によって程よい味わいとなっているのが実に良い。
夏場だが、スープに入っている塩分を取るのも大事だ。
水だけじゃなくて塩分も取らないと熱中症になってしまうからね。
ポタージュのスープを飲み干すと、次に出てきたのはジャガイモとベーコンを使ったこれまたお酒に合う組み合わせの料理だ。
「それからジャガイモとベーコンの炒め物です。バターを入れて香ばしさを重視しました。きっと気に入りますよ」
「ははは……これはまたお酒が欲しくなるような美味しそうな香りが漂ってくるね……」
「本当に……食欲が噴水のように湧き起こるような美味しい香りですわ!本当に!」
「アントワネット、すごくお腹空いていたもんね……量も多いし一緒に食べよっか」
「ええ!是非是非!」
ジャガイモにベーコン……それをバターで炒めた料理とか完全に飯テロじゃないですか。
料理総長……これは誰だってお腹が空いてくるもんさ!
これを最初に考案した奴は相当なものだと思う。
ジャガイモとベーコンは最強のコンビネーション……それにバターが加わればもう無敵の布陣なのだから。
じゃがバターって美味しいのに、それにベーコンの旨味を加えらたら、もう胃袋が唸りを上げて食べたいと言い出してくる。
何とも罪深い料理だ。
一口入れてよく噛んで食べるつもりが、気が付いたら二口、三口とジャガイモとベーコンを口の中に放り込んでいた。
もう手がとまねぇ!美味しさのあまり手が止まらねぇからよぉ!
気がつけばお皿に盛りつけられていた炒め物はアントワネットとほぼ同時に完食してしまっていたのであった。
「ありゃ……」
「もう全部食べてしまいましたわ……」
「……ハハハッ」
「……フフフ」
それを見て、俺とアントワネットは声を出して笑った。
料理の美味しさのあまり口を開かずに食べつくしたからだ。
何というか、可笑しさもあるかもしれないが、こうして料理を味わう余裕が出てきたのは良い事であった。
アントワネットと料理を楽しみ、そして笑う。
いつになく幸せな時間であった。




