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☆ ☆ ☆
1774年8月27日
娘の事が本当に可愛いと思っているし、アントワネットは世界で一番可愛いと自負できる立場のルイ16世だ。
テレーズ可愛いよ、テレーズ。
今のところ主治医達の経過観察なども行っているが、順調に育ってきている。
見た限りは健康そのものだ。
父親としてアントワネットと共にテレーズに沢山の愛情を注いでいる真っ最中だ。
部屋でオムツを交換し、おしりを綺麗に拭いてからテレーズを抱きかかえる。
「ほーら、テレーズ!こっちみて~!パパだよぉ~!」
「ハハハッ!きゃぁ~!」
「ウォォン、笑っているぞ!本当にテレーズは可愛いなぁ~」
「ふふっ、きっと喜んでいるのですわ……ほーら、テレーズ。ちゃんとパパに甘えるのですよ~」
「きゃぁ~!あうぅぅ~!」
ンフフフ……。
遺憾なくテレーズの前では威厳とかちゃちな信義とか全部置き去りにして、破顔で喜んでいる王様がここにいます。
そう、俺です。
ひたすらに可愛さ満点、笑顔百万点のテレーズ……。
いや~本当に可愛すぎるだろコレ……。
アントワネットとの愛と努力の結晶の末に誕生したテレーズ。
史実より4年半ほど早い出産だったわけだけど、本当に元気な女の子で良かったなぁ~と思うわけ。
俺も父親になってしまったのだ。
前世だったら結婚は人生の墓場扱いになっていただろうし、恐らく一生童貞を貫き通しただろう。
だが、こうして我が子を見てみると心がポカポカしていくのを実感していく。
温かい……こんなに小さい手で俺の指先をギューッと握ってくれたりしてくれるんだよね。
もうその光景が尊すぎで浄化されていくような気がする。
例えるならシャンパーニュワインの蓋を開けたように、シュワシュワと炭酸の気泡が外に飛び出して散って行くような……そんな感覚だ。
「本当に……元気だねぇ~テレーズは……」
「ええ、色んな場所を見ようとしていますもの……きっとテレーズは好奇心旺盛なのですわ」
「アントワネットも確か子供の頃は好奇心旺盛だったね。きっと君に似て美人で元気な女の子になるよ」
「まぁ……!それでしたらテレーズにも運動の学び事をさせたほうが良いかもしれませんね!」
「そうだね。運動で体力を付けた方がいい場合があるからね、動き回っても良い場所を作っておかないと……何処かにいい場所がないかな?」
ヴェルサイユ宮殿というのは敷地面積がかなりデカい反面、走り回れる場所というのは限られている。
ヴェルサイユ宮殿やトリアノン宮殿は、緊急時の連絡や報告を行う時以外は走る事を禁止にしている。
かといってヴェルサイユ宮殿の敷地内にある林の中で遊ばせてるのも安全性が少々危ういし……既存の場所であと一年か二年後を目安にテレーズの遊び場を作らせたほうが良いかもしれない。
「既存の場所を改装して、走り回れるようにしたほうがいいかな?芝生の上なら転んでもそこまで痛みはなさそうだし」
「そうですね、すぐそこの小トリアノン宮殿の辺りはいかがでしょうか?」
「あの辺りかい?そういえばあの辺りも芝生だったよね……」
小トリアノン宮殿のすぐそばにある池……あの辺りを史実の「愛の殿堂」みたいに公園風に整備して遊ばせてあげるのはどうだろうか?
あの辺りは既に芝生が整備されていて、アントワネットと一緒に昼食を取った場所でもある。
懐かしい、確か茹でた野菜を蒸した鶏肉の上に乗せて、酢と油を混ぜ合わせたヴィネグレットソースで味付けした料理が出された筈だ。
ちょっとしたピクニックがてら、春から秋にかけて気分転換にアントワネットと一緒に敷物を敷いて一緒に食べている時があったけど、あの辺りが一番運動するには良さそうだな。
「小トリアノン宮殿を出てすぐの場所に池があった筈だ……よく一緒にピクニックで敷物を敷いてお昼ご飯を食べたあの辺りを整備して公園にするのはどうかな?」
「そうですねぇ……確かにあの辺りでしたら芝生が整備されておりますので問題はないと思います……ただ……」
「ただ?」
「池の周りに柵を囲ったほうがいいでしょう。もしテレーズが目を離した隙に池に落ちたら大変ですから……」
「ああ、安全面を考えて柵を付けるのはやっておかないといけないとね……確かに何かあっては一大事だ」
池の周りに柵を囲む。
転落事故防止の為に必要な事だ。
大人は平気でも子供では溺れてしまう場合もある。
そういった事故は現代でも起こっているので、尚更気を付けなければならない。
うむ、ではあの辺りを柵で囲っておくか。
子供が大きくなるまでは、あの辺りは柵で覆っておくとしよう。
「そうと決まれば、明日にでも工事を行うように取り計らいをしたほうがよさそうだな」
「工事はお急ぎでやらなくても大丈夫ですわ。時間をかけてゆっくりやりましょう、あの辺りも少し整備がてら少し見栄えを良くしたほうがいいかもしれません」
「あー……言われてみれば芝生と池と時々お花畑ぐらいがある程度だよね。王立試験農場はあるけど、もっと整備をしてパーティーを開く時に和ませるためのデザインにしたほうがいいね」
「ええ、それに既存の場所ですから新しく土地を買う必要はございませんし、工事費用だけで済みますわ」
「だねぇ、いっそ日本風の庭園も作ってみるか……」
「日本庭園ですか?中々難しいものを選択しましたが……オーギュスト様は日本庭園に関する知識はあるのですか?」
「一応書物で見たことがあるからね。東洋関連のものもそろそろ取り入れようかなって思っていた頃だから、試しに作ってみて好評ならこの辺り一帯をそうした日本庭園にしようかなって思うんだが……どうかな?」
「日本庭園……私としては田園風景のような安らぐような場所であれば、構いませんよ!」
よし、アントワネットの許可を貰ったのであの辺りは遊び場も兼ね備えた日本庭園にしようと思う。
王妃の村里ではなく、日本の村里になるので日本風の建物とかも作ってもらうかな。
勿論、アントワネットの意見も取り入れた上で落ち着きのある気品さも兼ねた施設にしよう。
転生して4年……日本風の建築物を建ててみたいと思う気持ちが日に日に強くなってきているので、ここは一つ俺の我儘も兼ねて作ることにしよう。
欧米のゲームや映画に登場するような日本じゃなくて中国とか東南アジアがリミックスしたようななんちゃって日本風ではなく、正真正銘の日本風庭園を作ってみようと決意する。
あれ日本人の俺からしてみれば、ほんとウィキ先生とかネットの情報でごちゃ混ぜになった東洋風の何かなんだよね。
日本人のスタッフは……いなかったんですか?と問いただしたくなるが、まぁそんな事がないように俺が監修をすればいい話だ。
中身は現代日本人だし、日本風の庭園ぐらいできらぁ!(絶対できるとは言っていない)
最低でも外見だけは日本風にしようと思う。
ヴェルサイユ宮殿に日本庭園を造るのはナンセンスだと言われるかもしれないが、戦前にシェーンブルン宮殿にも日本庭園が作られるぐらいには日本庭園は評価されていたんだ。
日本庭園をヴェルサイユ宮殿内に作る事をさりげなく約束した後で、早速テレーズが泣き始めた。
「ああああああ!あああああああ!」
「おぉぅ!テレーズ!どうした?さっきおむつ交換したけど……」
「多分母乳が欲しいのでしょうか……」
「うーむ、そうかもしれませんね……すぐに排泄はしないはずだから……アントワネット、頼む」
「分かりました、さぁテレーズ……ごはんの時間ですよ~」
泣き出しているテレーズにアントワネットは母乳を与えると、テレーズは泣き止んで必死に母乳に食らいついている。
もうお昼の頃合いだからな……きっとお腹が空いていたのだろう。
夫婦揃って過ごす日々がこれまで以上に多くなっている。
やはり王族といえど、夫婦の時間のときはゆっくりと過ごしたいからね。
仕事も程々に、夜や空いている時間帯に済ませている。
こうした時間はお金では買えない素晴らしい体験だ。
そろそろ俺たちも昼食を取る時間だ。今日のメニューはなんだろうかと待ちわびていると、部屋をノックする音が聞こえてくる。
それと同時に、途轍もないほどに美味しそうな香りが辺り一面に漂ってきたのであった。