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今日はなんて素敵な一日なのでしょうか。
私の良い思い出がまた一つ増えました。
ヨーロッパ中の衣装がブルボン宮殿に集まり、さらに会場では参加者が気に入った衣装を購入することが出来るのです。
オーギュスト様主案で考えた「第一回:国際フランス服飾見本市」は、貴族だけではなく一般庶民の皆様方も参加し、午後2時ごろにはブルボン宮殿で入場規制がかけられるほどでした。
余りにも一般入場希望者が多すぎて、抽選式に切り替えたそうですが、明日以降の入場優先権を引換にした事で大きなトラブルもなく入場が行われたそうです。
「陛下!こちらの衣装も見てください!」
「どうですか王妃様!こちらの首飾りはスペインがインカ帝国で発掘したものを使用しておりますよ」
「もしよろしければ触ってみてください。余裕の柔らかさだ……素材が違いますよ」
見本市で出展しているお店も切磋琢磨して、自分達の商品の利点や珍しい物などを展示し、来場している多くの人達に様々な服飾を見せておりました。
やはりとびっきり驚いたのは祖国オーストリアで流行している「勝利船」と呼ばれているヘアスタイルが一世を風靡していることでした。
船の模型を頭の上に乗せて……髪の毛を波に見立てて着飾るそうですが、流石にあのヘアスタイルはビックリしてしまいます。
最初は冗談で出展者の人が仰っているのかと思いましたが、話を伺っているうちに地中海沿岸部の富裕層を中心に流行しているヘアスタイルだと言われて、このような髪型が流行しているのかと目が飛び出そうになりました。
身だしなみを気にしているお母様はこうしたヘアスタイルに怒ったと仰っておりましたが、もしランバル公妃やルイーズ・マリー夫人がこのような髪型で朝お出迎えをしてきたら、私も怒るというよりは驚いて腰を抜かしてしまうかもしれません。
「オーギュスト様、このような髪型は……私に似合うでしょうか?」
真珠のドレスを購入している際に、こっそりオーギュスト様に尋ねてみたのです。
あのような髪型を、もし私がつけたら似合うかどうか?
オーギュスト様は「うーん」と腕を組んで数十秒ほど考えたあと、こう言いました。
「……アントワネットは今の髪型が綺麗だし、船の模型が社交辞令の際に床に落ちたら破片が飛び散って危ないと思うからねぇ……それに、こうした波のような髪型を整えるのに、美容師の人がかなり苦労してしまうんじゃないかな?ヘアスタイルを整える為にコストも掛かるし、注目度を集めたいとかそういう特別な理由がない限りは……正直に言うとこの「勝利船」をアントワネットが身につけても……ちょっと似合わないかもしれないね」
オーギュスト様は申し訳なさそうに、勝利船のヘアスタイルは似合わないと語ってくれました。
私も同意見です。
流石にこのような髪型は似合わないと思います。
きっと注目を集めたとしても失笑されるのがオチです。
「勝利船よりも、やはりアントワネットは髪をすこし長くして……こう、髪の毛をサラッとした感じに見せるのがいいかもしれないね。今のような髪型が一番似合っていると思うよ」
「この髪型ですか?」
「うん、こうしてみると……あぁ、やはりアントワネットは可愛くて美人だなぁって思うんだよ。ありのままでいいのさ……」
無理に変な髪型をするよりは、普段通りに髪を整えたほうがよろしいと語っておりました。
あとさりげなく可愛くて美人という言葉を添えられていたので、私は顔が真っ赤になってしまいました。
人前で愛していると言われるぐらいに、もうオーギュスト様のさりげない優しさというか、こう女性を引きこませる魅力に吸い込まれてしまいそうです!
本当にオーギュスト様は罪深いお人ですわ。
もしオーギュスト様が今日のようにそうした服飾関係に無関心であったら、私はこの奇抜すぎるヘアスタイルにしていたかもしれません。
この勝利船のヘアスタイルを見た時、どこか自分の心の中でモヤモヤとした感触があったのです。
きっと……どこかでそうした事があったのかもしれません。
「それにしても、乗馬服にドレス……本当に見本市だけあってファッション関係のものが全て取り揃えることが出来たね」
「ええ……今まで見てきた中でも多種多彩な服飾品を見ることが出来ました。本当に素晴らしい事ですわ!これからもこうした見本市を行う予定ですか?」
「そうだねぇ……服飾だけではなく、食や科学技術の交流もやった方がいいかもしれないね。食なら世界中の食べ物が一斉に集まってくる香ばしい展示会になりそうだし、科学技術の見本市であれば各国の技術水準の状況を把握できるからね。これは他のことにも応用できるイベントだよ」
そう嬉しそうにオーギュスト様は語っておりました。
見本市に出展している店を一軒ずつ見渡したり、気になった服飾店の雑貨なども購入したりしました。
これまで私が経験してきた買い物とは少々変わった方法でしたが、中々斬新で私にとって目に映る全てのことが新鮮に思えてきたほどです。
リハーサル時にも数回練習を行ったのですが、いざ本番で行ってみると練習とは違った空気が流れているのです。
食でしたら、私も諸外国の様々な料理を堪能できる機会になるでしょうし、科学技術の見本市であればキュニョー大尉が発明した砲車のようなものを見学できる事になるでしょう。
また、オーギュスト様は今回の経験を活かして、ヴェルサイユやパリだけではなく地方都市でも式典行事などを行えるようにして、地域間の活性化も行いたいと述べておりました。
そして、交通をより良くするために交通網を構築すると仰いました。
「ヴェルサイユやパリだけではなくて、地方都市にも赴いて人々と交流するのも大切だね……地域の活性化や交通網を広げるようにしないとね……」
「交通網ですか?」
「そうだよ。道幅を広げて馬車の移動がし易いようにすれば、有事の際に避難民の誘導も楽になるからね。それと先のキュニョー大尉が発明した砲車を移動用の乗り物として活用できれば、馬よりも沢山の人が運べるからだよ。既に民間用としても開発が行われているからね」
「えっ、あの砲車は軍用で開発しているものですよね?軍用のものを民間用に転用してもよろしいのでしょうか?」
馬車だけではなくキュニョーの砲車を活用するというのは想定外でした。
あれはてっきりそのまま軍用として使われるものだと思っていましたから。
オーギュスト様によれば、人員の輸送手段として馬車に代わる乗り物として使う予定だそうです。
「勿論、本来は軍用のものだけど平時では民間用として開発したいんだ。パリ大学と科学アカデミー、軍部、そして蒸気機関研究所があの砲車を移動手段に使う新しい乗り物として新規開発・研究が行われているんだよ。予め車輪を鉄製のレールの上に設置して動かせば真っ直ぐ走るからね。先に馬車を改装してレールの上で走らせることが出来るように試験を行うつもりさ。成功すれば新しい交通移動手段として活用していきたいからね。戦争が万が一発生した場合には、そうした移動手段を兵士の運搬用の乗り物として軍用に転換できるようにすればいいからね」
「つまり……平時では民間用として使用し、戦争が起こった際には軍用として活用できる乗り物としてお使いになる……という事でしょうか?」
「そう言う事だね……民間が持っていれば維持費も平時では抑えられるメリットがあるからね。だから民間用としても開発を進めているのさ……」
砲車は軍用として開発された代物ですが、今では民間用として開発されているそうです。
交通網が発展し、キュニョーの砲車が民間用として配備されていれば軍用として、有事の際に再び転用できるようにすればよろしいと仰っております。
常に軍用として扱っていた場合、その分維持費というのがかかってしまうそうです。
一台や二台であればともかく、数十台も作ったまま軍内部で死蔵させておくのは勿体無いという判断かもしれません。
オーギュスト様は気さくで、それでいて常に策略を練っています。
時折お母様の手紙にも、そうした事を書いておりますが、オーギュスト様の策はほとんど成功しております。
今回の見本市が成功した事で、次に服飾だけではなくフランスの権威を示すことをするようになるかもしれません。
戦争といった手段ではなく、技術で勝負を行う姿勢は素晴らしいです。
これからはそうした手段で市場を拡大していく事でしょう。
次から次へと目まぐるしく物事の流れが変わっていきます。
ブルボンの改革で人々の生活も変化していき、これから数年間は生活様式も変わっていくのは必須です。
私も、こうした変化に流されないようにしなければなりませんね……。
そしてオーギュスト様は流れを掴むために行動を起こしております。
きっと、これからの時代は大きく変わっていくでしょう。
夕暮れ時のブルボン宮殿、そこで窓から映る街を歩き見本市を満喫した人々はとても幸せそうな興奮冷めやらぬ状態でした。




