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157:風に吹かれて

「でだ……そうした初夜を迎える上で必要な事とかはある程度理解しているつもりなのだが……何分初めてでな、あまり気軽に他人に相談できるような内容ではない。よく会議でも意見を交わすボーマルシェに相談しようと思ったんだ」

「成程ですね……かく言う私も実のところ最初の妻とは数える程度しかしていないのですよ」

「……そうなのか?」

「ええ……なので、初夜を迎える上で必要な事と心得だけなら助言ができるかもしれません。私の意見で良ければ……お話いたしましょう」

「よろしく頼む」


そう気軽に相談出来る内容じゃないよね。

本当であれば数週間前ぐらい、遅くても3日前に相談すべき内容なのは重々承知しているのだが、やはりこうした性に関する話というのは、前から相談すると尾を引いて話が拡大解釈されてしまう可能性があったんだ。


ルイ15世がそうした経験豊富なウンチクなどを披露してくれたこともあったけど、実際は多分女性側から演技などで快楽を感じていたように見せていたのではないかと思われる節がいくつも出てきたんだ。

なので、祖父の遺した助言で辛うじて役立ちそうなのは、そうした行いを終えた後に女性をフォローしてあげる事ぐらいしかない。

ボーマルシェは、俺の機嫌を伺うよりも色々と考えを巡らせながら最初のアドバイスをしてくれた。

それによれば、最初に大切なのは一夜を過ごす部屋の雰囲気が大事だという。


「そうですね……まず必要な事は雰囲気作りでしょう」

「雰囲気……?」

「そうです。例えば、バラなどの花の香りで部屋を満たして普段ご使用されているロウソクよりも炎が小さめの種類を使うか、本数を減らすのがオススメだと思います」

「部屋の香りを変えるのは分かるのだが……なぜ炎を小さくするのだ?」

「灯りが小さければ小さいほど、その分部屋は暗くなって感覚が鋭くなるからです。肌や手に触れるだけでそちらに感覚が集中されていきますので、明るい場所で行うよりは互いの感触が研ぎ澄まされていくのです」


灯りは普段のロウソクよりも小さいものを使用する事のメリットを聞いて俺はびっくりした。

成程、そうした使い方もあったのか。

香りの件に関しては予め用意などをしてきたが、灯りに関しては完全に盲点だった。

ロウソクを普段の本数よりも減らしておくべきだな。

次に、必要な事は栄養価値のある食べ物を取るようにとの事だった。


「あと必要な事といえば、今夜に備えて栄養のある食べ物を取ることぐらいですね。沿岸部では生牡蠣なまがきなどを食すそうですが、そうした生牡蠣は食あたりを起こしやすいと言われており故、イチジクやトリュフなどが無難かと思います」

「イチジクにトリュフか……たしかトリュフは惚れ薬としての効果があると言われているな」

「ええ、トリュフは流通している量は少ないですが、今から注文すればまだ在庫はあるかもしれません」

「トリュフか……それがなければ乾燥イチジクを練り込んだパンなどを食すのも良いという事かな?」

「はい、左様でございます」


トリュフか……世界三大珍味の一つに入っているトリュフだけど、この時代でもトリュフはその希少性などが合わさって高級食材の一つに並んでいる。

元々トリュフというのはフランスで有名になった食べ物だそうだ。

ルネサンス期に入るとトリュフの魅力を綴った本なども出版されているぐらいで、とにかく精を出す為のスタミナを採らせる食事を勧められた。


そして最後に言われたのが、夫婦としての交わりで失敗しない為の重要事項とも言うべき事。

それは相手に常に寄り添って思いを伝える事だという。


「とにかく、最初の夜は相手のペースに合わせておくことが重要だと思います。焦って行為に及んでしまえば、相手の事を疎かにさせてしまうと感じて離れてしまうかもしれません。それだけ身体だけでなく相手の心との距離が離れてしまいます。故に、王妃様と寄り添い、そして優しく接して下さい。私の意見としては以上になります」

「寄り添ってペースを合わせるか……うん、少し気分が良くなったよ。ボーマルシェ、相談に乗ってくれて感謝する」

「いえ、陛下のお役に立てれば何よりです!」

「まぁ、この紅茶を飲んでからでも仕事は大丈夫だ。休憩時間がてら飲んでいきなさい」

「ありがとうございます。では、頂きます」


ボーマルシェの語ってくれた事……。

『部屋のムード作り』

『精力のつく食事』

『相手のペースに合わせてゆっくりと行う』

この三つだ。


ボーマルシェの相談は非常に有意義なものであった。

特に転生前から今日に至るまで童貞でそうした行為に関する知識が皆無に等しい状態だった俺に、ここまでアドバイスをくれたんだ。

本当に感謝しなければならない。

パートナーを思いやり、そして……愛すべき相手との永遠の交わりを果たす事が最良であるか……。


うまくできるかどうか自信が急にあやふやになってしまったが、ボーマルシェのお陰で自分に自信が持てるようになった気がする。

少なくとも先程までよりは気持ちの整理を含めてスッキリとした気分だ。


今日と明日は公務は休みとなっている。

休日であるから、このお茶を飲み終えてから準備を整える事にする。

まず部屋のロウソクを変えて……そして香りも入れ替えよう。

今日の夕飯をトリュフか……もしくは乾燥イチジクを練り込んだパンにして……。

その時が来たらボーマルシェの決まりを守って粛々と励もう。

そう心に誓った。

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