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156:フランスで最も長い一日

新国土管理局と化した大トリアノン宮殿。

個人同士での相談に持って来いの部屋にやって来たのはカロン・ド・ボーマルシェだ。

こういった話題では彼が一番やり手だろう。

意外かもしれないが、彼はかなり交際経験も豊富なプレイボーイであり、ルイ15世がデュ・バリー夫人に関するスキャンダルもみ消しの為に、信頼できるスパイとしてイギリスに交渉役として送り込もうとしたのも納得できる。

同性からは平民だが貴族や王族関係者と交友関係を持っている事に恨まれていたなんて話もある。


史実ではルイ16世と劇場で上演された劇の内容を巡って意見対立を起こしたボーマルシェだが、今現在改革派として国土管理局でかなり熱心に働いている。

元々時計職人なんかもやっていた人だったこともあって、高品質の時計などを研究機関の標準時計として普及させようと今現在耐性の高い計測時計の開発プロジェクトの責任者も兼ねている程、多くの人々から信頼されている。


彼からしてみれば、この事で呼びだすなんてと思うかもしれないが、俺にしてみればこの緊張と不安を誰かに聞いてほしいという精神的な面が一気に表れてきそうなんだ。

体調面で一気に噴出でもすれば一大事なので、ボーマルシェの意見を取り入れるのもやぶさかでない。

俺はボーマルシェを自分の執務室に呼びだした。


「やぁ、仕事中にすまないね……」

「いえ陛下、陛下がおよびとあらば駆けつけるのが臣下の努めです。陛下がお呼びするという事は……些か重大な要件ですか?」

「そうだね、少しばかり悩んでいる事があってね……個人だけではどうしても答えが出なくて是非とも貴方の意見をお聞きしたいのだよ」

「ほう、それはまた……どれだけお役に立てるかは分かりませんが、私で良ければそのお悩み事を話してください」

「ありがとう、少し長くなるかもしれないから座って、今紅茶を淹れるから……紅茶を2杯頼む。」


召使い長が紅茶を淹れている間、途轍もなく長い時間が経過しているような感覚になる。

どうやって会話を繋げるべきか。

いや、率直に述べるのが一番だろう。

回りくどいことをしても余計に混乱してしまうのがマズイ。

召使い長が紅茶を淹れ終えて、テーブルの上に置いて部屋を離れたのを確認してから話を切り出した。


「実はな……今日、アントワネットと初夜を過ごすんだよ……だけど、自分はそういった行為を一度も経験すらしていないんだ……」

「ん?初夜……といいますと、陛下はアントワネット様とご結婚なさってから3年間以上も交わりをなさっていなかったのですか?!」

「……抱きしめあったりはしているけど、実際にそうした行いをするのは今までで一度もやっていないんだ」

「……なんと……いやはや、その……それはまた随分と凄まじい内容でありますな」

「ああ、結婚してから早3年……アントワネットが肉体的にも精神的にも大人になったと思っている。もう18歳だしね。そろそろ世継ぎを作らないとテレジア女大公陛下もご不安になってしまうのではないかと心配でね」

「それで私にそうした話について相談なさったという事ですね」

「ご名答だ……ただ、俺はアントワネットの事を好きだと思っているし、理由があってしていなかったんだ」

「理由……ですか?」


ボーマルシェはかなり面を喰らったような顔をしている。

確かに抱き合ったりとかはしたけどさ、その……それ以上の行為とかはしていないのよ!

だから3年間夫婦としての交わりをしていても子供が出来ないのはまだまだ早いからじゃないのかと密かに噂になっていたのは知っているんだ。

でもね、年齢的な面もあるけど……まずはしっかりとした医療体制が整った状態で俺は子供を授かりたいと前から決めていたわけだ。


初夜を迎えられなかった理由の一つとして、衛生環境が悪かった事が挙げられる。

素手のまま赤子を抱きあげる風習を無くして、可能な限り消毒をした状態で雑菌などを産婆さんなどが雑菌を手に付けないようにしてから出産を行うようにしてから劇的に乳児の死亡率は減ったんだよ。

フランス衛生保健省を設立して、パリで手洗いの効果が実証されてから全国に普及させている真っ最中だ。

これだけでも未来を担う赤ん坊の死亡率が減れば、それだけ多くの人が命を落とさずに済む。

そうした理由についてもボーマルシェに説明をした。


「実のところ、アントワネットの出産後に行われる医療行為について正直不安な面があって躊躇していたんだ……」

「……と、申し上げますと?」

「生まれた赤ん坊を医師が保護するだろう?その際に皆素手でそのまま拾い上げるから、もし医師の手に悪性な微小動物が付着していたらと思うと……その、行為が出来なくてね……」

「ああ……陛下が去年設立させたフランス衛生保健省が出産に関する指南書で、医師の手洗いの重要性を述べていたのも、それが理由だったのですね」

「そうだ。責任者になってくれたサンソンが実施した結果、他の医療現場でも消毒をした手とそうでない状態で術後に再発ないし別の病気に罹患するリスクが大幅に減ったと研究結果を広めてくれたおかげで、医療現場もそうしたリスク管理ができるようになった……だから、医療水準が上がっているからようやく初夜をしようと決断したんだ」

「成程……」


さて、いよいよ理由を説明してからが本番だ。

ボーマルシェに話さなければならない。

そうした行為を行う時に注意すべき点などを……男として、そして国の世継ぎを育成しなければならない身としてもこれは一大事だ。

彼に打ち明けて、どうしたら良いのか指示を乞うべきだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] ボーマルシェ (いや、その事実が発覚したのはサンソン氏の研究の後ではありませんか?研究前の段階では良くてただの仮説、はっきり言うと妄想にすぎない訳で… 一見もっともらしいですがこれはただのヘ…
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