154:パリ産業新聞社
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1772年10月7日
フランス パリ
パリ産業新聞社は6年前に設立されたばかりの新しい新聞社だ。
主に経済関係の記事を売りとしている新聞社なのだが、ここ最近は毎週投稿してくれている大物投稿者によって売り上げが3倍に膨れ上がっているのだ。
最初新聞社にやってきた紳士風の男が手紙を社長に渡してきた
手紙の送り主はなんとルイ16世だった。
『貴社の新聞の記事をいつも読んでいます。経済関係を主に取り扱っている新聞だけに民間で行っている経済活動に関する情報などを見るときに大いに役立っております。もし、記事を読んでみて思った事があれば貴社の読者の一人として意見を送ってもいいでしょうか?』
その手紙の内容をみた社長は仰天し、慌てて男に許可を出して国王陛下の書いた記事を見出しに記載する事になった。
コラムとして、最初にルイ16世が記事に投稿した内容というのが「蒸気機関を起点とする機械産業の発展について」であった。
『機械産業が発展していけば、いずれ人々は機械で出来た馬より早い乗り物に乗って遠い場所にも短時間で行けるようになり、これまで手作業で大変だった仕事も専用の機械を使って大量生産が可能になるだろう。人々の生活もあと四半世紀もすれば大いに変わるようになる、四半世紀までに機械産業を発展させるように国を挙げて支援を構築することを目標に来年度から研究を始動させる予定である』
未来を予測したかのような記事であり、空想小説のようだと巷で話題となって瞬く間にパリ産業新聞は売り切れが続出したために緊急印刷をするほどであった。
この機械産業に関連した記事は大いに人気であり、いつしかルイ16世は定期的にパリ産業新聞社にコラム記事を投稿するようになったのであった。
コラム記事で出た利益についてはルイ16世にも配当金が出たのだが、配当金は全額孤児院などに寄付を行うなど慈善事業に使われている事も記載していた為に、これもまた庶民を中心に国王の人気を上げるきっかけになったのだ。
そんなパリ産業新聞社では凄腕とも言われる女性記者が活躍しているのだという。
元々貴族として生まれたのだが、家が没落してしまった為に新聞社に雇われた経歴を持っている女性なのだ。
ここだけ見れば没落貴族の人間を雇い入れる気が知れないと言われるかもしれないが、決してそうではないのだ。
注目すべきは彼女の仕事への姿勢と、その技量が優れたものである所だろう。
ちょうど今、その女性が社長に記事を持ってきて来た所であった。
「社長、こちらが昨日ヴェルサイユ宮殿で行われていた行事の内容を記した記事になります。国王も記事を書くにあたってコメントを寄せてくれましたわ」
「本当か?いやはや……それは有難いな。助かるよ、確認しておくから君は休みなさい」
「分かりました。ではお先に失礼します」
社長のアルフレッド・サンズが先日ヴェルサイユ宮殿を取材した記者から受け取った取材記事の内容を確認している所であった。
記者であるジャレット・パトリシアはこの当時としては珍しい女性であり、女性の社会進出を国王が推し進めている中で、高等学校を上位で卒業した優秀な人物として今年スカウトしたばかりであった。
優秀ではあるが、家が没落していては貴族社会では落第という扱いであったために、彼女は自分の技能を役立てる会社を探していた際に、アルフレッド・サンズが記者を募集している情報を耳にして、面接を行って記者となったのだ。
そんな彼女が記事にしたのはヴェルサイユ宮殿で行われた改革派に属している人達が王立試験農場を訪れて、農業体験をした事を綴っていた。
『改革派に属している多くの人々が身分を問わず農業体験を行い、国王陛下や王妃様も参加された上でお昼には国王陛下ご夫妻が作ったニンジン料理が参加者全員に振る舞われました。調理方法も簡単なものを国民に広く普及するようにと作られたこの料理は簡単に調理ができる上に家計にも優しい。国王陛下自らご考案したニンジン料理は、多くの人々に広まる事になるだろう』
国王陛下自ら農業の体験をすることはこの時代、殆どないことであった。
その事を分かりやすく簡単に説明していた。
国王夫妻が農業体験をする事も衝撃的だったが、自ら料理をしてそれを振る舞ったことは大スクープでもあった。
おまけに料理の詳細まで国王陛下自ら綴っていることもあってか、かなりインパクトのある記事になっていたのだ。
「これは凄まじくインパクトのある記事になりそうだな……早速活版印刷で明日の一面に載せる記事にしよう。国王陛下自ら料理をなさったこともしっかりと記事にして、ニンジン料理とやらが我々にもできるかどうか、実際にこのレシピ通りに試してみよう。そうと決まれば早速ニンジンを仕入れて作ってみようか……」
この記事を活版印刷に回して翌日の朝刊に出したところ、たちまち飛ぶように新聞は売れたのだ。
人々も変わりゆく時代の波を感じながら、国王陛下自ら考案したニンジン料理を実践するべく、店頭に並べられていたニンジンはあっという間に無くなったのであった。
次回で物語内のスピードを一年ほど飛ばします。
悪しからず。




