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148:クラクフの野望

★ ★ ★


1772年9月15日


フランス パリ


『クラクフ共和国、ポーランドから独立す!オーストリア、プロイセンは国家として承認し、戦争中であるロシアとの停戦協定を開始』

『瀕死のポーランド共和国、議会は紛糾し国内の治安維持も困難か』

『バール連盟、正式にクラクフ共和国軍として編入される』


多くの新聞がクラクフ共和国の独立について記事を書き連ねていた。

クラクフ共和国……それが今、ヨーロッパの中でも誕生したばかりの真新しい新興国家であるにも関わらず、ロシア軍の猛攻を食い止めた上で、それを跳ね返しただけでなくロシア軍を逆包囲したりして撃破した事は衝撃を持って欧州諸国に伝わった。


特に、ポーランドから留学している学生などはポーランドが分裂を起こして南部が独立したことにより、自身が属している国家が何処になったのか確認するために大学に問い合わせをしているほどだ。

在フランス大使館はクラクフ共和国側を支持しており、今現在フランスにいるポーランド国籍の者は、10月末までにポーランド共和国に属するか、それともクラクフ共和国に属するか自分の意志で決めなければいけない境地に立たされている。


特に技術取得の為にポーランドからやって来ている学生たちは自分達の悲運に頭を抱えていた。

大使館からどちらに所属するか決めないと、持っているパスポートなどを無効化すると脅してきたからだ。

業務上の手続きとやらで、あまり時間は取りたくないらしい。

ポーランドに見切りをつけた者は、早速クラクフ共和国への賛同とクラクフ共和国への帰属を申し出ていたが、学生の大半はポーランド北部や首都ワルシャワ出身が多い。

そう数日で決めれることではない。

夜も経営しているレストランにやってきて、ヤケ酒でも飲まなければいられないのだ。

アルコール度数が高い酸味の強いワインを飲みながら嘆いていた。


「ポーランドはこれで終わったな……どうするんだよ……もう南部は独立しちゃうし、お先真っ暗だ」

「……終わりだ。俺の父親はクラクフ……母親の方はワルシャワ出身なんだよ。だからどっちかの故郷を捨てないといけないんだ……どっちを選んでもどっちかの故郷を捨てなきゃならない」

「それは辛いな……俺もワルシャワ生まれなんだが……もう政治的にポーランドはダメだろう?」

「ああ、議会は親ロシア派とバール連盟を支持するグループで大揉めしていてポーランドの政治機能はマヒ状態だ。あともう数年経たずして列強諸国に分割されるのがオチだ」

「全く、オーストリアもプロイセンも……そしてロシアの連中も好き放題やりやがって……こうなれば酒を飲んで気分も紛らわそう。ウエイトレスさん、強い酒をもっとください」

「皆さん……あまり飲みすぎると身体に毒ですよ?」


ウエイトレスは酒を浴びるように飲んでいるポーランド人達に同情しつつも、彼らが酔って暴れないか心配していたのだ。

そんな中、ポーランド人達の座っている席の横のテーブルに三人のフランス人の学生がやって来たのだ。

このカフェの常連であり、将来弁護士を目指して勉学に励んでいるピエール・ヴェルニヨは熱心に愚痴を吐き出しているポーランド人達を見ながら、これからヨーロッパがどうなるかを仲間と共に語りに来ていたのだ。


「聞いたか?国王陛下はクラクフ共和国の独立を認めるらしいぞ」

「クラクフ共和国を?あの大使館が離反した所だろう?それだとポーランド共和国はどうなるんだ?」

「少なくともポーランド人への危害を加えないように要請を出しているし、ポーランド共和国への編入手続きを行う部署は残すらしい……」

「大国ロシア軍をはねのけて停戦協定に呼びつける自信もスゴイが……ピエール、本当にこれからどうなるんだろうな?」

「さぁな……だが、少なくとも国王陛下が事態発生時に迅速に対応したという話が入ってきているから、上層部も注視しているはずだ。今現在ヨーロッパでも有名な出来事だからな……」


ピエール達はカフェ・オレと夏野菜サラダ、晩酌用に赤ワインと豚肉スライス焼きを注文してから国王陛下の対応を褒めていた。

ルイ15世などは戦況が悪化していても戦況報告などにあまり関心を示さなかった話は有名だ。

優秀な部下に任せて自分だけは鹿の園で愛人達と夜戦を勤しんでいる。

……という話が庶民の間でも噂になっていた。

先に崩御したルイ15世と現在のルイ16世の政治体制を比べたらまさに天と地の差なのだ。


「たしかクラクフ共和国独立の第一報が入った途端に行事を中止して、クラクフ共和国への対応に走ったのだろう?普通では考えられないよ……今までなら部下に任せてしまう案件じゃないのか?」

「いや、新聞には陛下自らこうも書いてあったぞ『クラクフ共和国への対応が一日でも遅れたら、部下にも負担が生じる。そうした初動が大事な時に上が状況を理解していなければ、その分適切な対応が出来ない事態に陥るかもしれない。故に、親睦会を中止して情報収集の為に行動を起こした』……てね」

「本当に……陛下はお若いのによく動いているよな」

「俺たちよりも働き者かもしれないな」


舞踏会や親睦会など重大な行事よりも最優先で情報収集に力をいれた国王陛下の行動は見事であったとピエール達は評価している。

仲間だけではなく、大学に通っている同級生や教授も同じような意見であった。

若い国王陛下は今や国民にとってフランスの象徴であり、希望の星でもあるのだ。

そんな眩い星に対して熱く語っているフランス人が羨ましいと感じたのか、ポーランド人の一人がピエールに声をかけてきたのだ。


「な、なぁ……あんた、国王陛下の事をかなりスゴイと評しているが、どのぐらい凄いのか俺たちにも教えてくれないか?」

「ああ、ポーランド人か……分かった。まぁこっちの席に座って酒でも飲みながら話をしよう」


赤ワインを注いでポーランド人に国王陛下の事について語り始めた。

僅か16歳で国王の任を継いだルイ16世が国民の為に行ってきた数々の実績。

既にブルジョワだけではなく、全フランス国民がその実績によってもたらされた恩恵を受け始めているのだ。

その話を聞いたポーランド人は話を聞いているにつれて泣き始めた。


「ううううう……俺たちにも……この国の王様のように行動力と勇気のある人が欲しかった……」


自分の国王もこれだけ行動力があれば、今のような惨状は起きなかったと嘆いた。

既にオーストリア、プロイセン、ロシアに分割される事がほぼ確定となり、クラクフ共和国も独立した。

ガタガタになって崩壊寸前の国を見て、思いとどめていた感情が一気に噴出したのだ。

周りにいたポーランド人も同様に、自分の祖国が分断されてかつ……片方には希望があり、もう片方には未来もなく列強諸国に食い散らかされる未来しかないという絶望的な状況なので、もはや祖国消失の一歩手前まで来ている状況なのだ。

さすがにピエール達も、そんな彼らが不遇だと思ったのかレストランが閉店時間になるまで、一緒に酒を飲んだのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] > あともう数年経たずして列強諸国に分割されるのがオチだ ロシア「ようわかっとるやないか。せやで。オーストリアとプロイセンと3分割や!ほんまにようわかっとるわ」 イギリス「その通りです。部…
[一言] 作者様、更新楽しみにしていました! ポーランド受難の始まり始まり〜… ただ歴史が変わって来ているのでポーランド自身もこのまま大人しく分割されるかは分からない。
[一言] ポーランドさんなぜ毎回毎回分割されてしまうん?
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