147:キプフェルン
あせって投稿しているのに気がつかなかったので初投稿です。
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親睦会が中止となり、後片付けを終えた私は部屋で読書をしています。
遊びに行くのも悪くはないのですが、流石に親睦会が中止になっているのにも関わらず遊んでいる事が発覚したら大目玉ものですわ。
そこまで恥知らずではございませんのよ?
中止になってしまったのは残念ではありますが、仕方ない事であることは承知しております。
オーギュスト様は国王陛下であり、国の中心に立つ御方です。
ポーランドからクラクフが独立した事での緊急対応策を練っているそうですし、何よりも今後のフランスを左右する重大な事件でもあります。
中止になったと知らされた時、少なからずなぜ今日になって独立が起こったのかと怒りたくなる気持ちがございましたが、会の延期を王室行事と調整して再来月の下旬にずれ込ませる見通しとなりそうです。
また再開できるのであればそれに越したことはありません。
それに、沢山作ったお菓子やお茶などは日頃から頑張って宮殿の整備などに携わっている方達に振る舞うように命じましたの。
せっかく作ったものを捨てるだなんて勿体無い事ですわ!特にお菓子であれば砂糖や蜂蜜など少々値段が高い材料を使っているのですもの。
破棄してしまうぐらいなら、使用人の方々にお配りして食べて頂くほうがよろしいと思ったのです。
ランバル公妃やルイーズ・マリー夫人もその考えに賛同してくれたので、私の権限でお配りいたしました。
さらに、来場する予定だった方々には事情を説明した上でヴェルサイユ宮殿に来るまでに掛かった移動費や遠方から来た人には宿泊費の補填などを行い、次回の開催日などをお知らせした上でお引き取りをお願い致しました。
残念そうに嘆く人はおりましたが、それでも誰一人として文句を言ったり苦情を言う方はおりませんでした。
リヨンから来た初老の平民の方はこう述べておりました。
「王妃様、緊急性の高い事案が発生したのであれば致し方ありません。むしろ、緊急時に対応を真っ先に行う御方であればそれだけ国を守ろうとしている証でもあります。私は陛下が国の為に尽くそうとする心意気に感動しておりまする」
そう述べてからその方は涙をにじませてハンカチでしきりに顔を拭っておりました。
オーギュスト様の行動はやむを得ない事であり、政治的な緊急性の高い事を優先して行うことを評価しておりました。
おじいさま……ルイ15世陛下は政治や統治に関しては閣僚に放任気味だったと伝えられていますし、オーギュスト様もフランスに嫁いできてしばらくの間は、ルイ15世陛下の浪費癖を嘆いておりました。
恐らく反面教師としてルイ15世陛下の事を見ていたのでしょう。
現在までにオーギュスト様は倹約を心掛けて、かつ国民一人一人が暮らしやすい新たなフランスを作ろうと意気込んでおります。
「おぉ、お見苦しいところを見せてしまって申し訳ございません王妃様……また再来月、陛下にお会いする際にはお声がけをしてもよろしいでしょうか?」
「ええ!構いませんよ!その際に声をかけて下されば私の方から申しておきますので」
「王妃様……ありがとうございます!このアルセーヌ・デュラン……亡き妻のクレマンティーヌの願いでもあり、私からの一生のお願いでございます!」
「父さん、これ以上は王妃様のご迷惑になってしまうよ。すみません、父のワガママを……」
「いえ、大丈夫ですよ。また招待状を送りますので……その時にお越しください」
その方は何度も頭を下げながら息子夫婦とご一緒にお帰りになられました。
軍服を着ている息子さんは礼儀正しくて、奥様とも仲がよさそうでした。
それから親睦会の後片付けをしている時にランバル公妃から声をかけられたのです。
「王妃様……今の方は?」
「アルセーヌ・デュランという方ですよ。庶民の方でリヨンからこちらに来たと言っておりましたわ。陛下とお会いするのを楽しみにしていたそうですが……」
「アルセーヌ・デュラン……王妃様、その方はもしかしたらルイ15世陛下と関係のある方かもしれませんよ?」
「えっ、先程の方が?」
「はい……かつて鹿の園という娼館がヴェルサイユにございました。そこで先帝陛下は何人もの愛人と関係を持っていたのですよ」
ランバル公妃は恐る恐る話をしてくれました。
愛人たちの中に、数名庶民の女性がいて……極秘裏に出産させていたのだとか。
勿論自分が王様との間に子供を産んだと公の場で証言をしない代わりに、5万リーブルもの年金手当を含めた衣食住の保障を約束していたのだそうです。
その中の一人にリヨン出身のクレマンティーヌ・デュランという庶民の女性が、ポンパドゥール夫人との間でいくつかやり取りを交わしていたという逸話があるそうです。
「平民階級でありながら、優れた知識をお持ちだったポンパドゥール夫人には友人がいたとされています。その友人というのが同じくリヨン出身で平民階級出身のクレマンティーヌ・デュランという人で、ポンパドゥール夫人の要請を受けて鹿の園で先帝陛下のお世話をなさっていたと聞きます。記録上はその存在を抹消されたともいわれておりますが……」
「……そういえば、奥様の名前もクレマンティーヌと仰っておりましたわね……そしてリヨン出身……本当だとしたら……あの息子さんは……」
「きっと息子さんが先帝陛下の血を継いでいるかもしれないという事です。ですが、公に公表することは今後ないでしょう。もしそれを認めてしまえばこれまでに先帝陛下との間に生まれた子供の数を考えれば、相当数いるはずですから……」
ランバル公妃はそれ以上の事は話しませんでした。
違っていたら一大事ですし、本当の事だとしても世に出回らないほうが幸せだった真実という事かもしれません。
それに今回の親睦会への参加は偶然にも抽選で当たったそうで、もしかしたら自分のルーツに引き寄せられたのではないかと言っておりましたわ。
(人とは運命によって引き寄せられると言われておりますが……きっと父上も母上も運命で引き寄せられたのかもしれませんね)
母上はいつも父上の事を「あの人」と言って慕っておりましたし、宮廷内では地位が殆どないものに等しくても、帝国の財を黒字にするぐらいに経営手腕は優れていた筈です。
もし……自分が本当の父親だと思っていた人が、実は違う人だと宣告されたらと思うと……私はその事実を受け入れられないでしょう。
そして、母上の事も信じられないと感じて人間不信に陥るかもしれません。
いくつもの伏線によって核心に迫っていく……まるでロビンソン漂流記のような小説を読んでいるような感覚に陥りました。
『人の数だけ、人生という名の物語がある』
『物語の外側では常に登場人物が動き、そして会話を楽しんでいるかもしれない』
『私達が見ている話は、常に流動的で川のように動き回っているものだ』
蠢いている文章の並びを見ながら、私は使用人に頼んで紅茶を一杯貰ってから、ひたすらに本を読んでおります。
母上から渡された本であり、様々な情報が記載されている『百科全書』というものですの。
オーギュスト様の帰りは長引くかもしれません。
ですから今日起こった事は後日改めてお話すると良いかもしれません。
(きっと……これから良い事があるはずですわ)
「アントワネット、遅くなってごめんね。今帰ってきたよー」
本を読んでいるとドアのノックが3回鳴って、オーギュスト様が帰ってきました。
私の予感が最近当たるようになってきたように感じます。
いつもより声のトーンを高めに甘い香りと共に帰ってきたオーギュスト様。
気を遣ってお菓子を持ってきてくれたようです。
もう、夜遅くに食べると胃に悪いですが……たまには食べても問題ないでしょう!
これからも、妻として……王妃としてオーギュスト様を支えます。
私は愛しの夫に笑顔で出迎えます。
いつものように。
「おかえりなさい!」
本日4月1日より、毎日投稿を再開いたします。




