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145:新しい歴史

「ポーランドはこのまま数年以内に大分裂を起こすか……それとも大国に飲み込まれるかは分からない。ただ、現在の状況を考えるとそう長くはないだろう。クラクフ共和国はロシアと停戦を結ぶかもしれないが……このままポーランド大使館をクラクフ共和国の大使館と認め、クラクフ共和国側との協議を今後どうするか……まずはクラクフ共和国に関して現時点で分かっている情報を精査した上で皆の意見を聞きたい」


独断で決める事も出来るが、それでも皆の意見を聞いてから決断を下したほうがいいだろう。

俺がいきなり決断していきなり実行をしてしまうと、後になって行動に不備や行き当たりばったりな政策になってしまうだろう。

いくら国王とはいえ、そうした国民の生活に支障をきたすような行動はしてはいけない。

国家のトップに立つものである以上、ある程度いろんな人から意見を取り入れた上で今後のポーランド、及びクラクフの扱いを決めることにした。


「ではまずポーランドについてだ。国土の3分の1をロシアに攻め込まれている真っ最中であり、さらにクラクフ・リヴィウなどの南部の都市をバール連盟が占領し、独立を宣言した状態だ。もはや国家体制を整えるだけの余力を残していないポーランドは既に瀕死だ。かの国の扱いをどうするか、何か意見のある者はいるか?」

「陛下、意見を述べてもよろしいでしょうか?」

「おお、コンドルセ侯爵か……いいぞ、発言を許可する」


最初に意見を述べたのはコンドルセ侯爵だ。

アントワネットと俺の教師として色々と勉強を教えて貰っているけど、この人の政治に関する解説はマジで凄いぞ。

動画配信サイトでコンドルセ侯爵が政治に関する解説動画をするだけで多分投げ銭で画面が埋まると思うの。

そのぐらい政治学に詳しい人なので、彼のアドバイスは役に立つだろう。


「はっ、現在ポーランドは統制が取れていない状態にあると考えられます。まず、新たに建国されたクラクフ共和国ですが……この国家元首がミハウ・イェジー・ポニャトフスキ……ポーランド国王の兄で、ポーランドでも議会において有能な人材だったと評されている方です。その方がポーランドを離反し、新国家に寝返った事で、同じように離反者が出てくるかもしれません。このままいけばポーランドはロシアに飲まれるか、ロシアに極めて有利な条件で講和となるでしょう」

「つまりポーランドは国家滅亡レベルの危機になっているというわけか……仮にだが、ポーランドを見捨ててクラクフ共和国をプロイセンやオーストリアのように認めるとしたら、我が国にメリットはあるかね?」

「メリットとしては、鉱石資源が安く買える事と、地理的にロシアの盾となる存在になるでしょう。我が国としても仮想敵国であるロシアがクラクフやオーストリアを経由して襲ってきたり、プロイセンと結ばれている露普同盟によってこちら側に攻撃が仕向けられる事を考えれば、独立を認めるという選択肢もアリかと考えております」

「成程、確かに隣国であるプロイセンはロシアと同盟を結んでいるし、おまけに近年は軍隊の拡張が進められていると聞く。中立国としてプロイセンが認めているという事は、ある程度はリスク軽減のために了承しているとも捉えることが出来るからな。とはいえ、用心に越したことはないだろう……では、コンドルセ侯爵はクラクフ共和国を国家として承認することに賛成という事でよろしいかね?」

「はい、現時点では賛成です。ポーランドの混乱によって生じる欧州政治情勢に備えておくべきかと……」


プロイセンは現在の所、クラクフ共和国への干渉をしている情報はない。

独立を認めていることから、何かしら周辺諸国と取引が行われたのかもしれない。

でなければ、クラクフ共和国を仕切っているバール連盟がここまで持ちこたえているのも不可解だ。

フランスは2年前まで支援をしていたそうだが、国内の情勢不安やポーランドのグダグダっぷりをみて去年の1月までに支援を取りやめて外交工作員を帰国させている。


その間に反ロシアを掲げているバール連盟を支援するスポンサーがいるとすれば……オスマン帝国かもしれない。

この時代、中東で最大の勢力を誇っていたオスマン帝国はロシアと戦争を度々繰り返していた。

史実でもバール連盟はオスマン帝国に支援を取り付けようと交渉していたらしいので、おそらくオスマン帝国経由でバール連盟に武器・人員などが送られたと考えたほうがいい。


仮に、このままポーランドが瓦解してロシアやプロイセンを中心に併合されたとしても、クラクフ共和国が生き残っていれば、必然的にプロイセン・ロシアの脅威度ないし注目度はそちらに向かうだろう。

今現在クラクフ共和国は「永久的中立国家」として独立しているので、オスマン帝国との軍事同盟は締結しないだろうが、それでも貿易などによってロシアへの脅威が上がればどうなるか分からない。

多分経験からして戦争になるだろう。


「私からも発言よろしいでしょうか?」

「ハウザーか、いいぞ」

「私としてはクラクフ共和国の承認は一週間後に行うべきかと思います。少なくとも一週間ほど時間をおいてからでないとポーランド側やオーストリア、プロイセンに滞在している国土管理局の職員からの報告が入ってこないからです。もしかしたらポーランド政府がクラクフ側を鎮圧するために動きだす可能性もあります。時間をおいてから承認したほうが後々にリスク回避の為に良いかと思います」

「なるほど、リスク回避の為に承認を遅らせるか……しかし既に周辺諸国はクラクフ共和国の樹立を認めているのだろう?」

「はい、オーストリアとプロイセンが認めておりますが……まだポーランドと交戦中であるロシアからの返答が帰ってきておりません。ロシアがこれを認めないとすればより一層混乱が拡大して、オーストリアなどに飛び火するかもしれません」


ハウザーはリスク回避の視点から承認を一週間先延ばしにすることを提言した。

まず第一に情報量が少ないことを挙げた上で、ロシアの動向を探ってからでも遅くはないという事だ。

ロシアは史実通りポーランド北西部まで侵攻を進めており、事実上ロシアはポーランドの3分の1を征服している状態でもあるわけだ。

この状態からさらにポーランド南部が独立を宣言したとなれば、ロシアがさらに奥深くに攻め込んでくる可能性を考慮しているらしい。

もしくはポーランドとロシアが和平してクラクフ共和国に攻め入ることも考えられるとハウザーは指摘した。


「今はまだ第一報としてクラクフ共和国の独立が入ってきていますが、今後ポーランドがロシアと和平してからクラクフ共和国に攻め込む恐れがあります。そうなった場合事前に打ち合わせをしていたであろうオーストリアやプロイセンと違い、我々が支援していたという噂でも流れたらロシアは露普同盟を振りかざしてこちらに攻め入る可能性があります。現に、秘密協定によってフランス製の武器がクラクフ共和国の軍隊であるバール連盟に行き渡っているのですから……そこをつけこまれて大義名分を得て戦争に発展したら現在行われている改革は頓挫してしまいます」


ハウザーの危惧しているのはロシアがプロイセンと組んでクラクフ共和国を平定した後に返す刀でフランスやオーストリアを攻め入る可能性を指摘していた。

言われてみればそうだよね。

ルイ15世が頼りないポーランド政府よりロシアに何度も勝利をして国内での力を高めているバール連盟を支援しようとしていたのもある意味で理にかなっている。

支援は打ち切られてはいるが、それでもかなりの資金や軍事物資が送られたらしい。


フランス製である証拠を消すために、武器や兵器の刻印を削ったり溶かしたりして送ったようだが、それでもそうしたものがフランスの支援によって渡されたものであると知ったロシアはどう反応するだろうか?

クラクフ共和国の独立をフランスが支援して内政干渉を引き起こした。故にフランスをプロイセンと共同で討伐するべし。


そんなヤバイ事は流石にしないだろうと思いたいのだが、何せこの時代の戦争開戦理由の大半がお家騒動だったり領土確保のための拡張戦争、果ては宗教戦争だったりするので些細な事がきっかけで戦争が開かれる事も珍しくなかった。

日本が戦国時代へと発展する要因を作った応仁の乱も、将軍家の跡取りを巡っての内輪揉めから始まった事が原因だし、そうした些細な事から戦争へと始まる可能性がある。


「そうか、より大きな戦争になる可能性か……現在ロシアはポーランドとオスマン帝国と戦争中だったな。戦争が拡大していけば確かに周辺諸国にも当然広がっていくな……」

「はい、ですのでクラクフ共和国に関する詳細な情報が入ってくる一週間後まで、一先ず様子を見てから判断する事が大事かと思います。コンドルセ侯爵の意見も正しいと思っておりますが、改革が戦争によって中断されてしまうのが我が国にとって一番リスクでございます故、ここはより精確な情報が入り次第行動に移すのがよろしいと思います」


ハウザーはコンドルセ侯爵に頭を下げてから席に座った。

ハウザーの意見も正しいし、コンドルセ侯爵の意見も理にかなっている。

ここは慎重に行動するべきだろう。

勢いでやって失敗してしまうのはあってはならない事だ。

サン=ドマングのような伝令ミスから起こった騒動を思い出せ。

あのような失敗は繰り返してはならない。

だから、今はハウザーの意見を聞き入れた上で、コンドルセ侯爵の意見の一部も取り入れる方針にして行こう。


「では、コンドルセ侯爵とハウザーの双方の意見を踏まえた上でここにいる国土管理局の主要メンバー全員の意見を述べてもらいたい。勿論、コンドルセ侯爵の意見を参考にするか……それともハウザーの意見を取り入れて一週間ほど時間を置いてから改めて承認するか否か……各自、紙に書いた上で私の前にある箱の中に入れてくれ。集計は私が確認するから、書き終わった者から退出してくれ」


主要メンバーの意見も取り入れた上で、全員の意見を参考にするために、俺は目安箱を設置して全員に意見を書かせたうえで提出するように求めた。

発言がしにくい人でも、こうやって紙に書いた方が述べやすいからだ。

各自書き終えた者から会議室を去っていく。

どんな結果になるのだろうか、その意見を参考にしたうえで最終的に国王である俺が判断するのだ。

紙に書いてくれたほうが読み返しができるからありがたい。

その日の夕方までに集計を終えて俺はクラクフ共和国への判断を下すのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これでヨーロッパでの南下政策が駄目になったら今度は清帝国が犠牲になるんだよな… ま、今ならまだ欧州の産業化も進んでないからいい目覚ましになるか。
[一言] そういえば、極東や東南アジア、清には介入しないのですか?
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