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144/1013

142:聖職者が全て善人だと思ったら大間違いだよ

お詫び:先週土曜日ごろからPCが不調気味で日曜日に電力系統の部品が故障してしまいPCでのチェックができないまま、暫定提出用の原稿が最終確認前の状態で書き込まれたまま投稿してしまい申し訳ございませんでした(感想を見て発覚しました)

現在は問題となった箇所を修正し、今後は同じことが起きないように気を付ける所存でございますのでこれからもよろしくお願いします。

★ ★ ★


同日 フランス パリ


カラッとした暑さから一変し、パリ市内には雷雲によって大粒の雨が降りだしている。

人々は雨を避けるためにカフェテリアなどに逃げ込んでいる。

商売人たちも、こうした夕立で降り続く雨では商売が成り立たないので一休みも兼ねて屋内で休息を取っている。


人通りの多いパレ・ロワイヤルの前に赤い傘を差している貴族の男がいた。

大抵のパリ市民であれば傘を差す暇など無い。

いや、傘を差していることが分かったら馬車すら買う金がないと罵られる事が多いのだ。

特に貴族であれば尚更広がってしまう。

借金なり経済的苦境によってお金をあまり持っていない貴族は意地でも傘を差さずに帰ろうとするのだ。

傘を差している貴族の男は誰かを待っているようであった。

周囲で流れるように行き交う人々を見ながら、目的の人物と会うためにジッと待ち続けている。


「あら?誰かをお待ちですか?宜しければ花はいかがでしょうか?」


男の前に現れたのは赤い頭巾を被った少女だ。

差し出されたのは青い色をしたアザミという花であった。

花売りの少女が差し出してきたアザミを受け取ると、男は花を受け取ってから少女に尋ねる。


「アザミの白色は無いかい?」

「ええ、こちらに来ればありますよ」


少女は男を「本日閉店」と書かれたカフェテリアに誘い込んだ。

薄暗いカフェテリアには身なりの整った男が座っている。

本来であれば勤務中なのだが、堂々とグラスに酒を注いでいる。

イギリスから輸入したばかりの正規品のウイスキーだ。

ツマミとして粗挽きした胡椒を肉の上にまぶし、チーズとセットで味わっている最中であった。


「おや!これはこれは!待っておりましたよ!ささっ、どうぞ一杯やりませんか?」

「いえ、お気持ちは嬉しいのですが今は禁酒をしておりますので今日は遠慮しておきます」

「そうですか、それは残念ですな……」

「それにしてもよろしいでしょうか?聖職者である貴方がここで寄り道をしているのが発覚したら私以上に厄介な事になるでしょう」

「ふふふ、ご心配には及びませんよ!なにせ、私には心強い後ろ盾がいますからね!」

「は、はぁ……ですが程々にお願いいたしますよ」


後ろ盾がどんな人物なのかは明かさなかったが、聖職者である男は貴族の男にそう言い放った。

むしゃむしゃと肉にありつく男の隣に座った。

互いに名前をいうような間柄ではない。

むしろ貴族の男としては、この聖職者の男を避けたいと思う程に嫌っていた。

しかし、この聖職者の男は重要な情報を持っていることもあってか、下手に縁を切れないのだ。

とんでもない人間を頼ってしまったと後悔しているが、何としてでもこの聖職者から支援を取り付けないと同胞の未来が無いのだ。

貴族の男は腹を括って交渉を始めた。


「半年前に支援を下さったお陰で、我々は体制を立て直してオーストリア・プロイセンとの交渉の場を設けることができるようになりそうです。主にロシア方面は手打ちとして北部などを取られるかもしれませんが……少なくとも国家消失という事態だけは避けそうです」

「ほぉ~それは良かったですな!いやはや、私が支援した甲斐がありました!」

「ええ、私としても同胞が助かるのは良いことです。あともうひと押しです。そのひと押しの正念場さえ乗り切れば我々は正式に貴方を国賓としてお迎えする事ができそうです」

「ほほほ、そこまで頼ってもらっていたとは……いやはや、歴史に名を刻みそうですな!このエドゥアール・ド・ロアンの名前が!はははっ!」


エドゥアール・ド・ロアン……。

ロアン枢機卿すうききょうと呼ばれたこの男は史実ではマリー・アントワネットが国民から批難を浴びた「首飾り事件」の原因を作った人物だ。

では、ロアン枢機卿とはどんな人物だったのか?

彼は元々デギュイヨン公爵に仕えていたが、このデギュイヨン公爵は地方総監時代に現地住民から勝手に税収を巻き上げたり、現地裁判所を閉鎖したりするなど独断専行で行う事が目立ったために、現在は政治的に高位な地位についていない。

そんなデギュイヨン公爵に仕えていた事も合わさってか、このロアン枢機卿も中々の曲者でもある。


まず生活スタイルが聖職者としてあるまじきレベルで派手なのだ。

何が派手かといえば、女性関係が極めて派手なのだ。

ハントしたうえでベッドの上で揺らした回数は数知れず。

貴族の令嬢だけではなく、一般人でも美しい女性とも交えたと噂される程だ。

聖職者は性に関しては厳格にルールを定めているハズなのだが、どうやら彼にはそうした宗教における「自重」という言葉には縛られない性格でもあるようだ。


とにかく彼は色んな女性とベッドの上で激しくするような関係に発展していくことが大好きであり、史実でオーストリア大使館に派遣された際にもその才能を遺憾なく発揮してしまう。

あまりにも派手過ぎた事から純愛主義のテレジア女大公陛下から直々の反感を買うぐらいに派手なのだ。

テレジア女大公陛下からアントワネットに「あのロアン枢機卿は女性遊びが凄まじいので近づかないように」と警告を受けるほどに酷かった。


母の事を尊敬していたアントワネットはこの忠告を守ってロアン枢機卿とは距離をとっていた。

勿論、これに越したことはなかったしそれで済んでいれば良かった。

……が、悪いことを企んでいる者によってフランス史を揺るがす事件を起こしてしまう。

それが首飾り事件なのだ。


フランス革命を舞台にした漫画でも描かれている通り、このロアン枢機卿はアントワネットの宮廷御用達人の一人に名を連ねていたラ・モット伯爵夫人のハニートラップに引っかかったのだ。

ロアン枢機卿にとってアントワネットの容姿やしぐさが気に入ったそうで、アタックを仕掛けるほどであった。勿論、そんな事をアントワネット本人が許すわけもなく、追い返されてしまうわけだが……。


ラ・モット伯爵夫人はそんなロアン枢機卿の恋心を刺激するように悪魔の契約を持ちかける。

アントワネット王妃の手紙を偽装させてロアン枢機卿と取り繕い、様々な工作を行った上で彼にダイヤの首飾りを買うように仕向けたのである。その合計金額は約160万リーブル。

資料によってはレートがバラバラなのだが、1リーブル5000円と仮定すると日本円に換算して約80億円相当ものダイアモンドを散りばめた首飾りに受取人のサインをしてしまう。


勿論、事件が発覚するまでにラ・モット伯爵夫人やその愛人らが首飾りを分解した上で欧州各国にダイヤを売りさばいたのだ。

何度催促してもダイヤの分割料金が支払われない事を不審に思った職人の告発によって事件は発覚するのだが、この事件によってフランス王室……特にアントワネットに対する国民の不信感が沸き起こってしまい、結果的に世界史にも残る詐欺事件のトリガーを引いてしまったのだ。


しかもだ。

この詐欺事件の中心的人物であったラ・モット伯爵夫人は終身禁固刑として刑務所に収監されていたのだが、外部からの手助けを得て脱獄し、イギリスに亡命。

亡命先で首飾り事件の首謀者ではないと言ったばかりか、全ての責任はアントワネット王妃にあると告発本をご丁寧に何部も発行してベストセラーとなってしまっているのだ。

責任転嫁という四字熟語はこういった人物の為にあるかもしれない。


それでいて、詐欺事件に加担していたにも関わらず裁判ではロアン枢機卿は無罪となり国王陛下であるルイ16世の命令で国外追放処分となったが、反国王勢力……とりわけ革命派からはもてはやされたロアン枢機卿はほとぼりが冷めるとしれっと帰還して議会のメンバーになるほどに図々しいものであった。

おまけに革命が勃発するとドイツに亡命するなど、国王陛下の温情など知った事かと言わんばかりの最低野郎(にんげんのクズ)なのだ。


そうした経歴の持ち主であることから転生者であるルイ16世が非常に警戒して、政府における重要な役職に就かせていない。

そう、政府における重要な役職に就かせていなかったために、この男の脅威度は必然的に下がってしまったのだ。

政治的コネクションから外された彼が取った行動、それが聖職者というキリスト教系圏でもそれなりに地位があり、同じ宗派の人間から宗教的なコネクションを使って金儲けを企んでいた。

その金儲けというのが、武器の輸出である。


勿論フランス国営企業から武器を買い取っているわけではない。

プロイセンとの国境近くの街であるストラスブールの宗教的指導者である事を利用して、ストラスブールでも貧困などで生活に困っている人々を集めて武器を密造していたのだ。

懲罰兵など軍規に違反して不名誉除隊した素行の悪い元兵士などの指導の下で銃や大砲の部品を作り、それをオスマン帝国経由でポーランド南部に密輸を繰り返しているのだ。


当然、これらの行為は当然違法であり外交関係を乱す上に、事が発覚すれば死刑は免れない。

それでもこうしたリスクを承知でやるのには、教会に多額の寄付金を出しているスポンサーからの依頼でもある為でもあるのだ。

スポンサーはサン=ドマングで起こった反乱事件の損失を補填するべく、少々危険性が伴う賭けをしている。


成功すれば莫大な利益が出る上に、支援者としてポーランドで樹立するであろう新国家の国賓として迎えられる名誉が待っているのだ。

既にベッドの上でスポンサーである美しい女性と何度か夜戦をしてしまった以上、この依頼を引き受けないわけにはいかない。

そんな色欲と実益をロアン枢機卿は選んだのだ。


「では、追加の武器は遅くても3週間以内にポーランドに送り届けますよ。勿論、どこで製造されたのか分からないように細工をしてからになりますが……それでよろしいですかな?」

「ええ、本当に助かります。ロアン枢機卿にはご迷惑をおかけいたしますが、何卒宜しくお願い致します」

「ええ!ええ!いいですとも!あなた方を助ければ助けた分、しっかりと儲けがでますからね!はははっ!若き秀才からそのような言葉を頂けるとは誠に光栄ですぞ!」

「では、私はこれから本国宛に連絡を入れますので失礼致します……」


貴族の男はロアン枢機卿の下品な笑いを必死に耐えてその場を去った。

なぜこんな礼儀すらままならない下劣な男に頼らないといけないのか、男は情けなくなって雨粒が吹き荒れるパリの街中を走り抜ける。

少なくともそうすれば雨粒が顔に当たって泣いているのが分からなくなるから。


「クソッ!これが俺が望んでいた支援か!あのような男にしか頼めないとは……情けないよ!畜生!この屈辱は一生忘れるものか!」


タデウシュ・コシチュシュコ……ポーランド士官としてフランスに派遣されている彼は、ロアン枢機卿の振る舞いを耐えた。

同胞を助けてくれる人物であるとはいえ、やはり政治的に腐敗している彼を見るのはきついものがあったからだ。


「いいさ、いつかあいつの伸びきってふんぞり返っている鼻をへし折ってやる……それまでは耐えるんだ……」


雨の中去っていく彼の足音は悲しげに水たまりを跳ね飛ばしていたのであった。

また、4月1日から毎日投稿を再開致しますので初投稿です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 聖職者は上に行けば行くほど、信心深い人は減る。 そのトップなんて、この世界で最も神を信じていないのではと思ってしまう。 神を利用して人々を騙し搾取するなんて、正に神をも恐れぬ所業だとよホント…
[一言] ちなみに聖をよく使う宗教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教、ヒンドゥー教、サンテリア(カトリックと土着宗教混合)。 過去、現在において問題ある連中ばっかですね。
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