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127:学士院

ブックマーク数1万人を超えましたので初投稿です

護衛用の車両と、俺とアントワネットが乗っているのを含めて3台の馬車でやってきた。

流石に馬車一台だけでは心細いからね。

何かあった時に直ぐ動けるようにと3台、車列を連ねてパリに入場だ。

パリ市内に入ると、相変わらず人々が賑わいを見せている。

人々が行きかう中で、割と最近目にするのがジャガイモ料理を扱った屋台だ。

俺が学士院に行く途中で見ただけでも9件ぐらいはあった。


「ん?なにやら甘い香りがしてきたね」

「本当ですわね。ここからでも匂いが入ってきますわ……」


揚げたてほやほやのジャガイモ料理が巷では売られているようだ。

ジャガイモを揚げたり、蒸したりして出来上がった料理を人々が美味しそうに食べている。

かなり売れているらしく、屋台だけではなく又売り屋と呼ばれている小売業者の中でも少々割高な商品の転売を許可している人々が口をそろえて即席品のお菓子を売っていたのだ。


「さぁさぁ、担ぎ屋の俺が常備しているのが携帯揚げポテトだよ!砂糖をまぶして甘くしてあるから冬場でも精が付くよ!奥さん、良かったら旦那様の為に一袋買っていきませんか?」

「ポテトの食感と甘くしたものは如何ですか!今なら安くしておきますよ!」

「揚げたての砂糖チップスはいかが!甘くておやつにはピッタリだよ!今なら(※1)一袋たったの5スーだ!」


(※1.スーとは?フランス王国で使用されていた通貨単位である。フランス革命前までには順にリーブル、スー、ドゥニエの三種類があり、リーブルのほうが価値が高く、ドゥニエは一番低かったのだ。日本でも明治時代になるまでは様々な種類の通貨があったわけだが、ここではそうした個別通貨の価値を調べるためになるべく革命前のレートで換算しております。通貨の種類がバラバラでクッソめんどいのは秘密だ!)


手軽で、かつ栽培がし易いという事もあってか、今年にはそれなりの量のジャガイモがフランスで収穫を迎えたのだ。

そうしたジャガイモをこうした形で人々に食べて貰うのはいい事だと思う。

みんな凄く嬉しそうだしね。

又売り屋の人々の所にも人だかりが出来ているぐらいだから美味しいのだろう。


「甘ポテトか……見た限りスティック状にして揚げたのを食べているみたいだけど……アントワネット、帰りに一つ買っていくかい?」

「ええ、是非ともお願いいたします!」

「やはり甘い物は美味しいからねぇ……あれはスティックポテトの一種かな?」


見た限りでは、棒状になったポテトを食べるというものらしく、転生前でいえばジャガ揚げポテトとかの名称で広く知られているお菓子みたいな見た目をしていた。

やはり食文化でも美を追求しているフランスだけあって、こうした食に関する情熱というものが感じられるね。

帰りに一袋、買いに行こうかな。


「陛下、フランス学士院に到着いたしました」

「おお、もう着いたのか……随分と早いねぇ!」


御者が馬車を止めてくれると、そこにあったのは立派な建物であり歴史を持っているフランス学士院だ。

やっとこの場所にやってきたという感じだ。

何人かが既に出迎えてくれているのだが、驚いた事に出迎えの代表者として来てくれたのはコンドルセ侯爵だったのだ。

馬車から降りると、早速コンドルセ侯爵と挨拶を交わした。


「コンドルセ侯爵おはようございます、こちらにいらしていたのですね」

「おはようございます陛下、王妃様、はい……普段はこちらで百科全書の執筆や道徳政治科学の研究を行っております。お二人方は、こちらにいらっしゃるのは初めてですね」

「ええ、今日は宜しくお願い致します」


一通り礼儀正しい挨拶を終えてからフランス学士院に入ることになる。

コンドルセ侯爵の案内の元で、学士院に足を運ぶが……やはり科学技術の最先端を研究している施設だけあって、様々な研究を行っている研究室が幾つもあったのだ。

大学のキャンパスというよりも、各専門分野をそれぞれの大部屋などに割り振って統合化を図った研究所のような感じである。

大学にいたころの雰囲気とはちょっと違うんだよね。

ウェーイ感というものはなく、どちらかといえばしみじみと研究を部屋の中でずーっと行っているようなそんな感じだ。


「早速ですが陛下、今回こちらにお越しくださったという事は、蒸気機関の装置をご覧になるのですね?」

「うん、一度この目でじっくりと見に来たいと思っていてね。確か蒸気機関を使った自動車も既にこちらで研究しているのだろう?そうした研究がどんな感じになっているのか見てみたいのさ」

「かしこまりました。ちょうど蒸気機関に関しては、只今機械を動かしている最中でございます」

「ほぉ……ではその場所まで案内してもらえるかい?」

「はい、こちらでございます」


コンドルセ侯爵の案内の元、俺は蒸気機関を目にすることになった。

イギリスのワット氏が開発した蒸気機関、近世から近代へと押し上げることになるこの機関は現代で暮らしていた俺にとって日常生活で欠かせない存在となっている。

全ての技術の基礎とも呼べるこの蒸気機関、そのイギリスへライセンス料を支払って完成させた一台でもあるわけだ。

そして、フランス学士院に属するフランス科学アカデミーには支給したライセンス品のテストと改良を依頼していたんだ。


無論、改良といっても大きな改造などは加えていない。

安全に起動するかどうかの動作確認テストや、どのような要因で故障したり事故が起こるケースがあるのか少々危険を伴うものをしてもらった。

なぜそのような事をしたのか?

それは、これから蒸気機関が主役になる時代に入る前に機械に関する取扱説明書のようなガイドラインなどを製作して事故を減らす目的があったからだ。


いくら高価で効率的な機械を持っていても、どのような条件で壊れたり事故が起こるのか注意書きが無ければ操作すらままならない。

それに、こうした蒸気機関を使ってフランス各地に点在している炭鉱に、掘削機として蒸気機関を利用する予定だ。

炭鉱で蒸気機関に関連する事故が起これば、その分安全性などに問題があるとして炭鉱で働いている人々は使いたくないと思うだろう。


事故を100パーセント防止することは不可能だ。

しかしそうした危険性を抑えることはできるはずだ。

ワット氏が開発した蒸気機関というのは、最初期のものはボイラーの加熱のし過ぎで暴発事故が多かったという話を聞いたことがある。

そうした蒸気機関が絡む事故を減らせるように、ボイラーの調整機能などを可能であれば取り付けるように命じたというわけ。


その蒸気機関をついに見ることが出来た。

学士院に入ってから歩いて3分ほどの大きい研究室で実験などを繰り返しているという。

既に改良が施された蒸気機関の試作機(仮名)が稼働を始めていた。

蒸気の熱で機械が唸り声をあげながら大きな車輪を回しているじゃないか。

これはすごいな!


蒸気機関というものは歴史の教科書やゲームの解説とかでチラッと見た程度、そんな俺からしてみればレトロ(この時代では最先端)な技術をこうして間近で見れるというのは凄い。

唸り声をあげている機械の近くから人がやってきた。

白髪交じりの如何にも博士という感じの人で、彼が蒸気機関の改良・実験担当となったジャン・ル・ロン・ダランベール氏だ。

数学者であり物理学のスペシャリストの彼は蒸気機関から発せられる動力の原理などを計算し、より効率の良いものに転換する為にいる。今回、蒸気機関の改良モデルを設計し直したのも彼の手腕で出来た事だ。


「陛下、それに王妃様!お待ちしておりました。こちらがイギリスから持ち込まれた蒸気機関を我々で改良を施した試作蒸気機関機でございます」

「凄く……ロマンを感じるね。こう、男の子であれば心の底から沸き起こる不思議な気持ち……といえばいいかな。こうして科学の進歩って凄いなぁって思えるね」

「ええ、このボイラーというものを使って回しているのですか?」

「その通りです王妃様、こちらのボイラーから発せられる熱によって中に入れてある水が蒸発し、その圧力で機械を動かしているのです」


コンドルセ侯爵から蒸気機関に関するデータを聞かされていた事もあってか、アントワネットは割と早く仕組みを理解しているようだ。

この蒸気機関を炭鉱でも使えるようにすれば、今よりも効率が大幅にアップするだろう。

しかしながら本当に車輪がデカいなぁ。

よくこれだけ大きな車輪を回せるようになったと思う。


「いまはこうして展示しているだけだが……いずれはこうした蒸気機関が大活躍をする時代がもう目の前に来ているのかもしれないね……うん、これは故障や事故率といったデータも取ってあるのかね?」

「はい、ワット氏の設計した従来通りの輸入品に比べて1割ほど故障するリスクを抑えることに成功しましたが……やはりまだ高圧で回そうとするのはリスクが伴います」

「成程、一筋縄ではいかないという事か。これを炭鉱で運搬用の機械として活用する事は出来そうか?」

「実用化を目指すのであれば、あと2年は時間が欲しいところです」

「2年か……うん、分かった。資金面では国が全力を挙げてバックアップをしましょう。その際に英国との交渉も任せてください」

「ありがとうございます陛下!」


ジャン・ル・ロン・ダランベール氏は頭を下げる。

研究費が確保できないとまずいからね。

これを炭鉱で使用することが出来れば、労働者の負担も軽減されるだろう。

そして忘れてはいけないのが、そうした労働者に対する仕事を奪わないようにする配慮でもある。

実際に水力紡績機すいりょくぼうせききを発明したリチャード・アークライトという人物は、作業効率が良くて糸が作れる機械があると仕事が無くなる事を恐れた人々によって、なんと試作品などを労働者や綿織物を扱う同業者の人間に壊される悲劇に見舞われている。


「炭鉱で運用が可能になれば、その分労働者達も仕事を奪われないか心配になるかもしれない。そうなる前に人々に向けてこれらの蒸気機関の一般公開などをしたほうがいい。ある程度時期がくれば一般公開をして人々に見せてくれないか?」

「はっ、ではそのように致します」


実際には作業効率があがり、それに伴う工場の建設などによってより多くの労働者が必要になったわけだが、この蒸気機関やそれに関する新発明品などを世に広める際には庶民にしっかりと説明をしなければならない。

いくら工業製品が良くても、着物などはミシン縫いをすることは出来ないし、高級品に関しては手作業で取り扱う職員がいる。

そうした便利性や生産性、科学力の向上も必須ではあるが、同時にそれまで働いていた人々のライフスタイルを変えてしまう事を踏まえて、どんな生活になるのか新聞や公布人を経由して広めていこう。


あと一般公開をするのもいい。

人々が新しい機械、発明品を見て触れることはいい事だ。

そうしたものを俺が積極的に扱っていけば、国民も理解してくれるはずだ。

そう心に誓いつつ、次にキュニョーの蒸気機関を応用した世界初の自動車を見に行くのであった。

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