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126:グラントゥーリスム

身支度を済ませてアントワネットと共に馬車に乗り込む。

絢爛豪華な外装なんて必要ないんだよ!

あまり派手さは求めない。

それが俺のポリシーってもんだ。

シンプルで実用性のあるデザインと性能を求める。

国賓用として出迎える用の馬車などは内外装もかなり綺麗でゴージャスな仕上がりになるけど、あれ一台作るのに手作業で半年以上掛かるし、なによりもコストがすさまじく高いのよ。


そりゃあ、王室御用達の専用車両という扱いになるのでコストが高くなるのは致し方無いし、襲撃とかに備えて通常の馬車に比べて強度を高くして設計しているものだ。

安全面を考えれば、コストがかさんでしまうのはやむなしだ。

だけど外装が滅茶苦茶派手すぎるのは、ちょっとばかり頂けないというのが俺個人としての心境だ。


ルイ15世が使用していた馬車とか6万リーブルもしていたと、1761年度分の経費報告書に記されていたのを見て、口に含んでいた紅茶をぶちまけそうになった。

内装は赤いカラーリングで整えられており、車内の色とかも白色と金色が交わっているような派手過ぎて逆に胃が痛くなりそうだ。

この時代の庶民の平均的な年収の約150年分、現代の日本円の価値で換算すれば6億円相当を費やして完成した馬車の乗り心地は……。


最悪(クソ)


この二文字で事足りる。

足りてしまうのだ。

半年前にルイ15世が愛用していた馬車を使ってヴェルサイユ宮殿の敷地内をぐるっと一周するように走ってもらった事がある。

というのも、この時代では体の中に溜まっている病を外に出そうという名目の元で、馬車に振動装置を取り付けるのがブームになっていたんだ。


マッサージ機なんてないんだが、馬車の揺れ動く振動によってうつ病とか内蔵の病とかに効果がありますよ~という治療療法が流行していたようだ。

当時のフランス医学会もそれを認めているぐらいだし、何かと効果があるんじゃないかな?

ずーっと家に引きこもっているよりは、身体を動かしていたほうがいい。

実際に身体を動かす事はいい事だし、多少の健康改善にもつながるので、間違いではないのだけどこの振動ブームにあやかって18世紀中頃まではこうしたユニーク(Crazy)な馬車が多かったそうだ。


「すごい!この馬車すごく揺れますねぇ!」

「おおぅ。でもこれはちょいとばかり揺れ過ぎでは?」

「いえ、このぐらいの揺れがあると身体に良いそうですよ!」

「マジかアントワネット……あ、アカン……俺ちょっとヤバイわ……ぎょ、御者ぎょしゃさん、ちょっ、ちょっと止めてもらってもいいですか!」


でもね、これけっこう揺れがする上に長く乗っていると気持ち悪くなってしまうという割と致命的な欠陥を抱えているんだよね。

ラリー選手権でもやっているんじゃないかと疑うぐらいに揺れる。

アントワネットの発育が進んでいる大きな谷間も揺れる。

そのぐらい振動が酷くて俺は酔ってしまったのだ。


アントワネットはこんなズッコンバッコン揺れ動く馬車に乗ると、めちゃくちゃはしゃいで喜んでいたものの、隣に座っていた俺は具合が悪くなってしまい、途中で馬車を止めてもらって草むらで思いっきりリバースしてしまったのだ。

乗り物で酔って具合が悪くなり、そしてリバースしてしまったのは今回が初めてだった。

その後心配したアントワネットに介抱された上、この馬車は俺には合わないという事で車庫に飾っておく事にしたのだ。


(もうこの豪華絢爛で乗り心地最悪な馬車には乗らねぇ!絶対乗らねぇ!これなら軽トラで農道爆走したほうがマシだ!)


それ以来、馬車には振動を抑えるサスペンション機能を搭載した新造の馬車を作って貰ったんだ。

全国各地に馬車を作っている職人さんはいるけど、やはりこうした乗り物というのは振動を抑えるように作ったほうがいいんだ。

馬車なのに乗馬をしているぐらいに揺れてしまうのは、流石にやめようね!


新造した馬車は黒塗りベースの外装は優雅さを兼ね備えつつも、内装は赤い色彩にして外から見てもあからさまに派手さはないのにした。

だってすっごく目立つ馬車を走らせたら国民にバレるからね。

SNSが無くてもそうした噂の類は割とすぐに広がる。


おまけに、豪華絢爛で如何にもお金沢山掛けて作りましたよ~と金ぴか馬車で街中を走らせているのを庶民の目線から見たらどう思うだろうか?

そうした所に配慮しないといけないのよね。

外装の装飾とかは必要なもの以外は取り付けていない。

イギリス王室とかで使っているような馬車みたいな感じだけど、これは見た目に反してすごく乗り心地が良いように作ってもらったモデルでもあるわけだ。


「こうしてゆったりと馬車の中で過ごされるのも、何だか久しぶりですね」

「そうだねぇ……色々あったからねぇ……本当にありがとう、アントワネット。馬車の揺れは平気かい?」

「はい!以前の馬車と比べても乗り心地が良くなりましたの!揺れも以前のように大きくはないですし……この馬車は新しくお造りになったのですか?」

「いや、車輪に装置を新しく取り付けて振動を抑えるようにしたのさ……流石にがくがくと揺れ過ぎると具合が悪くなるからね……健康にはいいかもしれないけど、1時間に10分ぐらい休憩を取らないとお尻が痛くなるからね……」


乗馬しているより、いやーきついっす……。

振動が少ないサスペンション機能を搭載した馬車だけに、乗り心地はとてもいい。

まるでリムジンのような高級車でくつろいでいるような、そんな安定感のある感じだ。

座っていても振動が気にならないので以前使っていた馬車に比べても、この新造の馬車は良い出来だ。

外装から派手というものを無くす代わりに、内装では座り心地の良いクッションを椅子に取り付けてあるので座っていても振動は気にならないほど良くなっている。


以前アントワネットやランバル公妃と一緒にお忍びでパリに行った際に使用した馬車よりも格段に乗り心地は向上している。

揺れ動く馬車の中でも安心して過ごす事ができるのはいい事だ。

こうしたサスペンション機能を開発したのも、フランス科学アカデミーのメンバーが考案・開発したものを取り揃えているから行えるという事だ。

まさに、科学技術が発展して産み出した功績でもあるわけだ。

やったぜルイ16世!科学力が増えるよ!


「科学や工学といった分野も益々進歩しているからねぇ……こうして馬車の中でもゆったりできるのはいい事だね」

「そうですねぇ……振動が少ないので馬車の中で紅茶を飲んでもこぼれにくいのがいいですわね」

「うん、いずれ来賓用の馬車にも取り付けようと思う。国賓の方々をもてなす際に揺れが少ない馬車に乗っていたほうがいいかなって思ってね。あとは馬を使わない新しい乗り物の開発も進めないとね」

「それは……たしか自動車という乗り物の話ですか?」

「そうそう、この間ようやく試作車両が完成したみたいで、これもついでに科学アカデミーで披露するようだよ」


そう、これだけ振動が少ない馬車を用意できるのはかなり凄いことだと思う。

まだコンクリートで整備とかされていない時代の故、どうしても砂利道で走っている状態だ。

サスペンションを開発したフランス科学アカデミーのメンバーにも、今日訪れる際にお礼を言っておくべきだろう。

これで自動車とかも作ってほしいと思う瞬間もあるが、この時代で石油を発掘してそれを精製してガソリンに変えるのは無理だ。


精々出来るとしたら蒸気機関を応用した自動車ぐらいだろうか?

一応すでに自動車は今現在()()()()()()()()のよね。

そう、何気にフランスは世界で初めて自動車を開発した国でもあるわけよ。

フランス陸軍の技術士官に属しているジョゼフ・キュニョー大尉が、蒸気機関で動く三輪自動車「キュニョーの砲車」を完成させてルイ15世の前で走行する予定だったんだ。


けどルイ15世は赤い雨事件以来身体を崩してしまい、自動車の完成を待たずに崩御。

俺は蒸気機関を使用した自動車があるという話を知って、直ぐにジョゼフ・キュニョー大尉宛に手紙を送り、追加の製作資金とより安定し動かせる車両として改良するように命じてある。

史実ではこのキュニョーの砲車は運転手のミスでルイ15世が見守っている中で、レンガに激突するという世界初の自動車事故を起こした車両としても有名だ。


こんなにスゴイ発明家と自動車という発明品掘り出し物があるというのに、それに投資をしない理由などない。あのナポレオンですら【キュニョーに関する資料をもっと早く知っておけば良かった】と言っていたぐらいだ。

蒸気機関で作った自動車を開発・発展させていけば技術革新によって内燃機関の発明なども早くなるだろう。フランスの科学力を押し上げるためにもキュニョー大尉を国王であるこの俺が全面サポートするというわけだ。

勿論、そうした蒸気機関の副産物として機関車が作れるかどうか検討している所でもある。

そう、俺の本命は機関車だ。


19世紀の初めにはイギリスで蒸気機関車を使った鉄道が開通しているわけだし、この時代でも研究などを進めれば出来ない事はない。

それに鉄道をヨーロッパで一番早く作る事が出来るようになれば、今後の鉄道関連でフランスがトップに躍り出ることも不可能ではない。

軍事面からみても、軍用列車として兵員輸送を担うことが出来るし、装甲列車として野砲などを取り付けて運搬することも出来る。

多方面からみてもこの蒸気機関の開発は必須でもある。


「兵器としてではなく、人々に役立つ乗り物として活用できる日がくれば……いずれ自動車や蒸気機関を応用した乗り物が馬車に取って代わる物になるだろう。フランスとしてもキュニョー大尉の自動車開発を支援するべく、他の科学者も交えてサポートをしていくというわけだ」

「自動車……ですか、馬車よりも速く走れるのですか?」

「今はまだそこまで速度が出せるような乗り物じゃない。精々人間の早歩き程度の速度だ……けど、速度が出るようになれば、人々の生活は大いに変わるだろうね」


自動車や蒸気機関車が出来るようになれば人の輸送も大いに捗るようになる。

パリから国中に道路や鉄道を張り巡らすように建設すれば、食糧や医薬品などの高速運搬輸送が可能になり、駅を作れば駅前にお店などが出来上がるようになるだろう。

そうすれば新しい雇用が生まれるし、史実より早く蒸気機関車などの特許を申請しておけば後にフランスにとっても経済的・技術的にも優位性が保てる。


「フランス学士院……どんな感じになっているか見にいこう!」

「はい!」


と、こんな感じでパリに向かう馬車の中で技術についてアントワネットと語り合っていたわけだ。

今日は俺たち二人が訪問する。

ランバル公妃やルイーズ・マリー夫人も勉強がてら誘ってみようかと思ったのだが、今日は二人揃って今日から3日間ほど休みをとっていたんだ。

最近二人ともアントワネットの付き人状態だったからねぇ。


仕事のほうも楽になったわけだし、俺が休暇申請を許可したんだ。

休みを取る事は大事。

特に俺みたいに休み無しでフルパワーで働いてぶっ倒れてしまったら元も子もないからね。

アントワネットと一緒にいざ、フランスの技術力と科学力がどれほど発展したかを確かめるべく、フランス学士院へと馬車で向かっていったのだ。

次の更新日は15日の土曜日です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 脳がキュニョーをキョニューと読もうとする自分が憎い
[一言] >>キュニョーの砲車 2度見したのは俺だけではないはず
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