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125:躍進

☆ ☆ ☆


1771年12月19日


冬の寒さが体に染み渡る今日この頃。

ヴェルサイユ宮殿では暖炉に薪をガンガンぶち込んで暖を取っているのが日課になりつつあるのが、オーギュストことルイ16世だ。

サン=ドマングの反乱騒ぎがようやく終息に向かい、現地では混乱がようやく収まったとの報告を受け取っている。


「危うく植民地を失う所だった。いや、下手をすればそのまま史実フランス革命ルートに入るところだったな……マジで危なかった」


本当に年内に騒ぎが終息して良かったよ。

もし反乱がサン=ドマング全土に拡大していたらイギリスやスペインとの戦闘になっていた可能性があるからね。

最悪、植民地政策が失敗したと認識されて求心力が低下し、政治不安状態になってしまう恐れすらあった。

そうなっていたら、こうして暖炉で温まっている事すら惜しいことになっていただろう。

俺も植民地に対する認識が甘かったと言わざるを得ない。

こればっかりは猛烈に反省している。


奴隷制は現代の価値観では許せないものだ。

黒人奴隷の人々が船に敷き詰められて植民地に道具として送られて、その地で死ぬまで故郷の土を踏めずに亡くなった事を想うと、どうしても彼らを救ってやりたいと願った。

いや、今の自分ではせめて人道的観点からみて彼らを救えるんじゃないかと思った。

それでハウザー氏を含めた国土管理局で議論に議論を重ねて、将来のフランスの為だと言って奴隷廃止にこぎ着けたんだ。


……が、この時代の価値観としては奴隷(イコール)物という認識らしく、アフリカからやってきた黒人奴隷の人々は、あくまでも物であり農園の道具に等しい扱いのようだった。

つまり農園側からしてみれば奴隷というのは『人命』というよりも『労働力を担う財産の一部』という考え方が主流で、俺が大命を使って奴隷廃止に関する法案を制定したのは結果的に見れば英断かもしれない。

ところが当時の価値観の視点から見れば農園側の財産を没収している事に等しい行いをしているように見えたのだろう。


奴隷に関しては廃止する代わりに、農園側にも廃止を施行して2年間減税措置などを取らせるなど、公布人を仲介にして奴隷廃止に関する報道を説明したようだが、どうもここの部分をフォローする事に公布人が失敗したようだ。

よりにもよって一番やってはいけない部分で失敗してしまったんだ。

なんてことをしてくれたのでしょう(怒りながら)

……と報告書を受け取った際に凄くショックだったよ。


公布人の話を聞き取ったサン=ドマングの農園事業者のうち、奴隷制によって利益を生み出している北部のプランテーション農園は財産を没収される事と同じ意味だとして奴隷廃止に異議を唱えた上、上の連中を説得するようにとヴィクトル・へーデルナント男爵を中心とした奴隷制継続派の者たちがノリボス総督を始めとした植民地政府関係者を脅し、家族を人質にしたうえでフランス本土に奴隷廃止を撤回するように交渉に赴かせたというわけだ。


巡りに巡って話が大きくなって収集が付かなくなり……最終的にはサン=ドマングに滞在している国土管理局の職員と、緊急で現地に派遣したアンソニーとジャンヌ、そして史実では「黒いモーツァルト」の異名を持つ音楽家で、今年の7月に国土管理局のメンバーになったジョセフ・サン・ジョルジュ氏らが、この事件を【物理的手段】によって沈静化させることに成功した。

アンソニーとジャンヌはこれからも裏方仕事をするので公にすることはできないが、事件解決に動いてくれた国土管理局及び植民地政府内の奴隷廃止に賛成の立場を表明した者には賃金アップと特別褒賞金を出した上で長期休暇を取る事を許可している。


本当に大変な事態になってしまったからね。

公布人がミスを犯したのは事実だが、この奴隷廃止政策に最終的なサインをしたのは俺だからね。

現場で懸命に対応を行った彼らに対しては敬意を表さないといけない。

頑張った人にはちゃんと労いを行うべきだ。

あと、反乱軍として北部のプランテーション農園に襲撃を仕掛けていた人達も無事海軍への投降に応じてくれたのでひとまずサン=ドマングの火は消し止められた状態となっている。


これから随時サン=ドマングにおいて奴隷制継続派の裁判が始まるだろう。

まず最初に公布人への処分は処刑を含めて検討されたものの、本人がミスを認めて何度も泣いて自分のせいでサン=ドマングを危機をもたらしてしまったと嘆いていた事、さらに国土管理局でも人員の伝達にミスがあった事などを考慮して、公布人は国家にとって重大なミスを招いたとして5年の禁固刑となった。


次に奴隷制継続派を指導したヴィクトル・へーデルナント男爵やイギリス人商人のジェームズ・バーバリーの罪状について。サン=ドマングにて国王の大命に逆らい、かつ奴隷廃止が公布されたにも関わらず奴隷達を植民地政府の許可なく殺害し、植民地政府軍の兵士を農園側の私兵として雇い入れるなど武装蜂起とみなされる行いをしたとして男爵は死罪を免れないだろう。


ジェームズ・バーバリーに関しては、農園側、反乱軍側双方に武器を売りつけるなどイギリス特有の二枚舌な商売をしつつも、イギリス政府の介入が無かったかの取り調べを行うのと同時に、イギリスとの外交交渉の際に役立つという国土管理局の判断から現在身柄をパリに移して幽閉している状態だ。


ポリニャック伯爵夫人も農園側に一枚絡んでいたのだが、直接武器を渡していたわけじゃないし、あくまでも投資をしていたと男爵側と夫人側が話をしているので今回またもポリニャック伯爵夫人を訴える事は出来ないと判断した。

ホントこの人悪運強いなぁ!

流石ポリニャック伯爵夫人、略してサスポリと呼ぼうかな?(すごく失礼)


ジョセフ・サン・ジョルジュ氏に関しては、国土管理局の事を国民に伏せた上でサン=ドマングの危機を救った英雄として大々的に報じている。

ムラートとして、白人の父親と奴隷だった黒人の母親の間に生まれた彼は長い間差別される存在だった。

それが今ではサン=ドマングの危機を救ってくれた英雄としてフランスでも讃えられている存在だ。

勿論、海軍で武装蜂起した農園を鎮圧したピエール・アンドレ・ド・シュフラン提督ら派兵した兵士達にも勲章などを贈っている。


現地に先行して潜入調査をしていたアンソニーとジャンヌ曰く、海軍の派兵を待っていては農園側と反乱軍側との全面的な内戦への回避が間に合わないと判断して事前に与えられていた最終的なプランを実行に移したとのことだ。


内戦は回避されたがサン=ドマングの治安悪化やコーヒー、砂糖の供給が危ぶまれる事態が起こったことは事実である。

国王になった事で俺は少し浮かれていたのだろう。

一応史実のルイ16世も革命直前の1790年頃に奴隷廃止を宣言したりしていたんだが、ナポレオンが1810年ぐらいに奴隷制を”復活”させてしまった事例がある。

その事例を参考にして対策などを纏めた上で奴隷廃止にこぎ着けたはいいが、危うく頓挫しかかった。


ナポレオンがイギリスとの貿易戦争の影響を受けて奴隷制を復活させて以来、1850年頃まで奴隷貿易が継続されることになった歴史の経緯を鑑みて、今の時期からそうした価値観の脱却というのを少しずつしなければならないと思ったんだ。

思っていた以上にそうした価値観の溝というのは深く、重たい物であることを痛感した。


アントワネットに心配かけてしまったし、夫としてそれこそ情けないってネットが普及していたら叩かれそうな感じなので、罪滅ぼしにアントワネットの大好きなスイーツを作ったりと夫婦の時間も優先的に取っている。本当にごめん、アントワネット。本当に迷惑かけてごめん、みんな。

メンタル面もそろそろしっかりとやらないといけないよね。

最近は主治医の先生とかに精神面での相談とかを話している事もあるけど、悩みというのは誰かに相談したくなるものだ。


いくらブラック企業で業務能力とかを鍛え上げたとはいえ、そこまで俺は会社内での地位は高く無かった。

いざ自分がトップとしてやるという事の責任の重大さというのが、サン=ドマングの件でひしひしと伝わってくる。

こればかりはしっかりと務めないとね。


自分の思い通りに国を動かせるようになったぞ!

……と、意気込んでやってみた結果が内戦寸前の事態を率いてしまったので、今後はもっと多くの意見を取り入れた上で慎重に行動していこう。

そう、心に誓った。

少なくとも今現時点ではセーブポイントは無いハードコアモードだからな、ウン。


さて、暗い話はここまでにしてだ。

今日はフランスにとって明るい未来が待っている話をするとしよう。

ようやく……明るい話題に切り替える事ができるのは嬉しい。

研究資金を出資した甲斐があったぜ!

この後、俺が何処で何をする予定なのか知りたい人はいるかな?

今日はアントワネットと一緒にフランス王立科学アカデミーを訪れる予定なんだ。


あのフランス科学アカデミーですよ!アカデミー!

フランス革命前は王立科学アカデミーという名称で呼ばれており、当時のヨーロッパにおける最先端科学技術を集結させている場所でもあるんだ。

元々科学アカデミーの本拠地はフランス学士院という場所でセーヌ川沿いのコンティ通りに存在する。


この時代でも変わっていない(例外的に音楽アカデミーとかは別の場所にある)し、事実上フランスの科学力ないし研究成果などを報告・発表する場でもあるので国威発揚を示す場としても役立つ。

だがルイ14世が側近からの助言で設立したのはいいけど、戦争や宮殿内の贅沢な行事などによって研究資金が削られてしまうという憂いな目にあっていたんだ。


ちなみヴェルサイユ宮殿とかの建設費も借金をして作り上げたものなんだぜ!

さらに言ってしまうと、ルイ15世による統治下では債務不履行(デフォルト)を5回も起こしたせいで金融関係者がフランスに出資するのを躊躇ってしまう状態を作ってくれたんだよねぇ(ホント、これのせいで今だにイギリスやプロイセン王国出身の人から警戒されて出資があまりないんだよね)


で、そんな科学の最先端の場所に行けるんだから、俺はウキウキしている。

割とそうした最先端技術には興味ありますねぇ!

オルレアン家から没収した資金の大半を初期投資として科学アカデミーにつぎ込んだら予算が倍額以上になったのはいい思い出だな。

あと今までの倍以上に出資した関係で「農学」「医学」分野も発展が見込めるようになったのは大きい成果だ。


今現在多くの会員や研究員が在籍しており、改革派のメンバーもフランス科学アカデミーから選出された者も多い。

俺が転生する前にもフランス科学アカデミーというのは存在していたので、実に300年以上の歴史ある研究機関でもある。


(とはいえ、実はフランス科学アカデミーは一度、フランス革命の混乱時に廃止にされた事があるの内緒だぞ!)


フランス科学アカデミーに俺たち夫婦が揃って赴いたのは他でもない、イギリスから購入した蒸気機関の基礎研究が進んで、ワット氏が考案・開発した蒸気機関のメカニズムについて4月末までに数式的な解明が完了し、さらにフランス科学アカデミー会員で物理学・流体力学の専門家であるジャン・ル・ロン・ダランベール氏のチームが既存の蒸気機関の改良に成功したというニュースを聞いて、アカデミーの人達とアポイントメントをとって訪問をする事にしたんだ。

ヴェルサイユ宮殿でサン=ドマングの後処理で缶詰め状態になっていたからね。

リフレッシュがてら、こうした場所に赴くことも必要だ。


勿論、アントワネットも俺が科学のうんちく話をしているうちにそうした物にも興味があると言っていたし、何よりも科学アカデミーからの帰りにパリでも評判の高いお菓子のお店に立ち寄る事を約束しているのだ。

男たるもの女性の気持ちに寄り添わないといけないよね。


女性と一緒にいるときに男性がすべき事の第1位は、女性が好む甘いお菓子屋さんに連れていく事だと思っている。

と、同時に国王として……夫としての責務を果たすために今日一日を過ごす事になったのだ。

次回の更新は2月12日水曜日の午後6時です。

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― 新着の感想 ―
[一言] なろう系の青い主人公にありがちなミスで主人公が超人ではないの点がいいと思う。 まぁ、実のところ現代日本人の倫理観って現代カトリック系の教義に侵されている部分が多いのは事実。
[一言] とはいえこれで解決とは行かんでしょうな。 じゃなかったらここまで慌てませんし、 「最初からこれやれよ」になっちゃいますし… まあ、平和なことが一番ですが。
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