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11:人多き宮殿

少し寄り道はしたが、アントワネットが待っている場所まで歩いて向かおう。

それにしてもヴェルサイユ宮殿は広い。

こうして普通に歩いているだけで人が沢山いるんだよね。

んでもって相変わらず宮殿にやってきている人たちが俺を見るなり真っ先に挨拶を交わしてきている。


「おはようございます!王太子様!!!」

「ありがとう」

「おはようございます!王太子様!それとご結婚おめでとうございます!」

「ありがとう」


今、結婚おめでとうございますって言ってくれた人、普通の一般人だったぞ!!

というのも、ヴェルサイユ宮殿は浮浪者と修道女さん以外ならだれでも入れるように一般開放されているのだ。

王室とか色んな部屋を見ることができるみたい。

使用人がこの宮殿だけで4千人というちょっとした大企業の従業員ぐらいの人数がいるのだ。

相変わらず人数のリソースの割り振り方滅茶苦茶じゃないだろうか……。


元々ヴェルサイユ宮殿を開放的にしたのは言うまでもなくルイ14世だ。

「朕は国家なり」

という名言よろしく、王政による絶対主義を掲げた彼は宮殿を一般開放してヴェルサイユ宮殿で有名な噴水庭園とかを見せて王の権力を見せつけていたんだ。

要は国家とそれらを統治する偉大な王の庭を見せることで国力や海外の来賓客を持て成すというものだ。


「しかし今日は普段よりも沢山人がいるね……」

「ハッ、王太子様と王太子妃様のご結婚を聞いて喜んでおられるのでしょう」

「それもあるけど……ん?あれは……」


ヴェルサイユ宮殿を歩いていると、妙な二人組の存在が目に留まった。

それは貴族がよく身に着けているような服をしている男と、裕福そうな商人の男が貴婦人に声をかけていた。

それだけならごくありふれた光景なのだが、すこしだけ貴族の男が周囲を気にしていた様子が気になったのだ。


「何か妙だな……あの男……」

「と、おっしゃいますと?」

「妙に周囲を警戒している……あそこまでキョロキョロしているのはおかしい」


男はしきりに周囲を確認していた。

貴婦人は商人の男と楽しげに会話に夢中だ。

その時、男は貴婦人の目を盗んでバッグの中から鮮やかな手つきで物品を盗んだのだ!

時間にして僅か2秒と掛かっていない。

こいつ窃盗犯じゃねーか!

恐ろしく手慣れたやり口、俺でなきゃ見逃しちゃうなぁ。

思わず身体が疼いてしまう。


「この辺りにいる守衛は何処に?」

「はっ、すぐ向こうにいます」

「後ろにいる人か……君はすぐに守衛に報告してくれ……私があの男に声を掛けてみよう」

「えっ、ちょ、王太子様!!!」


別にこの場で現行犯逮捕しても構わんのだろう?

相変わらず商人の男の会話におもっきし乗せられた貴婦人は楽しそうに会話をしている。

その間に右ズボンのポケットの中に貴婦人の物品を盗んだ男がいる。

俺は男にそっと話しかけた。


「君、ちょっといいかな?」

「えっ、なんですか?」

「見間違えじゃなければいいのだが……君がこのご婦人のカバンから物品を盗んだように見えたのでね。ズボンの右ポケットの中身を出してもらえないだろうか?」

「……」


やんわりと万引きGメン風な言葉で男に問い詰めた。

直球一番でまさか窃盗の瞬間を目撃されていたとは思わなかったのだろうか。

男はすこしだけ左手を震わせている。

黙り込んでいるし男は10秒ほど沈黙していた。

……が、次の瞬間に男は貴婦人を俺目掛けて突き飛ばしてきた!


「邪魔だッ!!!」

「キャアアアァァァァッ!!!」


ゴッ!という音と主に貴婦人の姿勢が崩れる。

このままじゃ危ないと思った俺は咄嗟に貴婦人を受け止めた。

いきなり女性を突き飛ばすだなんて、危ないだろ卑怯者!!!

ほんと上手く受け止めて良かったよ。

女性はバランスこそ崩れたが、なんとか無事のようだ。


「……大丈夫ですか?」

「は、はい……」

「王太子様!!ご無事ですか?!」

「俺は大丈夫だ!!それよりもあの男を追ってくれ!!守衛!!守衛!!あの男を追って!!」

「はっ!!」


貴婦人を受け止める間に、男はそのまま走り去ろうとしている。

すぐに後ろにいた守衛が飛んできて男を取り押さえようとするが、男は素早く逃げ足だけは早いようだ。

靴がスポーツシューズでも履いているのかと疑うレベルで早いな。

短距離走の競技があれば優勝できるかもしれない走りだった。

守衛が全く追いつけていない……。


無理もない。

守衛の着ている服や装備品などを含めれば10キロ以上あるんだ。

全力で走っても身軽な男のほうが早いのだろう。

現代なら警備員がトランシーバーなどを持っているから連携できるけど、あの様子じゃあ無理っぽい。


んでもって俺がキャッチした貴婦人も俺が王太子だと知った途端にあたふたしていた。

さっき男に注意したのが王太子だと知ったのだろう。

どう返事を返せばいいのか戸惑っている様子であった。


「も、申し訳ございません……お、王太子様……」

「いや、気にすることは無い。近頃はあんな手癖が悪い連中がいるとはね……」


後から聞いた話だけど、一般開放されている故にスリなどをはじめとする窃盗団が日常的にヴェルサイユ宮殿に潜り込んでいるらしい。

大抵は貴族や使用人、運搬人などヴェルサイユ宮殿にいてもバレないような格好で堂々と入り、堂々と去っていくようだ。

いい加減警備を厳しくしないといけないな。

それと守衛も自分の決められた仕事以外は積極的に関与しようとしないから困っている。


これは守衛個人ではなく使用人にも言える事だけど、自分達の決められた仕事以外をすることは他人の仕事を奪うことなのでタブー視されているのだ。

なので規定以外の仕事は全くしないのだ。

そうした問題がこういった形で露呈してしまうのは悲しかった。


「守衛、そちらの御方が無事にヴェルサイユ宮殿を出れるようにエスコートしてください」

「かしこまりました」

「ありがとうございます!王太子様!」


貴婦人は何度も俺に頭を下げてからヴェルサイユ宮殿を去っていった。

守衛に彼女を無事に送り届けるように命じたけど、今後もこうした窃盗が絶えないようなら王太子権限でヴェルサイユ宮殿への立ち入り制限なんかもするべきだろう。

そんなこんなでアントワネットとの待ち合わせ場所であるアポロンの泉水にやってきたのであった。

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