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112:サン=ドマング

新章突入につき初投稿です。

大きく物語の舵をとります

☆ ☆ ☆


1771年9月14日


パカッ……。

ジュルルルルルルッ!!!

ズボボボボボッ!!!

ズボン!


……中々水の勢いが激しいな。

俺は至って平常だ。

ふざけて言葉を並べている訳じゃない。

音を文字で表すと大抵こんな感じになるだろう。

成年向けの同人誌の擬音語だと思った人間は末期かもしれない。


いやぁ、水洗式トイレの試作品を見ているんだが、やはり音が凄まじくうるさい。

ジャァー……という感じで流れていく静音性に優れたトイレが恋しいと感じる今日この頃だ。

食事中だったら済まない。


意外に思えるかもしれないが、国王専用のトイレは水洗式なんだよね。

金色のレバーみたいなのを引くと水が流れていく仕組みとなっており、現代で近いもので例えるなら……新幹線や特急列車に設置されているトイレみたいな感じだ。


穴みたいな部分がパカッと開いて水と共に流れていくというわけ。

でも国王の俺だけこんな立派なトイレを使っているのもちょっと勿体ないというわけで、ヴェルサイユ宮殿にこの時代では最新鋭ともいえる水洗式のトイレを2箇所、汲み取り式のボットン便所も6箇所ほど今日までに設置済みだ。


で、これは新しく設置された水洗式トイレを試しているというわけだ。

レバーを引くと、貯めてある水が便器の中を駆け巡っていき、ブツと共にそのまま流れていくという仕組みである。

現代のトイレより大きくて費用もボットン便所の数倍掛かるが、公衆衛生を改善する意味では是非とも普及させるべきものだ。


パリで上下水道の整備工事が進められているが、まだまだ工事には時間が掛かっているし、糞尿処理を担ってくれる国営回収処理業者だが、何と余りにも回収を依頼する家庭が多すぎて処理が追いつかないと報告があったのだ。


汚い話をしてしまって申し訳ないが、これは割と大きな問題だ。

ただでさえ、パリは悪臭の都と呼ばれるぐらいに壊滅的レベルで臭いが酷いし、糞尿をセーヌ川に垂れ流しの上に雨が降ると路面に蓄積した糞尿が水溜りに浮き出るほどに酷いのだ。

一度お忍びで雨の日のパリに行きましたが、汚水が路面を浮き出て流れていく様子が一度や二度だけではなかった。

そのぐらいに糞尿問題は手っ取り早く片づけたい。


パリ郊外の大きな場所を買い取って、発酵処理や焼却処理によって処分をしているのだが、そのペースが追いつかないとなれば早速糞尿買取制度が躓く予兆が出ているのだ。

なので、出来るだけ下水道を整備して濾過などを行える研究などが急務になっているというわけだ。


うーん、ちょっと下水道整備するのが早すぎたのかもしれない。

でもやるだけやっておかないといけない問題だけに、こうした問題にぶつかった時は一人で抱え込まずに周囲に相談や会議を行って解決すべきだろう。

だが、今そうした問題の優先度はまだ低い。

最も早急に解決しなければならない問題が浮上したのだ。


サン=ドマングという場所を知っているだろうか?

新橋駅で聞き取り調査をして100人に1人正解者が出ればいい方だ。

サン=ドマングは現代でいう所のハイチ共和国に属する場所であり、現在フランスの植民地でもあるのだ。

そのサン=ドマングから現地の総督やプランテーション農園を営んでいる経営者たちと会談する予定となっているのだ。


経営の話は勿論だが、本日をもってプランテーション農園の経営者にはブルボンの改革に賛同してもらう必要があるのだ。

理由は勿論、ブルボンの改革で農奴制を廃止した事に伴って、各フランス植民地にもこの改革を適応して黒人奴隷の廃止を求めているのだ。


『如何なる出身、身分、宗派であろうと、フランスに仕える国民は全てフランス人として扱い、農奴制の廃止に伴い黒人奴隷の運用を植民地でも通告と同時に廃止し、これらの身分階級の者を平民とする事を義務付ける』


この明文を国王権限で承認させて、事実上はフランスは植民地でも奴隷制を辞めましたよ~と国内外にアピールしたのだ。

改革はやる時は……キチンとやるべきだって事さ。

身分上は最低でも平民として平等に取り扱う事を決めたので、ユダヤ人でも黒人でもフランス領の国で生まれ育ったり、移住している人々は全てフランス人として登録し、奴隷制の元で許容されていた違法な体罰を含めた虐待や異宗教への迫害を禁止にしてやったぜ。


本国だけかと思ったか?

残念だが植民地でも同様に適用するぞ。

特にサン=ドマングは幾度か境遇に耐えかねた黒人奴隷による反乱が起こっている場所なんだ。

黒人奴隷を酷使して、逆らったり病気の連中を生き埋めにしたり首を吊るしたりするのが半ば合法的に行われているんだからね。

道理で反乱がしょっちゅう起きるわけだ。


だが、サン=ドマングの連中……主にフランス系の白人の多くが、この改革に待ったを掛けてきたんだよね。

何故か?

それはサン=ドマングが宗主国であるフランスの貴重な農産物の収入源でもあると同時に、黒人奴隷を常に雇い入れていないと経営が成り立たない状態だそうだ。


(まったく……植民地の連中に喝を入れないとだめだな。喝を入れて分かる人達だといいんだが……)


植民地の中でも砂糖やカカオ、コーヒーなどの嗜好品を輸出し、経済的にもフランスにとって重要な役割を担っている場所だ。

古い価値観のままやっていたらハイチで革命が勃発するだろう。

そうならないように、この場で彼らを説得しなければならない。

俺はヴェルサイユ宮殿で、総督とサン=ドマングで有数のプランテーション農園の経営者らと話し合う機会の場で待機しているのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 黒人解放はある意味諸刃の剣でしょうなあ。 ユダヤ人問題並にこの時代背景だと特に。 [気になる点] マルチ商法の胴元なんて何時の時代にも暗躍してますからなあ。 この時代から約50年ほど前には…
[一言] 下水処理かぁ… そういえば熱帯アフリカ原産だかの、多年性水生植物を使って下水処理するってやり方があったような? 検討してもいいかもですぬぅ
[一言] 黒人差別撤廃、これはトマ=アレクサンドル・デュマ将軍(『三銃士』の作者のデュマの父親)が部下になる前ふり? 人格と武勇に関してはこの時代TOPクラスの名将ですが黒人との混血のせいで悲惨な晩年…
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