108:黒蛇
600万PVを突破したので初投稿です。
◇ ◇ ◇
社交ダンスが一旦終わる。
やはりダンスはいい感じだ。
体育の授業に是非とも習っておきたかったな。
「ふぅ、やはりダンスはいいものだね」
「はい、オーギュスト様もダンスがお上手でした!」
「陛下、王妃様、宜しければ水をお飲みになりますか?」
「勿論だ、では早速一杯頂こうかな。アントワネットも飲むかい?」
「ええ、私も一杯貰いますわ」
軽く水を一杯、使用人からグラスで貰い受ける。
アントワネットと一緒にダンスをした後の水を飲み始める。
「ごく……ごく……」
「ぐび……ぐび……」
「ぷはぁっ!やはり踊った後の水が美味しいね!」
「ええ、このお水は美味しいですね!」
水といえど侮るなかれ。
下手な紅茶よりは遥かに旨い。
水のスッキリとした味わいを感じることが出来る。
ミネラル豊富な味わいが最高に良いな。
あぁ~喉が潤うんじゃ~。
「ん?あれは……ポリニャック伯爵夫人かな?」
水を飲み終えてから周囲の人と他愛もない雑談を始めようかと思ったが、先にポリニャック伯爵夫人とは挨拶をするべきかもしれない。
いくら好きな人ではなくても、表面上だけは良くしておこう。
例え、将来敵になるかもしれない相手だとしてもだ。
(こっちを狙っているように見えているな……鋭い目つき、相手を張りつかせて仕留めるような……まるでメドゥーサの眼光のようだ。取り巻きの中立派貴族も見てますねぇ……)
その目は魔眼のように鋭く、そして冷たいような感じがした。
中立派で発言力を持っているポリニャック伯爵夫人。
アデライード、オルレアン家などの宮殿内で幅を利かせていた勢力がいなくなった途端に、その穴埋めをするように取り巻きを急速に増やしていった采配……。
まるで未来を見据えているかのようだ。
行動力もすごいが、彼女の口車に乗せられて投資を行っている貴族連中も莫大な利益を上げているとのことだ。
上下水道整備やジャガイモなどの農作物普及の国営事業でもあるが、ここ一カ月弱ほどで中立派の貴族達が挙って民間への委託事業分への投資を行い、利益を上げているのだという。
国土管理局でも、そうした報告を受けて彼女を注視はしているが、金目的以外でどういった利権があるのか見当もつかない。
普通なら金儲けや地位の向上目的だと思うのだが、ポリニャック伯爵夫人の場合はそれ以外にも何か別の目的があるんじゃないだろうか?
これだけでは説明がつかない。
遠目でポリニャック伯爵夫人を確認する。
こちらをじっと見つめているのが分かる。
やはりこの冷たくて鋭いような感じはポリニャック伯爵夫人の目線だったのだろうか。
向こうも見ていることを悟ったのだろうか、少しずつだが近づいてきているではないか。
脳内で警戒警報のアラームが鳴り響く。
要注意人物接近中、直ちに迎撃態勢を取れ!
「濃い緑色のドレスに……紺色の刺繍が施されているな……」
「あら?オーギュスト様、あの方のドレスが気になりますの?」
「ああ……いいかいアントワネット、あの人はポリニャック伯爵夫人だ。色々と黒い噂が流れているんだよ……」
「そうなのですか?」
「うん、だから俺がポリニャック伯爵夫人と少々お話してその真意を確かめてみようと思うんだ」
ポリニャック伯爵夫人の経歴を調べれば分かる事だ。
偶然にもランバル公妃とは生年月日が同じ。
だが、同じ年で同じ月日で生まれていても、二人の性格はまるで正反対だ。
ランバル公妃が優しくて気品ある女性であるならば、ポリニャック伯爵夫人はおねだり上手で幾人もの人間を破産に追い込むように、甘く耽美な言葉で誘惑してくる女性だ。
理由としては生家や嫁いだポリニャック家が貴族ながらも裕福な家庭ではなかったことが挙げられる。
貧しさ……つまり、自分は貴族なのに惨めな想いをしているのにも関わらず、誰も見向きもしない事で彼女は怒ったのだろう。
アデライードなどの厄介な女性とは何度か接したことがあるが、このポリニャック伯爵夫人だけはとびっきりに警戒しなければならない。
アントワネットが彼女の口車に乗って莫大な国費を巻き上げる事に成功し、革命勃発時には王妃を見捨て即オーストリアに亡命したのだから……。
「それじゃあ、ちょっと俺はポリニャック伯爵夫人と話してくるよ」
「分かりました。お気を付けくださいませ」
注意するに越したことはない。
なにせ、ポリニャック伯爵夫人はフランス王室にとって破滅のフルコースメニューセットを用意されるようなものだからな。
警戒しながらも、中立派の動向を探るべく俺はポリニャック伯爵夫人と対話をすることを決断したのであった。