10:華麗なる王家の食事
今日から午後6時に投稿するようになりますので初投稿です
王家の食事というのは凄まじく豪華絢爛だ。
それはルイ14世の統治から変わっていない。
彼は厳格なルールとスケジュールを緻密に立てることが好きだった。
それに従って俺も行動しているわけなんだが……。
朝起きて服装を整えてからルイ15世と謁見した矢先に、彼から清々しい笑顔で食事に誘われたんだ。
「オーギュスト、今日は余と共に朝食を取るとしよう」
「は、はい!!!」
思わず二つ返事でOKを出してしまった。
普通彼が食事を誘うのは仲のいい大貴族とか大臣とかなんだけど、今日に限って祖父は俺との朝食をお望みらしい。
まぁ、最近あまり話をしていなかったからね。
でもまさか朝食を誘われるとはね……。
本音を言えばアントワネットと一緒に朝食を食べたかった。
とはいえ、国王の誘いでもあるので断るわけにもいかず、俺はそのままホイホイとルイ15世の居室で食事をすることになった。
朝食は宮廷の料理人が真心と丹精込めて作った一級品の料理ばかりだ。
ルイ15世は食通でもあったので一日料理を作るのに宮廷料理人150~200人態勢で作っているのだ。
彼にとって料理が愛妾とのベッドでの時間と同じぐらいに大切で好きなものだったようだ。
「国王陛下と王太子殿下のお食事でございます!!!!」
掛け声と共に朝食が国王陛下の居室に運び込まれた。
出された料理も三ツ星レストランで出されるような豪勢なものばかりだ。
肉とかも硬い部分は一切排除して柔らかく、噛み応えのある牛すじの煮込み料理を中心に振る舞われた。
温かいポタージュスープと早朝に採れたばかりの野菜を使ったサラダ。
キンキンに冷えた水をコップに注ぐ係の人もいる。
因みにこの係の人は他に仕事はない。
つまり、コップに水を注ぐ為だけに雇われているんだよネ!!!
これだけでも係の使用人さんには現代日本で例えるなら国家公務員(大抵は期間契約式ではあるがその間は国から少なくない給与を受け取る)扱いになるので本人達からしてみればそれなりに誇りを持った仕事をしているのだ。
これだけならまだいいんじゃないかって?
今食事をしている真っ最中なんだけどさ。
国王陛下にワインを注ぐ係、食器を揃える係、テーブルや椅子などを準備する係……。
全員それをする為だけに雇われる使用人さんたちだ。
つまり各自の役割分担がかなりきめ細かく割り振られているんだ。
その様子を眺めているとうっかりコップを床に落としてしまった。
「あっ、済まない……」
「大丈夫です王太子殿下、私達配膳係の者がすぐに手配いたします!少々お待ちください。」
「お待たせしました。コップでございます。お水を注いでください」
「はっ、お水でございます……」
だからコップを落としたら水をコップに注ぐ係の人じゃなくて食膳係の人が交換するし、とにかくその仕事をこなすためだけに雇われているんだよね。
だから割と激務だし神経をかなり使っているようだ。
特に食事の場合は朝早く、夜遅いから付きっきりの人たちの交代も頻繁に行われている。
この間も昼食食べていたら配膳係の人が口から泡吹いてぶっ倒れたからなぁ……。
ちょっとこの使用人制度は見直すべきなんだと思う。
偏りがあり過ぎるし、何よりも塵も積もれば山となる。
使用人が多ければ多いほど出費が増えるものだ。
ルイ15世もさすがに使用人多すぎなんじゃね?と思ったらしく、過去に一度人員整理を兼ねて改革をしようと試みたようだ。
だが、この使用人の多さは近世フランスを一大国家に引き上げたルイ14世からの伝統でもあったので中々改革に踏み切れずにとん挫してしまったようだ。
おまけに彼ら使用人もヴェルサイユ宮殿から程近い安宿や屋根と壁だけがあるようなバラック小屋のような場所で住んでいるのだ。
そんでもって家賃がクソ高いので給料からドンドン引かれてしまうのだとか……。
使用人問題は割とヴェルサイユにおいては闇が……深いッ!!!
さて、こんな調子で国王になった際にどうしていこうか考えながら朝からガッツリ肉料理を食べたわけだが割と調子は良好だ。
周りから「おかわりはよろしいのですか王太子様?」と聞かれる事が多い。
ルイ16世は大食いだったみたいなので、その名残のようだ。
転生前は小食だったので、あまりご飯は多くはいらないんだよね。
王室ということもあってか食べ残した料理は後で使用人たちが美味しくいただいているのでその点は大丈夫そうかな。
なんか食べ残しの料理とか普通に転売されているほどだしね……。
朝食を食べ終えて食休みをしていると、ルイ15世は優しい口調で尋ねてきた。
「オーギュスト、アントワネットとはうまくいったか?」
「関係は良好です。彼女は私の事を信用してくれました。ある程度は緊張も和らいでいると思います」
「そうか、それは何よりだ。女性と最初に付き合う時は誰でも緊張するからな……余もそうじゃった」
「ほぅ……その時の話を詳しく聞かせてもらってもいいですかな?」
「いいとも、あれは今から数十年前……ちょうど余が15の時の出来事だ……」
祖父は思い出したかのようににっこりと笑いながら昔話を絡めて会話をしている。
俺とアントワネットとの関係を気にしていたらしい。
上手く関係を結べたことに喜んでいるらしく、ルイ15世は上機嫌だった。
女性との会話のコツはこうだとか、女性と親密になった時はこうすればいいとか、女性とベッドで共にする時に必要なテクニックはアレとか……何処でナニをすればいいとか……。
ほぼ後半が下ネタのオンパレードだった。
TV番組がこの場にあったら間違いなく規制音だらけになる内容だ。
ここでその話を披露したら間違いなく謎の力によって検閲対象になってしまう恐れがあるので自重するが、流石最愛王と呼ばれた人だけあってか夜のテクニックに関する話は参考になった。
「ははは、とにかくオーギュストとアントワネットが上手くいくように余も可能な限り相談に乗るぞ?何かあれば遠慮なく申し出よ」
「ありがとうございます、国王陛下」
「ふふふ、さて……せっかくだからコーヒーでも飲むかの?オーギュスト、コーヒーはいるかい?」
「ええ、でしたら一杯貰いましょう」
ここで祖父の意外なスキルを目撃した。
祖父がコーヒー豆を砕いてフツーにコーヒーを淹れていたのだ!!!
しかも周りの使用人は国王が自分自身でコーヒーを淹れるのを邪魔せずにジッと見つめている。
コーヒーを淹れるのはどうもルイ15世のささやかな楽しみの一つのようだ。
いやー、転生する前まではルイ15世が料理好きだったとは思ってもみなかった。
というかルイ15世の場合はその度合いと気合いの入り方が凄まじい。
自室に料理用のオーブンを用意しているほど。
滅茶苦茶気合い入れすぎぃ!!!
意外なことにルイ15世は料理を作ったり味わったりする事が大好きだったのだ。
クッキング国王!!!
おまけに手先が器用だったので、フォークの背で半熟卵の先端部分を綺麗に剥がしているんだよね。
クィッ!ポトッ……。
という感じで、その器用さを駆使して女性との関係もテクニシャンだったようだ。
うーむ、ちょっとだけルイ15世の事を見直しつつもこの後の事を考えながら食後のコーヒーを味わったのであった。
因みにコーヒーは絶妙な淹れ加減だったので美味しかった。
参考資料:ヴェルサイユ宮殿影の主役たち 世界一華麗な王宮を支えた人々
出版社:河出書房新社
著者:ジャック・ルヴロン
訳者:ダコスタ吉村花子
2019年4月30日 初版発行