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106:ステレオサウンド

「おお……王妃様だ!」

「お美しい……!」

「王妃様……!」


アントワネットが登場すると、辺りがグッと引き締まるような歓声を持って迎えられている。

今日のアントワネットはとびっきりの美人だ。

なにせ、宮廷服のドレスとはいえだ……すごくスタイリッシュな感じでやって来たんだ。

あまりファッションには詳しくない俺でもこれにはキュンと来たね。


ロココ調ベースのドレスだが、可愛らしさと美しさを感じる。

白地ベースで青色の刺繍を施した優雅さと気品を持ち合わせたドレスだ。

アントワネットの後ろにいるランバル公妃は水色のドレスを、ルイーズ・マリー夫人は薄いピンク色のドレスだ。

一応ドレス服ではあるが、これでも案外動きやすい服装だったりもする。


一応この場は社交ダンス会でもあるからね。

ダンスし易いようにドレスのスカート部分は補強をされているようだ。

ヴェルチュガードと呼ばれている傘のような原理でスカートを大きく、そして広げるように見せるそうだ。

スペインで流行し、その材料には耐久性に優れている鯨の骨が使用されているのだそうだ。

反捕鯨団体が知ったら衣装ぶち壊しに来そうだぜ。


最も、男である俺が女性のスカートの中を覗いて確認しようものなら大バッシングものなので色々と突っ込めないがね。

スカートの中身は秘密のままのほうが幸せだってこともある。

なのでこれ以上はツッコミはしないゾ。

でもやはりこうして化粧をして、素敵なドレスを身に纏った女性が俺の奥さんだと思うと……やはり化粧と服で女性は良い意味で化けるものだ。


今のアントワネットには子供っぽいところは見られない。

そればかりか、むしろ大人っぽい色気すら感じる。

俺の所に一歩、また一歩と近づいてきているが、やはりその綺麗な姿に圧巻されているのか人々が固唾を飲んでいる。

そしてアントワネットは俺の前に来て、深くお辞儀をした。

これも社交辞令の一つでもある。


「国王陛下、只今参りました」

「おお、アントワネットよ。今日の衣装はとっても似合っているね」

「はい、ありがとうございます」

「まだダンスの時間ではないが……どうする?ぐるっとアポロンの泉水でも回っていくか?」

「ええ、是非ともお供致しましょう」


俺とアントワネットが隣同士になって、ぐるーっとアポロンの泉水あたりまで歩いていった。

なぜアポロンの泉水まで歩くのか?

それは、人が多いのでアポロンの泉水に集まっている人達にも、俺たちの姿を見せつけるという事も威信を示す為に必要なことだ。


正直に言えば、こうした大勢の人達に取り囲まれているような状況よりは、アントワネットと二人で水入らずの感じで過ごしたいのよね。

普段の休日の如く、試験農場でジャガイモ掘りをしたりとか読書をしたりとか、そんな静かな時を過ごしたいと思っても、やはりこうしたイベントでは大勢の人達と共に行動するのが鉄則だ。


「どう?大丈夫そうかい?」

「ええ、このドレスは動きやすいですの!履き心地も良いですし、文句のつけようがございませんわ」

「それは良かった……それにしても今日は賑わっているね~」

「ええ、オーギュスト様のお誕生日ですもの。皆様楽しんでいらっしゃいますわ」


俺とアントワネットが歩くだけで拍手が巻き起こるし、俺の進路上に立っている人々が直ぐに察してサーッと道を開けてくれるんだ。

その多くが貴族だが、平民階級の人達もやって来ているのがポイントかな。

以前の体制のままなら、こうした誕生日会というのに平民階級の人達がやってくることなんてまずなかったはずだ。


俺が誕生日会の招待状を各地にばら撒いたお陰でヴェルサイユ宮殿に来場した来客のうち300人ぐらいは平民階級出身者だ。

ちょうど今、俺の斜め向かい側にいる工兵学校の生徒たちもそうだ。

工兵学校というのは、現代日本で例えるなら陸上自衛隊高等工科学校に近いだろう。

士官などを育成し軍事カリキュラムを学ぶ軍専門学校とも言うべき存在だ。


将来、フランスの国防を担う軍人としての心構えだけではなく、工兵学校という性質上計算などが非常に重要なだけに、勉学ができる生徒でないと入れない学校なのだ。

国立学校のエリートが入れる学校の一つでもある。

そうしたこともあり、この学校に入学できるのは運動だけでなく勉学ができる人達でもあるわけだ。

引率教員として貴族であり、数学者としても名をフランス科学アカデミーでも時折耳にしているガスパール・モンジュ氏と面会したのだ。


「こんにちは、貴方がガスパール・モンジュ氏ですか?」

「はい!国王陛下……!この度は招待ありがとうございます。私だけでなく学校の生徒たちまで招待状を送ってくださるとは」

「いえ、本当は学校の生徒さん全員に送りたかったのですが……こうした人が沢山いるときは迷ってしまう者がいると思いましてね。またの機会に皆さんを招待しますよ」

「これはこれは!本当に陛下のご配慮に感服致しました……ほら、陛下にご挨拶をしなさい」

「「「ありがとうございます!国王陛下!」」」


ガスパール・モンジュ氏が生徒たちに俺に挨拶をするように促した。

生徒たちは一斉に姿勢を整えて頭を下げてお礼を述べてくれた。

やはり軍事学校ということもあってか、そうした規律が整っているように感じた。

生徒たちとも一人一人握手を交わす。


こうした取り組みがやがては実を結ぶと信じている。

ダンスの時間まで残りまであと15分だ。

いよいよダンスのお披露目の時間がやってくる。

俺とアントワネットが久しぶりに一緒になって踊る時が来たようだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] このころの欧米各国はまだまだ明かりの油のためにクジラを殺しまくり肉は腐らせてた頃のはずですな。 日本はちゃんと全身余すことなく食べたり、様々な用途に使っていたのですが。
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