1076:太陽
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1796年6月10日
今日はランバル公妃と久しぶりにお会いする事になりました。
再婚を為さってから、しばらくぶりです。
彼女を誘ったのも、育児に専念しており休息が必要だと考えたからです。
ヴェルサイユ宮殿に招くと、随分と大人びた表情になっており、爽やかな笑顔で挨拶を交わしました。
「アントワネット様、お久しぶりでございます」
「そうね……最近はそっちのほうで大変だったと聞いているわ」
「ええ、子供が生まれてしばらくは付きっきりで育児の方に専念していたんです。愛する夫もよく世話をして下さっておりますし、二人三脚で子供の面倒を見ていますの」
「それは素晴らしいことだわ。でも、双子の面倒を見るのは大変じゃないかしら?」
「ええ。でも育児が楽しいのですよ。乳母さんも面倒を見てくださっておりますし、何よりも子供の成長を間近で見ることが出来るので、この瞬間が大好きですわ」
ランバル公妃はユダヤ系の実業家の方と再婚なさいました。
元々結婚を為さっておりましたが、不運なことにも最初に結婚した相手の人は家の事などお構いなしに遊び歩く方で、女性との関係も派手な方でした。
家の事を考えず、夜には様々な女性と一夜を過ごす……そんな生活が祟り、僅か20歳という若さで性病が原因で落命してからはずっとランバル公妃が家の面倒をみていたのです。
ランバル公妃が再婚を果たす際に、オーギュスト様は再婚者が貴賤結婚などを理由に身分を降格させるのは、遺産相続等で資金を移す恐れがあったり、再婚者に重大犯罪歴の有無や学歴や職歴の詐称等の重大事案等がない限りは、原則として貴族の未亡人の女性が再婚相手に平民と結婚をしても貴賤結婚に基づいて降格処分としないように法律を改正し、結婚を容認する方針を決定して施行いたしました。
結果として、今現在ランバル公妃は夫人として活躍しており、改革派においても育児が一息ついてから本格的に復帰を果たす事を目標としているそうです。
「陛下のお陰で、私のような未亡人であっても結婚が出来るようになった事……本当にうれしく存じます」
「そうね……オーギュスト様が尽力してくれた事もそうだけど、貴女が第二の人生を歩めるようにパンティエーヴル公が支援して下さったのも大きいですわね」
「はい、お義父様にも御子息の誕生の報告をした際にはとても喜んでおられました。孫が出来て嬉しいと……名前に関してもお義父様から命名した名前を付けさせてもらっております」
パンティエーヴル公は、初孫が出来て喜んでいたようです。
……すでに息子であるアレクサンドル氏は亡くなってしまっており、実質的にパンティエーヴル公と、現在のランバル公妃の新しい旦那様との間に産まれた子供とは血の繋がりは実質的にはないかもしれません。
しかし、すでにランバル公妃はパンティエーヴル公とは本当の親子のように接しており、心で繋がっている家族であると考えております。
故に、王族の直接的な血がつながっていなくても、ランバル公妃の息子であり、孫として愛しく可愛がっているという報告は私にとっても関係が良好であるという事を再確認することが出来て、嬉しい限りです。
そしてランバル公妃の前例を倣い、各地で身分の差で結婚が出来なかった男女が結ばれる事が多くなりました。
本来であればこれは大々的に喜ぶべきことなのですが、全てが自由恋愛に基づいて行われたものではないのです。
というのも、今のところはまだまだロマンよりも実利で成果を出している成功者の方々が結婚をするケースが多いようです。
貴族出身者の中からは経済界で名だたる財力を有している銀行の頭取と結婚をしたり、国際貿易事業で成功を納めている平民出身の方との政略結婚として用いられることがあるそうです。
当初予定していた身分関係での格差是正という意味合いではなく、権力基盤を固めるための縁故や政略結婚目的で使われることにはあまりいい気分にはなりませんが、男爵や子爵などの比較的貴族社会の中でも地位が低い階級に割り当てられている方々が、経済力のある富裕層に属している市民との結婚が巷では流行となっているらしく、主に自分達の権力や名声を高める目的で使用されているとのことです。
「ランバル公妃は相思相愛の方と結ばれたからいいけど……今では政略結婚目当てに、貴族の方々が富裕層の平民と結婚することが多くなっているとパリ経済新聞社が指摘しておりましたわ。経済力のある方との結婚は私としては反対はしませんが、貴族の地位や権力欲しさに近づいてくるという可能性も捨てきれませんわ……」
「そうですね……以前のように貴族の特権として税金が免除されていたり、重大犯罪以外は御咎めなしのような状態であれば不平不満も高まりますが、陛下は貴族階級であっても税金を徴収している上に、これまで暗黙の了解として赦されていた犯罪であっても、裁判を行って場合によっては逮捕するようになったこともあり、貴族にも責任が大きくのしかかっている状態でもあります。故に、縁故目的や政略結婚であったとしても、結果として彼らが貴族としての地位を手に入れても税金などはしっかりと徴収する仕組みになっておりますわ。なので、陛下は抜かりなくやっておりますのよ」
「……そうなのですか?」
「むしろ、下級貴族に位置している人の多くは貴族とは名ばかりの生活を送っている方も少なくありません。改革派に参加している貴族の中でも、経済界との繋がりを深くするために貴賤結婚を躊躇していた人もいますし、そういった貴賤結婚の制約を撤廃したことで、より多くの貴族が自分達の家の将来を安定的に過ごせるようにしているのです」
政略結婚目的であったとしても、実質的に下級貴族の人達の救済に繋がっているとランバル公妃はおっしゃいました。曰く、家の為に富裕層の平民との間で結婚をする人の多くが自主的に結婚を志願しているケースが多く、パリではそういった方々のために専門の結婚コンサルティングの方々が活躍しているとのことです。
ランバル公妃も、そういった結婚に関しては自発的に結婚相手を探している場合は、本人の意思を尊重すべきであるという考え方であり、結婚を推し進めていくのに賛成するとのことです。
……考えてみれば、私のお母さまとお父様が自由恋愛に基づいて結婚をしたのも、本人のことを鑑みればかなり自由であったのではないでしょうか?
王族に至っては自由恋愛は許されておりませんし、基本的には他国や自国内の有力者との繋がりを重視する政略結婚であることが多いのです。
私はオーギュスト様がしっかりとしている方だったのでこうして幸せに暮らすことができておりますが……世の中には夫が妻に対して無関心であったり、他の女性に現を抜かしたりしている事例もあります。
ランバル公妃も、そういった経験をしていることから、女性自らが有力者と結婚をするようにしているのも、ある意味では自由恋愛ないし自らの意思で結婚相手を探していることに含まれるのかもしれません。
紅茶を二人で飲みながら、今後についてゆっくりと語り合うことにしましょう……。




