1072:庭園
北米複合産業共同体との戦いを左右するのはノーフォークまでの都市を確保する道のりであり、このノーフォークの造船所で建造されている蒸気帆船に関して、フランス海軍の私掠船と沿岸部で戦闘を行ったという情報が舞い込んできたのである。
「ノーフォーク近海を哨戒していた私掠船「バトー105号」が、メキシコ沖で索敵した際に交蒸気帆船と思われる北米複合産業共同体所属の艦艇と交戦したとのことです」
「蒸気帆船か……しかし、ノーフォークの沖合はまだ制海権は取れていないのだろう?」
「現場海域においては制海権は欧州協定機構軍がある程度有しておりますが、小舟などを含めれば北米複合産業共同体側に優位となっているため、ノーフォークへの総攻撃が開始されるまでは港湾近くまでの偵察と、沿岸部に設置されている要塞からの野戦砲の射程外からの調査を任務にしています。そのうちの一隻であったバトー105号が哨戒任務中に小型蒸気帆船と索敵し、交戦……こちら側の損失は船長を含めて乗組員36名が死亡、同私掠船に同乗していた水兵7名が甲板に備え付けられていた蒸気空気銃で応戦し、相手に一定程度の損害を与えるも、被害の甚大さを鑑みて海域を離脱して最寄りの港に寄港しております」
被害甚大……。
聞いた限りでは、私掠船といっても比較的大型の帆船だったようだ。
その大型帆船が小型の蒸気帆船からの攻撃によって船長を含めて36名死亡という事態に陥ったそうだ。
同乗していた水兵たちの決死の反撃によって相手が離脱したことで結果として離脱することが出来たようだ。
一体なにが起こったというのだろうか?
普通の海戦というよりも、一方的な攻撃を受けたようにしか聞こえない。
話を深堀して聞いてみたが、思っていたよりも北米複合産業共同体側が新兵器を投入してきたらしいという情報が分かったのである。
「……こちら側の損害が大きいな、私掠船とはいえ……大型の帆船なのだろう?」
「仰る通りです。こちら側の私掠船であるバトー105号は全長33メートルの排水量280トンに及ぶ船です。対する蒸気帆船に関しては推定値で全長10メートル程度であり、前方に連装した二門の砲を保有していたそうですが、これらの砲には一斉射撃が可能であった為、火力ではマイソールロケット砲や蒸気空気銃を保有していた我々のほうが上でしたが、一斉射撃可能な銃火器による集中砲撃を受けて、左舷に大きな損傷が発生しました。一度射撃を終えると当面は再度の射撃が困難のためか、攻撃はそれ以降なかったそうです……」
「一撃必殺の武器というわけか……状況からしてマスケット銃の弾を散弾状にして発射できるように改造した銃火器を搭載していたんだろうね……今現在我が国でも開発中の武器と構想が似ているな……」
「はい、恐らく集中攻撃を主目的にした大型散弾砲を内蔵した兵器を実用化したのではないかと推測されます。蒸気機関を内蔵して、大型の弾を発射できるように改造した可能性が非常に高いです。それも、木造船であれば大部分を破壊できる威力があるため、操舵をする場所を除いてバトー105号は広範囲に損傷を受けた形跡が見られます。我が軍の主力艦であるシャルルマーニュ級も、鉄板等で補強をしているとはいえ大部分が木造であるため、この新兵器の攻撃を受けた場合、その損害は多大なものであると進言致します」
私掠船バトー105号を襲った悲劇は、フランス海軍に少なからぬ衝撃を与えたようだ。
戦闘を行ったのは漁船を徴収したものであり、この船の船長は過去にもカリブ海戦争の際に従軍していたマークスという人物であったようだ。
少なくとも、今回無鉄砲に突っ込んでやられたわけではなく、軍人としての経験を踏まえた上で交戦しても問題ないと判断して戦闘を行った際に、左舷側が被弾し、船長も含めて私掠船の搭乗員のうち3分の1が死亡するという惨事だったそうだ。
この事態を鑑みても、北米複合産業共同体側が心血を注いで蒸気帆船を導入している理由が分かった気がする。シャルルマーニュ級フリゲート艦は主に対地攻撃用としての重マイソールロケット砲を搭載しており、長距離からの海上砲撃戦を行うことが可能である。
そして、近接戦闘においてもプロイセン王国との戦いで鹵獲した蒸気空気銃をはじめとした連射性武器を配備しており、この時代における戦闘艦同士での戦いが起こっても重マイソールロケット砲の火力で敵艦を圧倒しつつ、近接戦闘になれば蒸気空気銃による連射攻撃で相手にダメージを与えるつもりでいた。
(しかし、こちらが武装面で優位に立っていると考えていたら、相手も新兵器を出してきて予想外の反撃を講じてきたというわけか……左舷が半壊し、左舷側で指揮をしていた船長のマークスを含めて乗組員の3分の1が犠牲になる被害を生じたというわけだな……)
シャルルマーニュ級より一回り小さい私掠船とはいえ、武装していたにもかかわらず左舷に回り込まれて一斉砲撃を受けて半壊した事を考えると……ノーフォークには海上艦に搭載する新兵器を既に搬入しており、今後ノーフォークでの戦いが発生した場合は、この兵器が陸上用に換装された状態で我々フランス軍を迎え撃つ準備をしているという事にもつながるのだ。
半壊させるほどの威力という事は、鉄板等で補強をしていない木造船であればこの新兵器の直撃を受けた場合にはタダでは済まないだろう。
特に、ノーフォークの造船所で製造されているとされる蒸気帆船の数が揃って出撃した場合、彼らは沖合や沿岸部に出現して艦隊編成を組んで艦隊決戦に持ち込んで近接戦闘を仕掛けてくるだろう。
今回の戦闘においては蒸気帆船側の武装を過小評価していた私掠船側が損害を被ったことを踏まえて、近接戦闘において絶大な威力を誇る大型散弾砲を搭載しているとなれば、戦列艦クラスの大型艦に多くこの散弾砲を搭載したものが出現すれば、一斉砲撃に伴い欧州協定機構軍の海軍戦力に対して多大な打撃を与えることが可能という事にも繋がるのだ。
「今回の件は極めて由々しき問題ではあるな……私掠船に関しては単独行動はせずに2~3隻で哨戒任務を当たるように伝えるべきだろう」
「すでに海軍の各艦隊部隊や私掠船に同様の命令を出しております。私掠船に関してもすでに我々の制海権となっているカリブ海やメキシコ沖を除く北米複合産業共同体支配地域の沿岸部に接近する際には複数隻で同行するように方針を決定致しました」
「それでいい……しかしながら……ここにきて北米複合産業共同体の切り札というべき新兵器が出てきたというわけだな……」
「メキシコ方面の艦隊は配備が間に合わなかったのかもしれませんが、ノーフォークやニューヨークの造船所で建造されている蒸気帆船には同様の兵器が搭載されていると見なしたほうがいいでしょう」
北米複合産業共同体も海上で挽回しようとしているようだ。
いずれ、艦隊決戦をする際にはフランス海軍を主軸にしたヨーロッパ諸国の海軍艦艇との連携を密接にしなければならないようだ……。
今回の事案を他の諸国にも伝えた上で、ノーフォークへの陸と海からの攻撃を敢行する際には慎重にやるべきだろう……。




