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1070:確認事項

☆ ☆ ☆


1797年6月6日


フランス ヴェルサイユ宮殿


ヴェルサイユにて、近況のフランス軍に関する報告を受けている。

軍高官らが出席する会議の場では、1週間以上前の情報ではあるが、この時代においては最短手段で到達した情報によって構成されている。

北米複合産業共同体への総攻撃が欧州協定機構軍によって開始されているが、サウスカロライナ州への軍事侵攻を開始している。


この州は元々アフリカ奴隷を連れてきて、彼らを綿花栽培の農業従事者として使役することで発展した地域だ。主な綿花を生産しているだけあってか、この地域における黒人の割合も多く10万人以上いると推定されている。

サウスカロライナ州の主要産業が綿花ではあるが、同時に南北を繋ぐ重要な州でもあるため、この州には軍事拠点も複数あることからフランス軍を主軸とした欧州協定機構軍が北米複合産業共同体との大規模な要塞攻略戦を実施しているとのことだ。


「サウスカロライナ州の複数の拠点に対する攻撃を開始しております。特に、州都であるコロンビア市に対する攻撃も開始するとのことです」

「コロンビア市における戦闘状況はまだ入ってきていないのか?」

「はっ……コロンビア市に関する情報ですが、一週間前まではマイソールロケット砲の射程圏内の距離まで接近することが出来たとする報告が挙がってきております。ナポレオンが率いている第三軍指揮の下で砲撃戦闘を開始し、コロンビア市付近にある北米複合産業共同体の軍事拠点を砲撃するとのことです」


コロンビア市はサウスカロライナ州の州都であり、重要拠点である。

アメリカの北部と南部の中間地点ということもあり、この地域は南北戦争の時にも重要な要塞が建てられていたことでも知られている。

サウスカロライナのコロンビア市近郊まで到達できたという事は、それだけ欧州協定機構軍も中間地点まで進んで進軍が出来たという証でもある。


現在の戦況は南部の主要な州を完全制圧し、メキシコに至っても北米複合産業共同体との支配地域の大部分を取り返した。

いくつかの部隊は投降をしており、徹底抗戦をしている部隊に至ってはインディアンからの追撃を受けているという情報もある。

メキシコ方面の戦況は決したといっても過言ではないが、まだまだ戦争はこれからだ。

特に、ニューヨークを攻略しない限り、戦争は終わることはないのだ。


北米複合産業共同体の首都であるニューヨークには、大多数の工場群が存在しており、蒸気機関で作り上げられた兵器群なども点在していると聞いている。

それに加えて、コロンビア市では市民に対して10歳以上の男女に対して武器を手にとって戦うように命令が発せられたという情報も入ってきているのだ。


「コロンビア市では民兵集団の存在が確認されており、この民兵集団は10歳以上の男女が対象となって基礎訓練を受けて最前線に投入されているとのことです。コロンビア市にある市議会を中心に幾つもの防衛線が構築されており、これらの防衛には少年少女の武装兵が多数動員されているとのことです」

「少年兵か……やはり扱いやすいという点で重宝されているのか?」

「ロンドン革命政府軍やベルリンの戦いなどを参考にしていると言われています。少年兵の利点としては大人よりも身体を遮蔽物に隠れて奇襲攻撃を行う上で扱いやすいとされているからです。ナポレオン関しては、これらの少年兵による奇襲攻撃に最大限気を付けつつ、市民への犠牲を最小限にとどめるようにマイソールロケットによる飽和攻撃に対しては制限を設けております」


10歳以上の男女が対象となっている少年兵……。

実際に、この少年兵による奇襲攻撃というのは効果的でもあり、武器に関しても斧や鎌といった農業用器具を用いて使用されることが多い。

誰にでも手に取れる武器を使ってまだ成人にすらなっていない少年少女が襲い掛かってくる。

その光景はロンドン革命政府軍やベルリンの戦い、果ては救世ロシア神国で執り行われてきたものであり、一定の成果を挙げてしまった事で質の悪いことに採用をしてしまっているという。


(少年少女を兵士として投入するのはどうかと思うが……この時代では15歳になれば大人という認識が強いからなぁ……現代では18歳未満で軍属になることは法的にはアウトではあるが、この時代では14歳以上であれば兵士に志願することが許されているからなぁ……これに加えて、14歳未満でも切羽詰まった状況では採用する事もあるからな……)


少年少女を武器として投入することも腹立たしい事ではあるが、北米複合産業共同体では重要都市などに徹底抗戦を行うように呼びかけており、民兵集団を組織して一般市民も巻き込んだ戦闘を重視している節すらある。

恐らく、ニューヨークでの防衛体制が整うまで死守命令を出しているのだろう。

今のヨーロッパ諸国よりも厳格な身分社会となっている北米複合産業共同体では、一等市民のために他の市民が働いている状況であり、さらに言えばそうした状況下の中でも黒人労働者を含めた有色人種の扱いはかなり悲惨だ。


「コロンビア市の民兵集団も気になる所だが……黒人の奴隷は確か奴隷制から解放こそされたものの、三等市民としての扱いを受けているのではなかったかな?」

「仰る通りです。北米複合産業共同体にいる多くの黒人労働者に関しては三等市民という扱いであり、政治犯や犯罪者として降格された白人と同類という扱いを受けております。制圧したニューオーリンズにおいては、白人労働者階級の不満の捌け口として黒人労働者に対して重労働を強制したり、時には脱走した黒人労働者を狩りと称して集団で襲い掛かる事案を”娯楽”として楽しんでいたとする資料もございます」

「……恐らくだが、黒人労働者に対しても戦闘動員が発令されている頃合いだろうな……鉄の棒を以って突撃を敢行するような指揮官もいないはずがない。なるべく犠牲者を出したくはないのが余の考え方だが……どうしたものか……」


そう、この時代における有色人種に対する扱いは北米複合産業共同体ではあまり芳しくない。

南部を中心に黒人奴隷制度が残っており、南北戦争においても大規模なモノカルチャー経済を維持していたアメリカ南部地域においては、黒人奴隷による綿花栽培によって経済が成り立っていたことも大きい。


主に黒人奴隷であっても、実際には契約雇用に近い形で労働していたとされているが、現代においてはこうした価値観は『悪』と見なされており、一時期は博物館や公園などで南軍将校の像であったり、南軍旗であるレベル・フラッグが撤去される事態となった。


この世界においては、黒人奴隷などは名目上では廃止こそされたが、その多くの有色人種は三等市民としての扱いを受けており、彼らを使い潰すような重労働を押し付けて疲弊させているのだ。

故に、この歪な構造を打開するためにも北米複合産業共同体を下さなければならないのである。

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