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1067:極東見聞録(上)

★ ★ ★


1797年3月29日


李氏朝鮮 慶尚南道けいしょうなんどう東萊府とうらいふ


転生者である李容九は、蒸気機関を使用した東萊府において蒸気機関の工場を作り、この蒸気機関の工場だけにとどまらず、周辺地域においても蒸気機関を搭載した機械と連結させた水車による穀物の脱穀機と組み合わせて、小麦粉を生産する工場へと繋がっていく。

特に、容九が試みたのは水車の普及であった。


「我が国の発展に必要な物は、農民や平民の質を向上させるために水路を整備し、そして水車を普及させることだ。これが出来なければ我が国の繁栄はあり得ないのだ……」


水車は李氏朝鮮において何度か導入が試みた設備だったものの、あまり普及することはなかった。

主な要因として、李氏朝鮮時代における支配階級である両班による支配体制と、歯車などの車輪技術が殆ど進んでいなかったことも合わさって、李氏朝鮮時代を含めて水車の導入は末期の19世紀終盤に入ってから日本などから輸入する必要があったのだ。


民族の発展に欠かせない水車の導入は蒸気機関の時と同じく、両班側からの嫌がらせ行為が横行したのだ。

これは主に彼らが特権階級であるが故に、自分達の贅沢な暮らしが中流階級の身分の者に邪魔されるのが気に食わなかったという事と、容九が建築した蒸気機関工場で生産された蒸気機関によって工場で働いている者達が、身分関係なく勉学を学びつつ技術を取得したのも大きかった。


両班にとって、彼らの有している知識こそが他の身分の者達に勝てる武器であると自負していただけに、堕落していた者達よりも自分達の暮らしを良くしようと奮闘し、昼は工場で働き、夜は夜間の自主学習という形で容九の教育を受けたことで、文字の読み書きが出来なかったものでも、自分の名前を書けるようになり、計算などもできるようになって初等教育に相当する教育カリキュラムを学んだ者達がせっせと蒸気機関や水車を生産していたためだ。


故に両班はこれを脅威と見なして、時の権力者であった正祖宛てに「容九の計画は停滞しており、畏れ多くも国王陛下より賜った資金を博打等に使っているのではないか?」という嫌疑を掛けるような行為までしてくる始末であった。


最も、実績と同時に東萊府に派遣されていた役人は正祖からの要請により容九の生産体制が基盤となって生活水準を挙げている旨を逐一報告していた。

その報告内容も具体的でより実りあるものであったことから、両班が連名で出したものよりも信頼に足りると判断し、両班からの嫌疑を突っぱねることが出来たのだ。


とはいえ、彼らはこうした嫌疑が失敗に終わったことを知るや否や、容九らの工場に納品される予定だったはずの木材や釘などの必要な物資の搬入を妨害する計画を実行し、こちらは汚職役人も加わったことでそれまで利益を出していた容九の蒸気機関の工場の操業が停止する日々が発生することもあったのだ。


「容九様、今週もまた木材が不足しております。当初の予定では再来週までに機材を生産する予定でしたが、もう二週間ほど遅れてしまいます」

「うむ、これもまた我々の事を脅威と見なしている両班の嫌がらせだろう。だが心配せんでもいい。彼らは直接的なやり方で攻撃はしてこない。そんなことをすれば国王陛下への当てつけとなって自分達にも被害が及ぶ事を理解しているからな。彼らの出来る事といったらこういった資材の搬入を妨害する程度の嫌がらせだ……我々に危害を加えるつもりはない。多少計画より遅れても生産体制を上げるための設備を整えることが出来るように確実に実施できるように各所に伝えを出してくれ」

「はっ!」


こうした妨害行為により当初の予定よりも遅れてしまったものの、生産体制を上げることができると証明するために、水車などを東萊府の各所に設置した上で、水路の敷設工事や地下水を汲み上げるための装置として蒸気機関を活用するに至ったのである。

特に、農村部にとって蒸気機関や水車の導入は、これまでの手作業の作業を一変させることが出来るものであり、まさにこれまでの農業体制を一変させることができる代物でもあったのだ。


農村部を中心に揚水機能の向上に役立てることが出来る上に、蒸気機関の導入が難しい山間部において麦や稗などの穀類を製粉化し、さらにこれらの穀類に栄養がある事を知っていた為、食糧事情の改善につなげるために蒸気機関の工場で発生した利益を地域に還元したのである。


還元の主な内容としては、蒸気の水路の敷設や地下水を汲み上げて灌漑を行う作業などを率先して行い、それまで未開拓の状態であった東萊府郊外の閑散部の土地を買い取り、工場に勤務する者達を中心に整備を行い、それを奴婢や白丁として差別を受けていた者達に土地を与えて、この土地で生産された穀物を工場側が正規の値段で買い取り、利益の半分を肥料代や農具代として渡したのだ。


この行為はまさに当時の人々を中心に衝撃を齎したのである。

まず容九が行った奴婢や白丁といった身分差別を受けている者達の中にも農業に精通しているものがいることを見抜き、彼らに土地を無償借用までして穀物の収益を還元するという行為は、当時からしてみればまさに温情を通り越した慈悲ともいえるものであった。


さらに、他の地区で生産されている農業と比較するために、水車や蒸気機関を活用して穀物の収穫後の製粉化や地下水の汲み上げに掛かる時間を短縮できるかという作業を比較したデータを詳細に上層部に報告したのである。


それまで、穀類などを製粉化するためには人力作業を中心に行われていた為、多大な労力と時間を有する必要があり、穀類の製粉化は人力で石臼などで回して8kg前後が限界であったが、水車などを活用した製粉化の場合は100kg以上の製粉化をする事が出来たのである。

これにより、それまで数週間かけて麦や稗などの穀類の製粉化を行っていたものを、僅か4日程度で終わらせることが出来た。


また、蒸気機関を使った地下水の汲み上げポンプを導入したことで、安定した水源を確保することができるようになり、それまで遠い場所の水を求めて片道一時間かけて歩いていた者達も、徒歩10分程度の場所で安全な地下水を汲み上げて飲むことが出来るようになり、農業面であったり生活面においてこれらの発明品が役に立てる事を証明したことで、目に見える形で水車や蒸気機関の有効性を実証したのである。


彼は複合的な産業構造改革を実施することに成功したのである。

東萊府において、他の地区と比べても容九の指導している地域の生産能力は大きく向上し、開拓した土地で生産された穀類なども多くの地域で販売される事となった。

すでにこの東萊府では工場関係者となって勤務している人間は1000名を超えており、当時の人口比と比例すれば50人に1人が何らかの形で工場に携わっている人間であるというわけだ。


東萊府において、容九はこの地域の両班に技術面での実力を見せつけた上で、正祖に対して成果を出して改革の有効性を実現し、それを報告することにより少しずつではあるが、朝鮮半島にも水車や蒸気機関が生産し、配備が進められたのであった……。

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