1065:祭壇
欧州協定機構の方針を取りまとめることになり、一先ずオーストリアやスウェーデン、スペインとの共同で北米複合産業共同体のスパイ網を摘発することとなる。
これらの国で浸透していた事が判明している以上、他のネーデルラントやポルトガル、それに我が国にも彼らのスパイ網がまだ活動をしていると睨んだほうがいい。
特に、これらのスパイ網は情報収集だけでなく、現地の会社に擬態して裏社会との関係を持ち、内部工作として使うことを目的としているため、本国との連絡が遮断されても独自で行動できるようにしている所が厄介な話でもある。
(仮に欧州協定機構内に浸透しているとして……彼らが国内の問題を助長させたり、破壊活動を行おうとしているとすれば、裏社会の人間と手を組んでいると見なしたほうがいいな。実際にケルンでは薔薇十字団の残党と一緒に贋金を作っていたわけだし、ストックホルムでは人材派遣業の会社を隠れ蓑に人身売買や未成年者であっても容赦なくいかがわしい店に斡旋する事業をしていたんだ。他の国でもスパイたちが隠れてやっていると見なした方がいい)
裏社会との繋がりがあれば、彼らは隠れて行動を共にしていると見た方がいいだろう。
腐っても裏社会との繋がりは金と縁が切れるまではずっと一緒になって行動している事が多い。
かの東欧で起こっていた戦争でも、裏社会だけは国家が違えど協力をしていたとする証言もあるぐらいだ。
戦争によって国家間の関係が断絶状態になっていたとしても、その裏社会と組織が綱がりを持っていた場合は、資金力とコネクションが継続していれば、存続することができるというわけだ。
裏社会は、切っても切れない存在である。
これは権力闘争に敗れた勢力でも、国外に脱出したりして影響力を保持することに似ている。
有名な話だと、黄金の三角地帯の話がある。
かの第二次世界大戦後に、日本が中国大陸から去った後は中国国民党政府と中国共産党政府との間で戦争が起こり、第二次国共内戦時には国民党軍は蒋介石を率いて台湾に逃げたのだ。
だが、台湾に逃げ切れた部隊はともかく、中国南部にいた部隊の一部が共産党への投降を拒否して東南アジア地域と面している密林地帯に逃げ込んだ。
そこで正式な停戦と武装解除がされる1990年代まで一定の軍事力を保ち続けていたこともある。
これらの軍部隊の中には、麻薬産業で生計を立てて密林地帯での高純度の違法薬物を精製する事業で成功を納めて『黄金の三角地帯』と呼ばれる一大製造拠点となり、結果として世界でも有数の麻薬製造地帯になった例が存在するのである。
この黄金の三角地帯は、当然ながらアメリカは共産勢力が拡大するのを防ぐ目的で『黙認』しており、結果としてこれらの地域で精製された高純度の麻薬が世界各国に流入して問題となったのである。
現代においてもこれらの地帯では麻薬の生産がご法度となって摘発されている地域もあれば、密林かつ東南アジア諸国が入り混じっている国境地帯ということもあり、政府が黙認して未だに麻薬絡みを精製して生計を立てている地域もあるらしく、すでに地域の基盤産業となっている場所もあり、これらの地域では軍部や地域の有力者と癒着して生産されている薬物が市場に流れていると噂されている。
そして、この世界においてロンドン革命政府や薔薇十字団の残党、北米複合産業共同体が国家や組織の枠組みを超えてアンダーグラウンドの世界において暗躍する役割を背負っていることになるのではないだろうか。
北米複合産業共同体や薔薇十字団の残党も、当初は合法だった阿片の密売などで儲けていたらしく、重い咳の症状を出している病人以外への売買が制限された際には、汚職をしている医師と結託して売りさばこうとして逮捕された事例もある。
この時も、逮捕された者の中に薔薇十字団の関係者がいたケースがあったりと、裏社会経由で繋がったルートを通じて、彼らが社会に溶け込んで活動しているのが良く分かる。
(彼らの行動は社会への浸透と、裏社会との関係構築であるならば……近い将来にさらに派手な行為をする可能性もある。テレーズ妃を暗殺しようとした革命政府の元軍人の攻撃に関しても、生き残っていた革命組織による攻撃であったが、要人暗殺を主体とした方法に切り替えた場合、彼らは最後の力を振り絞って王族や大臣の暗殺という行動に切り替える恐れもある。欧州協定機構加盟国全体で要人保護を徹底する必要がある)
そして何よりも恐ろしいのが、要人を狙った暗殺事件を北米複合産業共同体側が仕掛けてくるケースだ。
これは戦局が打開できない状況に陥ってしまい、本国が降伏して自分達のスパイ網が明るみになってしまった場合に、起こりうる最悪の事態だ。
スパイにとって自分の正体を知られるのは死刑宣告に等しく、裏切り者として国によっては死刑となる国も珍しくない。
故に、死刑になる前にスパイたちが破壊工作の一環として要人の暗殺を目論んで行動を行うケースを想定しなければならない。
そんな事起きないだろうと思いたいのだが、テレーズが暗殺されそうになったり、グスタフ陛下も史実では仮面舞踏会の最中に背中を刺されて暗殺されてしまっているのだ。
暗殺という手段で世論を変えてしまう例はいくつかある。
日本でも尊敬していた元首相が銃で暗殺された時、報道機関は元首相が白昼に銃で殺害されるという事よりも、彼を殺害した犯人に対して同情的な論調を流して世論を変えてしまったことがある。
結果として、翌年に当時の首相が応援演説をしに来た際に爆弾が投げつけられる事件が起こり、日本において暴力的な行動を起こせば世論を変えることが出来ると考える一部の過激な犯人が誕生する土壌が産み出されてしまったのだ。
これはフランスにも起こったことでもある。
フランス革命の嵐が吹き荒れていた1792年から1795年までのフランスでは、国内は大いに荒れて王族だけでなく、王党派への粛清や反革命的と見なされた人物の裁判なしの処刑や集団暴行が当たり前になっていたのだ。
粛清やそれに次ぐロベスピエールによる独裁政権、さらにそのロベスピエールが粛清を強硬したことで反発を生んで処刑されたことを踏まえれば、血で血を洗う内戦と革命戦争によって殺し合いを是とする世の中になってしまったのだ。
この革命時における世論や理論などは現代でも受け継がれている上に、革命をヨーロッパ諸国に広めた上に一度はナポレオンによってロシア以外の欧州各国を勢力圏に置いたことで「革命こそが正義である」という考え方を現代でも持っており、それが他の人種への差別の根本を形成しているのではないかとすら言われているのだ。
諸外国と連携し、これらの事態に対処するべくまずはフランス国内の対策を急がせるべきだろう。
シャルルの社交界デビューも順調に進んでいるようだ。
遠くからシャルルの様子を会合が終わった後に見たが、しっかりと人脈作りを行っていた。
俺は自分の息子がしっかりと成長している姿に安堵し、パーティーが終わるまで見守っていた。




