104:蛇の尾
第三者の内面を描くのがすきなので初投稿です。
コメントお気軽にお申し付けください。
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アントワネット達が着付け作業をしている間、中立派をまとめ上げているポリニャック伯爵夫人は上機嫌に振る舞っていた。
アポロンの泉水で屯している中流貴族を相手に穏やかに談話をしている。
ポリニャック伯爵夫人にとって、上流貴族ほど鼻が高く無く、かといって下級貴族に比べたら財力のある中流貴族を自分達の派閥に取り込むことを優先していたのだ。
取り込む際に使われている謳い文句。
それは”国王陛下の行う事業に投資をすれば利益が見込める”というものであった。
「それにしても国王陛下は賢明な御方ですわ。まだ17歳になったばかりだというのに、諸外国の国王と引けを取らないほどの内政手腕を見せておいでですもの。皆さんもそう思いませんか?」
「全くだ、国王陛下は国民の暮らしを良くしようとしてくれているからな」
「陛下に従っていれば我らの安泰は確約されたも同然ですな」
「ええ、ですから国王陛下が行う事業に投資をすれば必ず莫大なお金が発生しますわ。その投資先をきちんと理解していれば利益は必ず出ますのよ、皆さんも投資致しますか?」
「ああ、勿論ですよ」
「今投資をしなければ損だ」
「是非とも事業で協力させてもらうよ」
今、新たに3人の中流貴族を中立派に取り込むことに成功したポリニャック伯爵夫人。
女の武器である誘惑と魅力的な投資事業の見返りの金。
もっと上を行きたい、贅沢をしたいと思う中流貴族の購買意欲を刺激し、彼らはポリニャック伯爵夫人の言葉に誘われてホイホイと契約を交わしてしまうのであった。
(そうよ……!権力とお金さえあれば何でもできるわ……!そう、何でも!こうやって貴族から金を巻き上げる事だって出来るもの……今夜のダンスの時間にどれだけの人を巻き込めるかしら?)
ポリニャック伯爵夫人は内心では邪悪な笑みを浮かべて笑っていた。
かつて自分に無関心だったくせに、今こうやって必死に食いついて投資を行おうとする貴族達を軽蔑しており、それと同時に、今現在宮殿において改革派に次ぐ勢力としてのし上がっている事に興奮していたのだ。
ポリニャック伯爵夫人は去年まで宮殿内で冷や飯を喰らっていた。
生家は借金で傾いていて4年前にポリニャック伯爵家に仕えたものの、数十年前にクーデター未遂事件など王政の権威失墜に関わる大事件を引き起こした家柄ということもあってか、伯爵家とは名ばかりの立場で周囲もあまり寄り付かない曰く付きの家柄であった。
つまるところ、結婚する前も後も……立場上は伯爵夫人でもヴェルサイユ宮殿では末端勢力として冷遇されていた存在でもあったのだ。
この時に、彼女の心には大きな野心が産まれたのだ。
(今に見ていなさい!私は……私は絶対にのし上がって見せるわ!私をバカにしていた人達も……絶対に見返してやるんだから!)
野心……いや、復讐心も混ざっているのだろう。
地位では偉いはずなのに、他の貴族や召使い以外の女性たちからあまり見向きもされない自分が惨めで悔しかったのだ。
惨めな想いをしたことにより、伯爵夫人は自分を見下していた貴族連中にいつか復讐してやりたいという想いが支配していた。
……そんな復讐を狙っていたポリニャック伯爵夫人の運命を変えてしまったのが、オーギュストの宮殿内における発言力・政治権力の拡大であった。
今まで物静かであまり人前に姿を見せなかった王太子が、アントワネットとの結婚一か月前あたりから人が打って変わったように明るく活発な性格に変貌したのである。
叔母であるアデライードやヴィクトワールに意見を出してアントワネットを守るように庇ったし、何よりもルイ15世陛下がアデライードに襲撃された赤い雨事件では、陣頭指揮を取って事件解決まで先頭に立って行動を起こしたのだ。
まだ子供のようにおとなしかった若い王太子が、一気に大人になったかのような豹変ぶりは、ポリニャック伯爵夫人に強い衝撃をもたらしたのだ。
(もしかして……王太子殿下は今まで牙を見せていなかっただけなのでは?だとしたら……彼に黙って従っていれば邪魔な人間は消えていなくなるかも……)
そう思ったポリニャック伯爵夫人は目だった行動を控えて黒子に徹したのだ。
これが功を奏し、アデライード派やオーギュスト主導で行われる改革に対して反改革派の筆頭であったオルレアン家がヴェルサイユ宮殿から姿を消したことにより、改革派の貴族達が幅を利かせるようになると、ポリニャック伯爵夫人も今まで蓄えていた資金を使ってオーギュストの行う事業への投資を自身の配下にある民間企業を通じて行うようにしたのである。
あくまでもポリニャック伯爵夫人はこうした民間企業への仲介役に過ぎないが、国営事業として建設が進められている上下水道の敷設や、産業投資などのスポンサーとなって中流貴族から得られた資金を回して、さらにより大規模な資金投資を行うことで事業を加速させていったのである。
マルチ商法に類似してはいるが、それでも国から助成金を貰い建設を進めている為、この事業では投資すれば確実に投資分の利益が得られるのだ。
将来を見越せば投資額の数倍以上は確定しているようなものであり、その仕組みを理解して即実行に移したポリニャック伯爵夫人は合法的に資金力と影響力を持つ中立派として台頭したのである。
その影響力は保守的な中流貴族を中心に絶大であり、投資内容も嘘偽りなく精確なデータを提示することによって清く正しいことをしているというイメージを植え付けることによって大勢の顧客から投資を得ることに成功したのだ。
そんな彼女が次に狙いを定めているのは、より大きな獲物であり、かつ自分がのし上がるキッカケを産み出してくれた国王陛下や彼の親愛なる妻へと向けられていくのであった。
(このまま私はもっと……もっと大きくなるのよ。そうして国王陛下や王妃様に気に入ってもらえれば……フフフ、どんな顔を見せてくれるのかしら?)
その眼差しは蛇のように鋭く、そして着実に国王陛下の足元に忍び寄るのであった。




