1042:快晴
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1796年12月30日
フランス ヴェルサイユ宮殿
いよいよあと一日で大晦日だ。
今年も色々あったが、思っていたよりも北米大陸での戦争は欧州協定機構軍が有利に進んでおり、現在までにアトランタ~チャールストンまでの地域を制圧し、これらの地域で活動していた北米複合産業共同体の警備隊を撃破し占領を開始している。
多くの地域で民衆蜂起が起こっており、いずれの地域でも虐げられてきた二等・三等市民らの蜂起によって北米複合産業共同体の警備隊が支配していた後方から焚きつけられるように反乱が相次いだのである。
年度末という事もあって、12月初頭までの戦況図を見せてもらったが、アトランタ付近では多くの三等市民や有色人種が蜂起を起こしたことで、前線が崩壊してフランス第三軍が進軍を開始して市街地の大部分を占領したという報告をデオンが持ってきてくれたのである。
「年度末にすまないね……」
「いえ、これも仕事です故に……陛下のお心遣いありがとうございます。それで、我が軍の進軍状況ですが、アトランタとチャールストンまでをスウェーデン、ポルトガル軍を主力とした部隊で制圧。今現在北米大陸では冬になった影響で、進軍速度が低下しておりますが……これらの地域を拠点として春までにさらに北上できるように部隊の再編成を行うとのことです」
「うむ……パッと見た感じでは北米大陸の南部地域の大部分は制圧できたみたいだね」
「はい、ですが問題も生じてきております。北米大陸の土地が広大であることから、守備隊や治安維持に必要な憲兵隊の人数が不足してきております、現地住民を臨時で採用している場所もありますが……如何せん、彼らが虐げられてきた反動も相まって、住民に対して強権的なやり方で抑圧的行動を起こすため問題が生じているのです」
「……すると、現地住民を協力者として軍の一部に組み込んでみたものの、あまり使い物にならない状態であるという事かね?」
「恐れながらその通りです。一部に関しては契約軍人としての地位を悪用した略奪行為や婦女暴行等の軍規違反に加担していた為、現地の憲兵隊や国土管理局の職員によって軍事裁判に掛けられて有罪とし、労働刑や絞首刑等の処分を受けております」
「うむ……彼らの多くが虐げられてきたという事に対して酷くコンプレックスを抱いているからな……面接で適性検査を受けていたとしても、少人数になった際にそういった狼藉行為を起こしてしまう者も居るのだろうな……しばらくは分隊以下の少人数によるパトロールは正規軍のみで行うようにし、小隊規模や巡回警備業務等に現地民を回すように配置転換をしたほうがいいな……」
あまりよろしくない報告ではあるが、現地で治安維持目的のために採用した契約兵士の間で狼藉行為を行う者が居たという。デオンは正直に報告してくれたが、その数は二桁代に上っており、計算上報告されているだけでほぼ毎日だれかが多かれ少なかれ違反している状態になっていることが示されてしまったのである。
現地民を急造の契約軍人として採用する事は古今東西昔からやっている事ではあるが、如何せん士気が低かったり、占領軍がバックにいることに虎の威を借りる狐のような状態となってやらかしをする連中がいる事も事実だ。
これは今まで虐げられてきた分の反動を契約とはいえ軍人となった者が取り返そうとしている事にも繋がっており、そうそう簡単に治るものではないのだ。
曰く、警備隊の連中は三等市民などから食糧などを接収した上に、中には接収を通り越して略奪行為や婦女暴行などの犯罪行為に走る者まで現れたという。
こうした事態を受けて、捕縛した警備隊の隊員を尋問したところ、囚人兵などが主に組織的に今までのフラストレーションを発散させるべく行動を起こしていたことが判明したのである。
何とも言葉にできないような嫌な感じが漂っているが、これが戦争なのだ。
戦争のことを考えるのはあまり気分は良くはないが、これもアントワネットと幸せに暮らしていくためには必要なことだ。
故に、犠牲なども必要最小限にとどめるべきだろう。
北米大陸の事は正規軍人と国土管理局に任せて、俺はあくまでも作戦の最終承認などを行う係として徹していればいい。
すでにフランスは立憲君主制に向かって道を歩み始めている。
議院内閣制のための仕組みづくりを草案として取り組んでいるが、この条件なども色々と設けているつもりだ。荒唐無稽な出まかせみたいな事を言って議席を獲得するような極端な政党が出ないように、実現可能かつ選挙を行う際には発言者に対して相手に対して暴力を煽ったり、政党や個人を攻撃するような言動を制限。政党に関しても君主は原則として中立を維持して内閣組閣を承認する立場であると同時に、内閣が戦争などの重大事項を決定する際に最終判断を仰ぐことなどが定められた。
それに加えて議員に関しても、脱税や議員の地位を利用した悪質な汚職行為の禁止などを盛り込んで、憲法にも議会制民主主義を実現するために広く国民に審議を行って意見を取りまとめることなども入っている。
直ぐにはできないだろうが、いずれ大正デモクラシーの時のような開明的な国家体制が実現できそうだ。
さて、話は変わるが、大晦日に食べていた年越しそばなどが懐かしく感じる頃合いだ。
かれこれ転生してから26年も経過しているとなると、日本食に関しても平賀源内の使節団がやってきた時ぐらいにしか食べたことがない。
一応、シェフの人達が日本料理のレシピを持っているので、それっぽいのは作れるんだが……。
(やはり醤油と味噌……大豆製品を使った料理の成熟方法が難しいからここだとそれが手に入るのに凄く苦労してしまう……)
そう、日本人が多く使っている料理のスタンダードともいえる調味料である醤油と味噌が、長距離移動に適していないためか、前に一度フランスまで輸入した際には醤油も味噌も長距離輸送をしている間に温度管理が失敗していたこともあり、宮廷料理人が味を確認した際に駄目になっていると告げて残念ながら破棄してしまった経緯があるのだ。
フランスで作らせるという方法もあるのだが、今のところ日本料理は『高級珍味』扱いであり、そうそう食べられるものではないので、青龍などに移民としてやってきた日本人の中から料理人であったり、醤油や味噌の製造経験がある人物を雇って、3年前からリヨンで製造しているが、やっと醤油と味噌はやっとこさそれっぽいのが完成できたこともあり、蕎麦なども作ってくれる上に、明日日本食が披露されることになったのである。
(やっと……やっと本場の日本食が食べれるぞ……それも年越しそばを……!)
体感的に転生前に食べた事を踏まえれば実に27年ぶりに年越しそばを食べることが出来るのだ。
こればかりは嬉しさで一杯である。
26年……いや、年越しそばとなれば27年ぶりに食べる食事だ、今から日本料理が楽しみで仕方ない。
前世の記憶を持っていてもなお、日本食はどうしても恋しくなるものだ。




