102:接点
「陛下、17歳のお誕生日おめでとうございます!」
「「「おめでとうございます!」」」
「ありがとう」
国土管理局に赴くと一同から誕生日の祝福を祝うメッセージを受け取った。
すごいな、一般の職員も礼服に着替えているし……。
ささやかながらも、こうやって顔なじみの人達から祝福されると嬉しいね。
ハウザー氏を中心に、いつもの改革派メンバーが集合していた。
「皆さん、改めておはようございます。ハウザー氏にネッケル氏……それにコンドルセ侯爵、ボーマルシェ氏も……ランバル公妃とルイーズ・マリー夫人は?」
「はっ、女性陣でしたらアントワネット妃とご一緒に衣装のお手伝いに伺っております。随分と張り切っておりましたよ」
「そうだろうねぇ……何しろ久しぶりの公的な意味でヴェルサイユ宮殿でパーティーを開くことになっているからね。それに、女性はファッションとお菓子には必ず夢中になるものさ」
古今東西、女性の好きなものはたいてい決まっている。
それは綺麗なドレスなどの最先端のファッションと甘くて舌がとろけそうなほどに甘いスイーツが好きなものさ。
昔、ネット記事で見たことがあるが、デートの時には甘いデザートを出してくれるお店に行くと好感度がアップすると書いてあったんだ。
多分間違いない筈だ。
「ハハハ、やはり女性は女性同士で話し合うのが気が合いそうでございますな」
「アントワネット妃も、ルイーズ・マリー夫人も歳が近いからねぇ……ある意味同世代というわけです」
「なるほど、アントワネット妃もランバル公妃とルイーズ・マリー夫人の三人でどんな衣装を着るのか相談しているのかなぁ……ちょっと気になるね」
「ほぉ……陛下も気になりますか?」
「勿論、妻ですもの。愛する人がどんな姿で登場するのか……気になる」
アントワネットの衣装がどんなものになるのかチョット気になりますねぇ。
やはり派手すぎず、かといって地味ではない感じの衣装になるのかなぁ?
ランバル公妃やルイーズ・マリー夫人の三人で衣装の取り決めなどをしているみたいなので、完全に三人は乙女の世界に入り込んでいるのだ。
ここに、俺が飛び込むというのは野暮すぎるし、余程の緊急事態でない限りはアントワネットらに任せておくのがベストだろう。
コルセット装着するみたいな話が出てきているらしいけど、身体のラインが強調されるような感じの服装になるかもしれない。
ビキニ水着みたいなセクシーで……エロイ!という派手さはないにしても、この時代では十分に魅力的な服を着て来るだろう。
ちょっとだけ、楽しみにしているのさ。
さて、穏やかな話はここまでだ。
これから先はちょいとばかり難しい話になる。
「まだ社交辞令を行うまでに時間が空いているからね。それと改めて中立派への工作も兼ねて接触を図ってもらいたいのだが……やれるかい?」
「ええ、やりましょう。宮殿内だけでなくパリ市内にもいくつかサロンと称して拠点を作っているのが気になりますね」
「ハウザー氏、やはり彼らは弟のスタニスラスを狙っているのでしょうか?」
「可能性としては十分に考えられます。王族関係者に接触して関係を構築しようとしているのでしょう。それだけならまだしも、これまで改革派とも反改革派・保守派などに付かなかった勢力を取り込もうとしているのは少々厄介です。私からは釘を打ち込むことを進言致します」
ハウザー氏がポリニャック伯爵夫人に注意をすべきだと進言するぐらいに、彼女の勢力はここ最近になって急に勢力を拡大してきている。
しかもだ、公的資金を使わずにサロンなどで集めた投資話などを元手に店舗を構えているようなので、やり方としては詐欺でもないのでグレーゾーンな活動なのだ。
恐らく莫大な資金力を獲得したら、王族関係者をパトロンにして資金を巻き上げる事を考えているかもしれない。
フランス史における悪女としても名が上がっているほどだからね。
仮に、彼女が転生者だったとして悪役令嬢転生ならぬ悪役貴族転生で、俺と同じように将来の革命を回避するべく行動している人だとしたら……。
いや、ないな。
そんなにうまくとんとん拍子に進んでいったら苦労しないさ。
ダンスをする際に、それとなく声を掛けてみよう。
そして真意を探ってみるのも一つの手かもな。
俺はハウザー氏の進言を受け入れる。
「分かった。彼女と社交ダンスの場で踊る機会を作ろう。その時にそれとなく彼女本人に探りを入れる。もし、疑うべきところがあれば釘を刺しておく」
「はっ、宜しくお願い致します」
「みんなもポリニャック伯爵夫人を中心に、彼女と接点のある人物と接触して怪しい奴がいたら必ず報告するように。彼女は……魔性だからな」
国土管理局の主要メンバーも、招待参加としてこの誕生日会に出席する手筈を整えている。
半分は社交辞令であると同時に、もう半分は中立派の調査に当たる。
こういう時は彼らも一般参加者に紛れ込んでもらい、調査を行う事を命じている。
特に、中立派の筆頭ともいえるポリニャック伯爵夫人並びにその関係者は要注意人物だ。
そうした点を注意しながら探りを入れて貰うようにお願いしてから、いよいよ俺も本格的な公務を開始するのであった。




